2024年8月号|特集 アルファの夏!
【Part1】MUROが選ぶDJ目線で再評価したいアルファの名曲
インタビュー
2024.8.14
インタビュー・文/柴崎祐二 写真/山本マオ
世界有数のレコードコレクターであり、DJ、プロデューサーとして幅広い活動を繰り広げる「KING OF DIGGIN'」ことMURO。これまでに数々のミックスやコンピレーションアルバムを手掛けるなど、日本産のレコードについても並々ならぬ見識を有する「和モノ」マスターの一人である。去る7月に渋谷 Vektor shop®開催で開催されたイベント『ALFA NIGHT TOKYO vol.1』でもDJプレイを行うなど、アルファ音源への敬愛にも相当に深いものがあるようだ。MUROは、どのようにしてアルファのカタログに出会ったのだろうか。そして、自身のフェイバリット作品とは。MUROとアルファ音源の関係にじっくりと迫るスペシャルインタビューを、全3回に渡ってお届けする。
アルファのロゴの入ったレコードは見かけたら試聴するようになりました
── アルファのカタログとの最初の接点はどんなものでしたか?
MURO 子どもの頃に遡るんですけど、親戚のおばさんがサーカスのファンで、よく車の中でカセットテープを聴いていたんです。「ホームタウン急行」が特に印象に残っています。それをきっかけに僕もサーカスを好きになりました。おばさんが持っているレコードに初期のアルファのロゴが載っていて、どんなものかはわからないけれど、子供心になんとなくオシャレだなあと思っていたのを覚えています。その後、思春期の頃になると、YMOやスネークマン・ショーが流行り出して。
── 当時は小中学生の間でもすごく流行ったんですよね。
MURO そうですね。原宿歩行者天国で竹の子族の人たちがYMOの「テクノポリス」にあわせて踊っていたし、とても身近な音楽でした、「この人たちの音楽を聴いていると宇宙に行くことだってできそうだな」と思っていました(笑)。
イエロー・マジック・オーケストラ
「テクノポリス / ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー」
1979年10月25日発売
── その時点で既にアルファというレーベルが特別なものだと認識していたんでしょうか?
MURO さすがにまだそこまではいっていなくて、明確に気になり始めたのはもっと後、たぶん1990年代に入る頃ですね。
── それはやっぱり、洋楽のレアグルーヴとの出会いを経て、ということですよね?
MURO はい。イギリスのアーバンから出た『URBAN CLASSICS』とかああいうコンピレーションアルバムを通じてレアグルーヴと出会って、はじめはソウルとかファンクを掘っていました。
── そこからいわゆる「和モノ」のレコードにも関心が広がっていって、本格的に掘り出したという流れですか。
MURO そうですね。けど、それ以前に、実家のガソリンスタンドの隣の隣が映画館だったので、そこで3本立ての日本映画を見続けて劇伴音楽をたくさん聴いた経験も大きかったと思います。
── 原体験がそもそも「和モノ」だったわけですね。
MURO そうなんです。ガソリンスタンドなので車通りが多くて、外で遊ぶんじゃないと言われていて。代わりに、おふくろがポータブルのレコードプレイヤーを買ってくれたんですけど、そこからアニメ主題歌のソノシートを集めるようになって、だんだんCM音楽、映画音楽と興味が広がっていったんです。そう考えると、今とやっていることはほとんど変わってないですね(笑)。
── 1990年前後に話を戻すと、具体的にどんな曲に心を奪われたんですか?
MURO 吉田美奈子さんのシングル「恋は流星」(’77年)のB面、「恋は流星Part II」です。当時はとにかくビート用のネタを掘る感じだったので、あのドラムブレイクに即座にしびれましたね。日本の曲にもこんなドラムブレイクがあったんだ! と驚いてしまって。
吉田美奈子
「恋は流星Part I・II」
1977年3月25日発売
── あのドラムはめちゃくちゃカッコいいですよね。
MURO これは本腰入れて日本のレコードも掘らないとな、と思いましたね。吉田美奈子さんのレコードは自分にとって本当に大きい存在ですね。有名な「TOWN」が入っている『MONSTERS IN TOWN』(’81年)と次の『LIGHT'N UP』(’82年)の2枚も大事な存在です。1990年代当時にDJでプレイしていると、「これ誰の曲?」って外国人のお客さんによく訊かれたのを覚えています。音のクオリティも素晴らしいし、海外の楽曲と並べても当然遜色ないですしね。その辺りから、アルファのロゴの入ったレコードは見かけたらとりあえず試聴するようになりました。
── その時期に買った中で特に印象に残っている他のアルファ産レコードはなんでしょうか?
