FEATURE特集

  • 2024年3月号|特集 作詞家の世界

    • 【Part3】からの続き)

      懐かしんでもらえるのは嬉しいけれど、若い人たちが聴いてくれるのはもっと嬉しい

      ──これまでの作品で、詞を先に書かれたものというのは結構あったのでしょうか。 山上路夫 あまりないんですよね。「岬めぐり」とかはそう。「瀬戸の花嫁」も途中まではそうでしたけれど。僕の場合、だいたいは曲が先ですね。下手なんですよ、詞から先に書くのは。若い時から歌謡曲を一生懸命勉強していたもんだから、どうしても七五調になっちゃうのね。だから新しいリズムみたいなものは、曲が先じゃないと書けないんですよ。作曲家も、村井邦彦みたいに曲が先じゃないと書けないっていう人もいるみたいですけど。「岬めぐり」は山本コウタローさんが神奈川県の三浦辺りのイメージを思い描いていたらしいけれど、僕としては北海道から九州まで、全国各地でバスに乗って海を見た風景を重ねて書いたんですよ。だからやっぱりよく舞台はどこかと聞かれますけれど、特定の場所ではないんです。

      山本コウタローとウィークエンド 「岬めぐり」 1974年6月1日発売

      ──若き日の上沼恵美子さんがお姉さんと一緒に歌われた「大阪ラプソディー」も数少ない詞先の曲と伺いました。 山上路夫 猪俣公章さんとの歌づくりはいつも詞が先でしたね。あの曲にはいろんな想い出があるんだよね。まずひとつは、大阪の人がずっと歌ってくれているんですよ。それがすごく嬉しい。もうひとつは、歌を作るに際して、ビクターに鶴田(哲也)さんという演歌系の天才的なディレクターがいまして、ヒットをバンバン飛ばしていたんだけど若くして亡くなっちゃった。直木賞を獲った山口洋子さんの『演歌の虫』っていう小説のモデルにもなった人です。その人が家に来て、「大阪ラプソディー」を作ってくれって。最初は大阪の歌をって言っていたんだけれど、そのうちに「東京ラプソディ」があるんだから「大阪ラプソディー」っていうのもあっていいんじゃないかねって話になって。それで詞を書いて猪さんに渡したら電話がかかってきて、「ミッちゃん、これ、長くて書けないよ」っていう。彼はやっぱり演歌の人だから、普段は詞が5行ぐらいで短いんだけど、僕が書いた詞は言葉数が多くて9行もあったので。だけどこっちにも計算があったから、「パソ・ドブレ(ラテンダンスの一種)かなんかにして景気いい感じで書いてくれ」って猪さんに頼んだんですよ。そうしたらしばらくしてまた電話がきたのね。「ミッちゃん、ミッちゃん、いい曲書けたよ。今から歌うからね」って言って、電話の向こうで歌い出したの。どこかのお店らしくて、周りがガヤガヤしているんだけど、前奏から歌い出すんですよね。赤電話だから途中で切れちゃったりして、周りのお供の人かなにかに「馬鹿野郎、10円玉早く出しやがれ」なんて言いながら歌っているのがおかしくてね。それがちゃんと売れて良かったんですけど。早くに亡くなってしまった鶴田さんも非常に喜んでくれた。そんな想い出があるもんでね、今回の作品集にも是非入れて欲しいとお願いしたんです。

      海原千里・万里 「大阪ラプソディー」 1976年2月25日発売

      ──今回の作品集には、ヒットソングやCMソングのほかにも、ドラマやアニメのテーマソングも多数収められましたね。&header=tag" class="m-content-list-card__img-wrap_link u-hover-zoom-wrap">
      【Part3】からの続き)

      懐かしんでもらえるのは嬉しいけれど、若い人たちが聴いてくれるのはもっと嬉しい

      ──これまでの作品で、詞を先に書かれたものというのは結構あったのでしょうか。 山上路夫 あまりないんですよね。「岬めぐり」とかはそう。「瀬戸の花嫁」も途中まではそうでしたけれど。僕の場合、だいたいは曲が先ですね。下手なんですよ、詞から先に書くのは。若い時から歌謡曲を一生懸命勉強していたもんだから、どうしても七五調になっちゃうのね。だから新しいリズムみたいなものは、曲が先じゃないと書けないんですよ。作曲家も、村井邦彦みたいに曲が先じゃないと書けないっていう人もいるみたいですけど。「岬めぐり」は山本コウタローさんが神奈川県の三浦辺りのイメージを思い描いていたらしいけれど、僕としては北海道から九州まで、全国各地でバスに乗って海を見た風景を重ねて書いたんですよ。だからやっぱりよく舞台はどこかと聞かれますけれど、特定の場所ではないんです。

