2024年7月号|特集 REBECCA

【Part1】NOKKO レベッカを語る|Special Long Interview

インタビュー

2024.7.6

インタビュー・文/大谷隆之 写真/上飯坂一 取材/2024年6月@都内某所にて


心のどこかで、足で蹴飛ばしてやりたいって欲望を募らせている。そういうモヤモヤを抱えた人には、響く歌かもしれない(笑)(NOKKO)



──REBECCA、今年でデビュー40周年ですね。

NOKKO はい。長かったような、あっという間だったような(笑)。

──貴重な機会ですので、今回はバンドの来し方と今についていろいろ伺えればと思います。まずは7月7日から配信がスタートする新曲「Daisy Chain」と「アシデケトバセ」。どちらも素晴らしい仕上がりでした。ファンが一番聴きたいサウンドを鳴らしつつ、2024年の空気感もしっかり体現されていて。

NOKKO ありがとうございます。そっか。そう感じてもらえたのなら、すごく嬉しいな。

──まず1曲目の「Daisy Chain」。こちらは誰もが待っていたレベッカ・サウンドですね。イントロ開始からたった5秒で黄金の記憶が蘇るような。

NOKKO はははは。やっぱり土橋(安騎夫)さんのキーボードがね。まさにあの頃の質感ですから。

──NOKKOさん自身、ラジオ番組で「ある種、古めかしいくらいREBECCAらしい曲」と仰っていました。でも繰り返し聴くと、少しずつ印象が変わってくる。演奏にどこか奥行きがあるというか、グルーヴが熟成されている感じがして。

NOKKO うん、うん。

──そのバランスが素敵だと思ったんです。この曲はどういうプロセスで生まれたんですか?

NOKKO 「Daisy Chain」はね、土橋さんの楽曲は数年前にもうできてたんですよ。でもそのときは私がうまく歌詞を書けなくて。なんとなくお蔵入りになってたのね。その後、昨年くらいだったかな。もう1曲の「アシデケトバセ」のイメージが、自分の中でふっと形になってきて。



Digital Single
REBECCA
「Daisy Chain / アシデケトバセ」

2024年7月7日0時配信



──「アシデケトバセ」は作詞がNOKKOさん、作曲はNOKKOさんと土橋さんの共作ですね。

NOKKO まず私が導入部のAメロとBメロを思い付いて、土橋さんに聴いてもらったのかな。で、彼がそのデモ音源にサビを付けて送り返してくれた。そのやりとりがたしか、去年の5月頃だったと思います。そしたら不思議なことに、ずっと煮詰まっていた「Daisy Chain」の歌詞もすっと出てきたの。

──へええ、面白いですね。「アシデケトバセ」は「Daisy Chain」とは対照的に、バンドにとって新境地とも言える楽曲じゃないですか。リリックも音作りも、これまでのREBECCAとは一味違う凄みを感じさせて。

NOKKO そうですね。ちょっと怖いと思う人もいるかもしれない(笑)。

──そういう新機軸のナンバーが生まれたことで、停滞していた「Daisy Chain」にも一気に血が通ったと。それってNOKKOさんの中では、どこか繋がっていたんですか?

NOKKO うーん、どうだろう。自分ではよくわからないけれど……でも前後してパタパタっと詞が書けたってことは、なにかしら腑に落ちるところはあったのかもしれないですね。あと今お話ししていて思い出したんですけど、「アシデケトバセ」を思いつく少し前、REBECCAでビルボード(ライブ東京)に出たんですよ。



──2022年7月の「Billboard Live 15th Anniversary Premium Live」ですね。

NOKKO あの経験がバンドにとって決定的に大きかったと思う。ビルボードって、ハコとして独特の親密さがあるじゃないですか。スタジアムやホールと違って客席とも触れ合える距離感だし。ステージで演奏しているメンバー同士の呼吸だって肌で感じとれる。そこで2日間、4ステージがっつり演奏することで確実に掴めたものがあった。大げさに言うと、新しいグルーヴを獲得できたっていうか。

──なるほど。具体的にはどういった変化が?