MURO うーん、なんだろう。沢山ありますけど、ちょっとマニアックなところでいうと、いしだあゆみさんの『AYUMI ISHIDA』(’82年)も好きですねえ。これもいいドラムブレイクが入っているんですよ。
いしだあゆみ
『AYUMI ISHIDA』
1981年11月21日発売
── 名フュージョンバンドとして知られるパラシュートがバックを担当している隠れた名作ですね。
MURO そうそう。もちろん、ティン・パン・アレーと一緒にやっている有名な前作『アワー・コネクション』(’77年)も素晴らしいんですけど、これもすごくいいですよね。いしださんは、昔からおふくろが大好きな女優さんで沢山映画を見させられていたので、声が刷り込まれているっていうのもあるかもしれません(笑)。
── 子どもの頃に刷り込まれた視点と、DJ/トラックメイカーとしての視点が入り混じっている、という(笑)。
MURO そうですね(笑)。もちろんそれ以外にも、目に付くアルファ産のレコードはどんどん買っていきました。
── 当時は今みたいに値段も高くなかったわけですものね。
MURO そうそう。鈴木こうさんの『Sa-Ra-Vah Street』(’81年)とかも、昔はわりとよく見かけましたけど、最近はとんと見てない気がするなあ。このアルバムに入っている「Welcome Tokyo Night」っていう曲が最高なんですよ。DJでかけると、「この曲何?」ってよく訊かれますね。
鈴木こう
『SA-RA-VAH STREET』
1982年発売
── 逆に、サーカスとかは今もまだ手頃な値段で中古レコードが買えますし、これを機会に未聴の方にもぜひ聴いてもらいたいですよね。
MURO 本当ですね。サーカスは大人になってから改めて聴いてやっぱり最高だなと思いました。メンバー構成は当時と今とで変わっているんですけど、大好きすぎて、『和音』(’17年)っていう自分がプロデュースしているアルバムにお呼びしてアン・ルイスさんの「恋のブギ・ウギ・トレイン」をカヴァーしてもらいました。あれは本当に嬉しかったです。
V.A.
『和音 produced by MURO』
2017年5月24日発売
── MUROさん監修のコンピレーションアルバム『ELEGANT FUNK~Japanese Edition~』では、アルファ音源から佐藤博さんのシングル曲「シャイニー・レディ」(’85年)が選ばれていましたよね。
MURO はい。「シャイニー・レディ」は、あの当時ジャンセンっていう洋服のブランドのCMに使われていて、子供心にすごくオシャレに感じて憧れていたんですよ。佐藤博さんが作る曲は本当にどれも大好きですねえ。海外のギグがあるときはかならず佐藤さんのレコードを持ってくようにしています。大名作の『Awakening』(’82年)をはじめ、多重録音ならではのエレクトロニックなサウンドがまた最高ですよね。当時の日本にこんなサウンドを作っていた人がいたなんて! っていう驚き。世界的にみても当時最高峰のクオリティじゃないでしょうか。
佐藤博
「アンジェリーナ / シャイニー・レディ」
1985年4月25日発売
── 佐藤さんはアップテンポの曲ももちろん最高ですけど、ミディアムの曲も素晴らしいですよね。
MURO そうなんですよね。どっちもいい。それはアルファのジャパニーズAOR〜シティポップ的なレコード全般に言えることかもしれませんね。だから毎回選曲に苦労するんです(笑)。まず出だしでバーっと上げてそのあとミディアムに流れていくっていうセットを組むのが好きなんですけど、アルファくくりだと、いい曲が沢山ある分逆に難しくて(笑)。
(【Part2】に続く)
MURO (ムロ)
日本が世界に誇るKing Of Diggin'ことMURO。「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。現在もレーベルオフィシャル
MIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。
DJ NORIとの7インチオンリーでのDJユニット“CAPTAIN VINYL”含めて、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。
毎週水曜日21:00~ TOKYO FM MURO presents「KING OF DIGGIN'」の中で、毎週新たなMIXを披露している。
番組HP https://www.tfm.co.jp/kod/
https://tokyorecords.com/members/muro/
https://www.instagram.com/dj_muro/
https://x.com/djmuro
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【Part2】MUROが選ぶDJ目線で再評価したいアルファの名曲
インタビュー
2024.8.21