      山本コウタローとウィークエンド 「岬めぐり」 1974年6月1日発売

      ──若き日の上沼恵美子さんがお姉さんと一緒に歌われた「大阪ラプソディー」も数少ない詞先の曲と伺いました。 山上路夫 猪俣公章さんとの歌づくりはいつも詞が先でしたね。あの曲にはいろんな想い出があるんだよね。まずひとつは、大阪の人がずっと歌ってくれているんですよ。それがすごく嬉しい。もうひとつは、歌を作るに際して、ビクターに鶴田(哲也)さんという演歌系の天才的なディレクターがいまして、ヒットをバンバン飛ばしていたんだけど若くして亡くなっちゃった。直木賞を獲った山口洋子さんの『演歌の虫』っていう小説のモデルにもなった人です。その人が家に来て、「大阪ラプソディー」を作ってくれって。最初は大阪の歌をって言っていたんだけれど、そのうちに「東京ラプソディ」があるんだから「大阪ラプソディー」っていうのもあっていいんじゃないかねって話になって。それで詞を書いて猪さんに渡したら電話がかかってきて、「ミッちゃん、これ、長くて書けないよ」っていう。彼はやっぱり演歌の人だから、普段は詞が5行ぐらいで短いんだけど、僕が書いた詞は言葉数が多くて9行もあったので。だけどこっちにも計算があったから、「パソ・ドブレ(ラテンダンスの一種)かなんかにして景気いい感じで書いてくれ」って猪さんに頼んだんですよ。そうしたらしばらくしてまた電話がきたのね。「ミッちゃん、ミッちゃん、いい曲書けたよ。今から歌うからね」って言って、電話の向こうで歌い出したの。どこかのお店らしくて、周りがガヤガヤしているんだけど、前奏から歌い出すんですよね。赤電話だから途中で切れちゃったりして、周りのお供の人かなにかに「馬鹿野郎、10円玉早く出しやがれ」なんて言いながら歌っているのがおかしくてね。それがちゃんと売れて良かったんですけど。早くに亡くなってしまった鶴田さんも非常に喜んでくれた。そんな想い出があるもんでね、今回の作品集にも是非入れて欲しいとお願いしたんです。

      海原千里・万里 「大阪ラプソディー」 1976年2月25日発売

      ──今回の作品集には、ヒットソングやCMソングのほかにも、ドラマやアニメのテーマソングも多数収められましたね。&header=tag" class="m-content-list-card__text-wrap_link">

      【Part4】山上路夫 スペシャル・ロングインタビュー

      47 件公開

  • 来生たかお 『Sparkle』 1981年7月21日発売 配信はこちら ▶ 1. Much more…(Introduction) 2. Easy Drive 3. メモリー・メロディー 4. Goodbye Day 5. 夢の肌 6. たそがれの苺 7. Sparking head 8. Good luck my girl 9. 気配 10. 窓辺の女 11. ゆっくり夏が 12. コラージュ 13. Much more…(Reprise) 様々なシチュエーションを鮮やかな筆致で微細に表現  来生たかお、’81年発表の6thアルバムであり、初のセルフ・プロデュース作品です。本作では“矢倉銀”という別名義にてアレンジも担当しています。  歌詞カードのクレジット欄がぎゅうぎゅうになるほど多数のセッション・ミュージシャンが参加し、「Goodbye Day」(加山雄三主演ドラマ主題歌)など、多くのタイアップ曲を有する豪華な作品です。  海へのドライヴの風景描写が爽やかかつスタイリッシュなブリージングサウンドの「Easy Drive」や、来生たかおらしい切なく優しい歌声で過ぎゆく愛を語る「たそがれの苺」をはじめとし、ストーリー性が高くサウンド面でも様々なバリエーションの曲が揃った名作です。  本作品では全編の歌詞を実の姉である来生えつこが担当しています。映画や小説など他の作品からのヒントがあることを公言している彼女の歌詞は、様々なシチュエーションを鮮やかな筆致で微細に表現していきます。 &header=tag" class="m-content-list-card__img-wrap_link u-hover-zoom-wrap">

    レビュー

    来生たかお 『Sparkle』 1981年7月21日発売 配信はこちら ▶ 1. Much more…(Introduction) 2. Easy Drive 3. メモリー・メロディー 4. Goodbye Day 5. 夢の肌 6. たそがれの苺 7. Sparking head 8. Good luck my girl 9. 気配 10. 窓辺の女 11. ゆっくり夏が 12. コラージュ 13. Much more…(Reprise) 様々なシチュエーションを鮮やかな筆致で微細に表現  来生たかお、’81年発表の6thアルバムであり、初のセルフ・プロデュース作品です。本作では“矢倉銀”という別名義にてアレンジも担当しています。  歌詞カードのクレジット欄がぎゅうぎゅうになるほど多数のセッション・ミュージシャンが参加し、「Goodbye Day」(加山雄三主演ドラマ主題歌)など、多くのタイアップ曲を有する豪華な作品です。  海へのドライヴの風景描写が爽やかかつスタイリッシュなブリージングサウンドの「Easy Drive」や、来生たかおらしい切なく優しい歌声で過ぎゆく愛を語る「たそがれの苺」をはじめとし、ストーリー性が高くサウンド面でも様々なバリエーションの曲が揃った名作です。  本作品では全編の歌詞を実の姉である来生えつこが担当しています。映画や小説など他の作品からのヒントがあることを公言している彼女の歌詞は、様々なシチュエーションを鮮やかな筆致で微細に表現していきます。 &header=tag" class="m-content-list-card__text-wrap_link">

    ⑭来生えつこ|来生たかお『Sparkle』|作詞家名鑑・歌詞を味わう名盤

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