NOKKO たぶんアレンジとかリズムのアクセントとか、そういうテクニカルな話じゃなくて。もっと感覚的な部分だと思います。演奏しているメンバー全員が「これって過去のコピーじゃない、今の自分たちのグルーヴそのものだよね」って心から納得してる状態っていうのかな。体力的にはきつかったけど、そういう充実感は確実にありました。今でもバンド内では「カルピスを原液のまま飲むくらい濃いライブだったね」って、よく話すんです。あと私に関して言うと、やっと言葉と折り合いがついたという解放感も大きくて。

──言葉と折り合い、ですか。

NOKKO 日本語でロックを歌う人間として、やっぱり若い頃はその呪縛と格闘していたと思うんですね。英語に比べて母音にまみれた言葉を使って、いかにスムーズにヴォーカルを聴いてもらうか。もっと言うと、洋楽とは違うオリジナルの個性を確立できるか。そこに神経を張り巡らせて、あっち行ったりこっち来たりを繰り返してきた。でも年齢を重ねると、少しずつ感じ方が変わってくるんですよね。かつては息苦しい呪縛だったものが、いつしか“お釈迦様の手のひら”に見えてくるというか。

──いい意味で諦念、諦観が滲んでくるみたいな?

NOKKO そうかもしれない(笑)。歌い手としてどんなに格闘しても、おのずから滲んじゃう民族性ってあると思うんですよ。日本語の響きもそうだし、言葉が宿している独特のリズムもそう。そういうエスニックな縛りから自由になることは誰にもできないし、なる必要もない。ずっと歌い続けてきてようやく最近、その事実を素直に受け容れられるようになったのかな。その大きなきっかけが私にとっては2022年のビルボードだったんです。面白いのは、そうなると過去のナンバーもより深く慈しめたりするのね(笑)。たとえば「真夏の雨」という楽曲があるんですけど……。



REBECCA
『Poison』

1987年11月28日発売



──6thアルバム『Poison』(’87年11月)の収録曲ですね。レゲエ/ダブっぽい音場感が印象的な。

NOKKO はい。まさにレゲエ的なバックビートを意識したアレンジなんですけど、当時はちょっと不満だったんです。なんていうか、ヴォーカルの湿度が高すぎて。まるでカリブっぽい匂いがしなかった(笑)。なんでこうなっちゃうんだろうと思ってました。でもビルボードで演奏したときはなぜかしっくりきたんですよね。歌い方やアレンジを抜本的に変えたわけじゃないのに、これでいいって素直に思えた。その2日間の経験がなんとなく消化されて、「アシデケトバセ」に繋がった部分はあったかもしれない。

──そして「アシデケトバセ」でより自由になれた解放感が、もう1曲の「Daisy Chain」にも作用したと。そう考えると、いかにもREBECCAらしいロックチューンの「Daisy Chain」が新鮮に響く理由もわかる気がします。平凡な表現ですが、やっぱりメンバーそれぞれの、今現在の心と身体の感覚。それがリアルに反映されていることが大きいのではないかと。

NOKKO うん。結局はそれに尽きると思います。



Digital Single
REBECCA
「Daisy Chain / アシデケトバセ」

2024年7月7日0時配信



──「Daisy Chain」は、NOKKOさんのリリックもすごく心に残りました。象徴的な言葉の連なりからは、どこか不穏な風景が浮かんでくる。それが現代の世相と響き合っているというか。

NOKKO はい。

──導入部のBメロに当たる〈♪ペチカチカチカ 寒い冬の夜/おしゃれ狐も灰色オオカミも/フワリ ふんわり毛布に包まれ〉という箇所では、ウクライナ民話の絵本『てぶくろ』を思い出しました。

NOKKO そうですね。まさに。

──この絵本って、2022年のロシアによるウクライナ侵攻によって、にわかに注目されたじゃないですか。どういう流れで「Daisy Chain」の歌詞に溶け込んでいったんですか?

NOKKO その辺の前後関係はね、正直、自分でもうまく思い出せないんですよ。たぶんみなさんと同じで、私もあの侵攻以来、ずっと重苦しい気持ちを抱えていて。自分にも子どもがいますから。無理やり戦わされる若者、戦火にさらされる人たちのことを思うといたたまれなかった。そういう想いとか、手に取った絵本のイメージとか、いろんな要素が折り重なって。あるとき気が付けばリリックに乗っていたというのが、正直な実感です。

──それもまた、今を生きるNOKKOさんの素直な実感だと。〈♪A shooting star dashed through the sky/君の未来守るのはちっぽけな夢〉というサビには、祈りのような気持ちも感じました。

NOKKO うん。そうかもしれない。考えてみると、何かメッセージを伝えようと思って歌詞を書きはじめることって、私はほとんどないんですよ。でも、紡いでみた言葉にそのときどきの想いや関心事が反映することは当然ありますし。変な解釈とか価値判断を加えず、それを生のままポンッと差し出したいという気持ちも強い。そこに何を見出すかは、リスナーそれぞれでいい。ロックって本来、そういう音楽じゃないのかなって。

