2024年6月号|特集 あぶない刑事と音楽

【Part5】検証! “あぶ刑事”と音楽の歴史|2016-2024

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解説

2024.6.26

文/高島幹雄


●映画第7作『さらば あぶない刑事』(2016)


【Part4】からの続き)

 前作『まだまだ あぶない刑事』以降、新作が途絶えていた2012年に講談社から発行された『あぶない刑事全事件簿DVDマガジン』が『もっとあぶない刑事』と映画版6作品までの発行に延長となり、販売部数が累計120万部以上にのぼった。改めて“あぶ刑事”の人気と新作への期待を受けて、最後の作品を作ろうと初テレビ放映から30年の節目に制作された映画第7作。

 音楽アイテムは’16年1月30日の公開より1ヶ月以上前の’15年12月9日にソニーミュージックからリリースされた『さらば あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック』のみ。

 音楽は今回も『まだまだ あぶない刑事』と同様、過去にこのシリーズに参加したことがない作曲家である安部潤が起用された。今号に掲載している安部潤へのインタビューで、『あぶ刑事』に関わるようになった経緯、本作の音楽のメイキングも伺ったので、そちらもお読みください。

 アルバム収録曲は、柴田恭兵のヴォーカルトラックを使い、全く新しいアレンジでレコーディングされた「RUNNING SHOT feat. T.NAKAMURA, SENRI KAWAGUCHI & SHIGEO NAKA 」と、こちらも新たなアレンジの舘ひろし「冷たい太陽 Final Version」以外は、インストゥルメンタルの劇伴(BGM)で構成された全23曲。インストゥルメンタルの楽曲は殆どが、使用されるシーンの長さに合わせて作られている。

 『まだまだ あぶない刑事』には短いながらも、“あぶ刑事”シリーズの伝統でもある英語の歌詞による楽曲はあったが、本作ではそれが一切なくなった。その代わりに本作を象徴するメロディアスなメインテーマが誕生した。それが「LONG GOODBYE~さらば あぶない刑事~オープニングテーマ」(以下、「LONG GOODBYE」)で、本作のタイトルが映像に現れた後、主なスタッフ、キャストが紹介されていくオープニングを飾っている。このメロディーはアクションが展開するシーンの迫力を増幅させる「CHASE IN THE DARK STREET」「RESCUE」「DON'T FOLLOW ME」「SO LONG TAKA & YUJI」の中にも取り入れられている。その他、ラウンジでタカと夏海(演・菜々緒)がデート中のテーブルにユージが合流するシーンで聞こえる楽曲「NIGHT LOUNGE 2」は、「LONG GOODBYE」をピアノとベースのデュオでジャズにアレンジした楽曲だ(ここでは安部潤がピアノ奏者として出演)。1本の映画の中に同じメロディーが複数のシーンにあらわれることで強い印象を残し、この時点の最終作にして新たな名曲が誕生した。今年の5月にリリースのアルバム『あぶ刑事JAZZ』では、本作のサントラ盤収録曲からこの「LONG GOODBYE」と「NIGHT LOUNGE 1」が、安部潤&THE SECRETSの演奏によってニューアレンジが聴ける。


『さらば あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック』
2015年12月9日発売


 リズムと映像が見事にシンクロした「FINAL STEPS」と「LEOPARD 2016」も印象深い。前者はファーストシーンで潜入捜査で留置所に入っているタカを迎えに行くユージのステップ、後者はユージがレパードを運転しながら窓を叩く動きに音楽が寄り添っていた。ユージといえば柴田恭兵が歌う挿入歌の「RUNNING SHOT feat. T.NAKAMURA, SENRI KAWAGUCHI & SHIGEO NAKA」。安部潤が手がけたアレンジは、『まだまだ あぶない刑事』におけるリミックスよりも躍動感に溢れている。フィーチャリングの「SHIGEO NAKA」とは現在、本名の中重雄で活動しているザ・サーフコースターズの中シゲヲで、エキサイティングなプレイが堪能できる。同じく「T.NAKAMURA」は仲村トオル。曲の終わりにMIXされた台詞は映画の中でも使われた。

