2024年7月号|特集 REBECCA
【Part1】[回視]1990年1月19日・日本武道館|Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-
レポート
2024.7.6
文/大窪由香
1990年1月19日、東京・日本武道館、絶頂期にいる一つのバンドの至高のステージ、全力で駆け抜けた貴重な一夜
今年デビュー40周年を迎えたREBECCAが、2024年7月13日(土)より7年ぶりの全国ツアー<REBECCA NOSTALGIC NEW WORLD TOUR 2024>を開催する。“NOSTALGIC”と“NEW WORLD”、過去と未来の両極を表すタイトルは、REBECCAの歴史はこれからも続いていくんだということを改めて思い知らせてくれた。それと同時に、当時からのファンには甘酸っぱい“NOSTALGIC”の扉を、これから新しくREBECCAを知るファンには強烈な“NEW WORLD”の扉を開いてくれるのではないかという、そんなワクワクするような期待感も抱いた。時代を軽く飛び越えるサブスク全盛期の今ならば、それも十分にあり得ることだろう。
その証拠として告白するならば、ライヴ映像『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』の試写会場にて、一瞬にして恋に落ちてしまった。全身を使って躍動するNOKKOに。全身全霊でシャウトするNOKKOに。コケティッシュな笑顔を見せるNOKKOに。終演を迎える頃には、その想いを手放したくなくて、気がついたらポロポロと涙がこぼれていた。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
このライヴ映像『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』は、’89年11月よりスタートしたツアー<REBECCA LIVE TOUR FROM ’89 TO ’90 BLOND SAURUSの逆襲>の最終日、’90年1月19日に行なわれた東京・日本武道館公演の模様を収録したもの。REBECCAはこの日をもって無期限の活動休止を宣言し、休止したまま翌年の’91年2月14日に正式に解散を発表した──という事実を知った上でも、このライヴから感じられたのは悲壮感などといった負の感情ではなく、意欲的でエネルギッシュな躍動感。ステージ上で活動休止宣言をすることもなく、最後まで高揚感の高いパフォーマンスを観せている。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
しかし、当時のメンバーやファンの心境はどういうものだったのだろうか。この辺りの歴史を遡ってみる。’88年にリリースしたアルバム『Poison』は、第2回日本ゴールドディスク大賞で「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」を受賞。そして’89年にリリースした7作目のアルバム『BLOND SAUR US』はセールス週間チャート1位を獲得。それを引っ提げ、5月24日東京ベイNKホールを皮切りに全国ツアーを開始するはずだったが、NOKKOが急性虫垂炎で入院するという緊急事態が発生し、6月の名古屋公演からコンサートツアーをスタートすることになった。その最終公演は初の東京ドーム。バンドのキャリアは絶頂を迎えていたが、その一方でメンバーはやり尽くした感覚をもっていたのかもしれない。その後、NOKKOの入院により延期になっていた数公演を含む<REBECCA LIVE TOUR FROM ’89 TO ’90 BLOND SAURUSの逆襲>が12月1日、2日神奈川・横浜アリーナ2daysよりスタートする。2日目の公演では、日本で初めてコンサートのハイビジョン画像を都内ライヴハウスで中継するという重要なトピックもあったのだが、ツアー開始直前、思わぬところで注目を集めることになった。11月30日付の新聞に掲載されたREBECCAのコンサート告知にあった“ライブツアー ファイナル”というコピーを受け、早とちりしたマスコミが解散説を流したのだ。あくまでも日本武道館公演がツアーファイナルであるという意味合いだったとすぐに打ち消されたが、NOKKOのアメリカ留学が決定していたこともあり、不安を拭えずにいたファンもいたという。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
そんな背景がありながらも、絶頂期にいる一つのバンドの至高のステージを記録したライヴ映像『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』は、えもいわれぬ高揚感へと導く。土橋安騎夫(Key)、高橋教之(Ba)、小田原豊(Dr)、そしてサポートメンバーの是永巧一(Gt)、中島オバヲ(Percussion)が奏でるドラマチックなオープニングから、NOKKO(Vo)がセンターに立つと「OLIVE」がスタート。小気味良い是永のギターカッティングをリズムに、ダンサー2人と息のあったダンスを見せるNOKKO。序盤から全身を使ったパフォーマンスと、パワフルなヴォーカルで魅了する。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
この公演は、<BLOND SAURUSの逆襲>と銘打ちながらも、アルバム『BLOND SAURUS』からの選曲は「VANITY ANGEL」を含む3曲と少なく、「MOON」「LONELY BUTTERFLY」「MONOTONE BOY」といったヒット曲や、『BLOND SAURUS』以前のアルバムから人気のナンバーをまんべんなくセレクトした充実のセットリストで、ニューウェイヴやシンセポップなど、80年代の洋楽エッセンスをちりばめたREBECCAサウンドを余すところなく聴かせる。クールでグルーヴィーなアンサンブルを聴かせたのは「NERVOUS BUT GLAMOROUS」のアウトロ。NOKKOはというと、「ONE MORE KISS」をじっくりと歌い上げたと思えば、次のアップナンバー「CHEAP HIPPIES」では靴を脱ぎ捨て、靴下で歌い踊ったり、「MONOTONE BOY」でのメンバー紹介では楽しそうにメンバーと絡んだり、心の赴くままに自由にステージを跳ね回る。本編ラストの「PRIVATE HEROINE」を熱唱した後、楽屋へと戻っていくメンバーの様子、アンコールを待つ観客の様子を追ったドキュメンタリー部分も見どころの一つだろう。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
終始熱量の高いステージだったが、アンコールラストの「MAYBE TOMORROW」を歌うNOKKOの観客を見つめる視線は、どこか寂しそうに見えた。言葉一つ一つを大切に歌い届けた後、感慨深い表情で会場を眺めるNOKKOのもとに集まり、手を繋いで深いおじぎをしたメンバーの表情は充実感に満ちていた。特に印象的だったのは、NOKKOは小田原にハグした後、土橋にピョンと抱きつくシーン。当時のインタビューでたびたび不仲を語っていたメンバーだったが、この日は特別に込み上げる思いがあったのかもしれない。土橋はNOKKOを抱えたままステージを降りた。
『Dreams on 19900119 Reborn Edition-Return of Blond Saurus-』より
<BLOND SAURUSの逆襲>とは、あと100年くらい遊んでいたかったBLOND SAURUSの、“時よ終わらないで”と願っていたBLOND SAURUSの、大きな叫びだったのかもしれない。立て直す希望でもあったはずのツアーだったが、それは叶わず、ファンにさようならを告げぬままREBECCAは解散してしまった。しかし、この武道館公演で残した思いが、再結成をした今の活動の原動力の一つになっているのだとしたら、メンバーの一挙手一投足、その視線の先までも見逃せない。複雑な思いを抱えながらも、全力で駆け抜けた貴重な一夜をたっぷりと堪能してほしい。
(【Part2】に続く)