──ちなみに歌詞内には、名画『ひまわり』(1970年)を思わせる一節もありました。物語の背景となった歴史、有名な向日葵畑のシーンを想像しながら聴くと、楽曲のランドスケープがさらに広がります。

NOKKO あのラインもね、自分の中ではけっこう偶然なんですよ。子どもの頃、向日葵の花が大好きで。あの形を眺めていると、なんだか自分がシャワーを浴びてる気分になったのね。最初はその、あどけない夏の記憶だけをイメージしてました。それがいつしか、リリック全体の中であのイタリアの名画とリンクしていった。あまりにも哀しい物語ですが、いつ観てもとにかくソフィア・ローレンが素敵なんですよね(笑)。

──もう1曲の「アシデケトバセ」は一転、リズムの踏み込みがものすごく深い感じがします。ヴォーカルもブルージー、もっと言うとシャーマニックな印象が強くて。

NOKKO うんうん。

──リリックの印象もどこか、原初の神話っぽい怖さがあるというか。〈♪Crazy 魔物の棲む道を 歩いて家へ帰ろう〉という出だしのフレーズからすでに、凍てつくような孤独感が滲んでいます。

NOKKO 暗いですよね、曲の世界観が(笑)。なんだろう……やっぱり今の情報社会って、どうしようもない偽善や詐欺だらけじゃないですか。自分も含めて誰もが、そこにまみれて生きていく他はない。世界全体をお金儲けのルールが支配していて。逸脱しようとする人は、ひと切れの分け前にもありつけない。そんながんじがらめの状態に対して、誰もが罪悪感を抱いていて。心のどこかで、足で蹴飛ばしてやりたいって欲望を募らせている。そういうモヤモヤを抱えた人には、響く歌かもしれない(笑)。

──でも、たしかにある種の怖さはありますが、それ以上に前向きな生命力に満ちたナンバーですよね。特にたゆたうようなメロディーラインから、サビに向かって一気に駆け上がっていくNOKKOさんのヴォーカル。それこそREBECCAの新境地とも言うべき、生々しい表現力を感じました。

NOKKO ありがとうございます。やっぱり、お釈迦様の手の上で開き直ったのがよかったのかな(笑)。っていうか、もしそう受け取ってもらえたのだとしたら、それはヴォーカルだけじゃなくバンド全体のグルーヴの賜物だと思います。当たり前ですけど、6人の演奏が噛み合ってこそのレベッカ・サウンドなので。その意味では今回、2曲ともすごくいい状態でレコーディングに臨めた。そこは心から感謝してるんですよね。歳を重ねるといいこともあるんだなって。

【Part2】に続く)




REBECCA
NOKKO(ヴォーカル)、土橋安騎夫(キーボード)、高橋教之(ベース)、小田原豊(ドラムス)、是永巧一(ギター)、中島オバヲ(パーカッション)。

1984年メジャー・デビュー。紅一点NOKKOのキュートでパワフルなヴォーカルやファッションが話題を呼び大ブレイク。’85年4枚目のシングル「フレンズ」が大ヒットし同年発表の4thアルバム『REBECCA Ⅳ ~Maybe Tomorrow~』がミリオンセラーを記録。「RASPBERRY DREAM」(’86年)「MONOTONE BOY」(’87年)「MOON」(’88年)など数々のヒット曲を連発。人気絶頂の中、’91年突然の解散。ファンを公言するアーティストも多く、伝説のバンドとして多数のフォロワーを生み続けている。

’15年には20年ぶりに横浜アリーナにて再結成ライヴ<Yesterday, Today, Maybe Tomorrow>を2日間公演し3万人を動員。同年さいたまスーパーアリーナにて追加公演にあたり2日間の公演で3万6000人を動員し、年末には『NHK紅白歌合戦』初出場も果たす。’17年にはREBECCAとして28年ぶりに全国ツアーを開催し超満員の武道館2daysを含め各地で大熱狂のライヴを繰り広げて話題となる。2022年には、ビルボードライブ東京・横浜・大阪で<Billboard Live 15th Anniversary Premium Live>を開催し全公演ソールドアウトとなった。

’24年7月7日に新曲「Daisy Chain」「アシデケトバセ」デジタル配信。7月10日には’90年の武道館ラストライヴ完全版『Dreams on 19900119 Reborn Edition -Return of Blond Saurus -』を発売。7月13日からは全国ツアー<REBECCA NOSTALGIC NEW WORLD TOUR 2024>をスタートする。


●NOKKOオフィシャルサイト https://nokko.jp/
●REBECCA NOSTALGIC NEW WORLD TOUR 2024 https://rebecca2024.com/