 BGMの中で過去の楽曲メロディーが引用された唯一の曲が「SO FINE」。舘ひろしが作曲した第1TVシリーズおよび『もっと あぶない刑事』のオープニング・テーマ「あぶない刑事(テーマソング)」(『帰ってきた あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック』での曲名は「ABUNAI DEKA opening theme」)をミディアムテンポにした、TVシリーズでは捜査課のシーンで多く使われていたBGMと同様のパターンのアレンジ。課長室でのシーンの他、終盤のニュージーランドでタカとユージがゴルフに興じるシーンにも選曲され、『あぶ刑事』の日常風景といえばこの曲は外せない。このサントラ盤には収録されなかったが、映画の冒頭にある東映マークに添えられたBGMにも、このオープニング・テーマのメロディーが使われている。

 ラストシーンのお約束は舘ひろしが歌うエンディング・テーマ。本作では「冷たい太陽」が再びピックアップされて、イントロに鳴り響くトランペットと共に「冷たい太陽 Final Version」にふさわしいアレンジが施されている。


『あぶない刑事 ORIGINAL ALBUM COMPLETE』
2016年4月6日発売


 本作のサントラ盤に収録されなかった音楽はいずれも短い楽曲だが20曲以上あった。これらはすべて、ロードショー公開が終了したばかりの4月6日に発売された『あぶない刑事 ORIGINAL ALBUM COMPLETE』(完全生産限定盤のため現在は販売終了)のスペシャル・ディスクに映画での使用順に収録、補完した。筆者はこのBOXでは初回放映当時、劇場公開当時に発売のサントラ盤を全てを単にまとめただけでなく、LPレコード時代のアルバムは紙ジャケ、CDの時代になってからのものはプラケースで、それぞれに付属の帯(一部は帯代わりのステッカー)まで当時を再現するアイデアを出した。紙ジャケとプラケースが混在する形態でのCD-BOXは、この時点で『あぶ刑事』が初めてだった。

●映画第8作『帰ってきた あぶない刑事』(2024)


 前作のラストでタカとユージは刑事を定年退職後、ニュージーランドで探偵事務所を開業した設定で終わった。映画を観た直後に筆者は、この終わり方だったら例えば『あぶない探偵 タカ & ユージ』というタイトルでも新作が出来るのでは? という妄想が広がった。刑事としては『さらば』だが、探偵としての二人の新しいストーリーが始まってもいいのではないかと。あれから8年が経ち、本当に“帰ってきた”。本年5月24日にロードショー公開の『帰ってきた あぶない刑事』だ。




高島幹雄 (たかしま・みきお)

バップ勤務時より『あぶない刑事MUSIC FILE』など音楽をアーカイヴするCDの企画制作や映像商品の制作に参加。ソニーミュージック発売の企画制作CDは『あぶない刑事 TAKA THE BEST』(’12年)『あぶない刑事ORIGINAL ALBUM COMPLETE』(’16年)『「あぶない刑事」NON STOP BEST』(’16年)『あぶない刑事オリジナル・サウンドトラックスペシャルエディション』(’23年)。他に新刊『あぶない刑事マニアックス』(講談社)の企画と構成・執筆。

『あぶない刑事マニアックス』
(講談社)







『帰ってきた あぶない刑事』
2024年5月24日劇場公開


舘ひろし 浅野温子 仲村トオル 柴田恭兵
土屋太鳳
西野七瀬 早乙女太一 深水元基
ベンガル 長谷部香苗 鈴木康介 小越勇輝 / 杉本哲太
岸谷五朗 / 吉瀬美智子

監督:原廣利
脚本:大川俊道 岡芳郎
製作プロダクション:セントラル・アーツ
配給:東映
©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会

https://abu-deka.com

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