2024年6月号|特集 あぶない刑事と音楽

【Part4】検証! “あぶ刑事”と音楽の歴史|1996-2005

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解説

2024.6.21

文/高島幹雄


●映画第4作『あぶない刑事リターンズ』(1996)


【Part3】からの続き)

 80年代の終焉と共にシリーズの幕を閉じた『あぶない刑事』だったが、90年代に入ってからレンタルビデオ店にTVシリーズの映像商品が並び、再放送も行われ、ファンによる復活希望の声も盛り上がってきた。90年代後半に入ったある日、「人生、腹の立つこともあるけれど、あぶデカが戻ってくることもある。」という粋なキャッチコピーと共に登場したのが『あぶない刑事リターンズ』。前作から約7年の間には近藤課長役の中条静夫の逝去(’94年)という大きな出来事があった。映画の中で近藤課長は定年退職したという設定で、その後任となる深町課長役に東映出身のベテラン、小林稔侍が初参加。仲村トオル扮する町田透に初めて後輩(虎井祐輔/演・関口知宏)ができた。

 音楽アイテムは全て公開日’96年9月14日よりも先駆けてリリースされた。柴田恭兵の挿入歌はおなじみの「RUNNING SHOT」で、8cmCDシングル(この形態が普通にリリースされていた当時は、まだ「短冊CD」という呼び方はない)がフォーライフから8月21日に発売。その収録音源はカップリングの「WAR」も含めて、柴田のオリジナル・アルバム『SHOUT』(’87年)のためにMIXし直されたもの。本作では初めて映像の中でもこのMIXが使われた。舘ひろしによるエンディング・テーマ「冷たい太陽~NEW BLOOD VERSION~」も8月21日にファンハウスから8cmCDシングルが発売。この前年にUnlimited Editionというジャズ・ファンク・バンドとソロの両面でデビューしたトーマス・サワダと、沖縄出身のミュージシャンである玉木哲太郎のユニット=T2がアレンジを手がけている。ラップを交えた大胆な構想によって、名曲に新たな生命を吹き込んだ。


『あぶない刑事リターンズ オリジナル・サウンドトラック』
1996年9月4日発売


 アルバム『あぶない刑事リターンズ オリジナル・サウンドトラック』はファンハウスから9月4日にリリース。この頃になると発売形態はCDのみだ。収録曲は「RUNNING SHOT」、「冷たい太陽~NEW BLOOD VERSION~」も含む全15曲。“あぶ刑事”の音の世界観を形作ってきた英語詞によるヴォーカル曲は受け継がれており、8曲が収録されている。それらは一見、洋楽風なラインナップだがすべて国内で制作されている。参加ヴォーカリストはまずオズニー・メロ(OSNY MELO)。ファンハウスからオリジナル作品をリリースしていたほかに、郷ひろみ、中森明菜、Winkなどへの楽曲提供でも活躍。本作では「BAD DUDE」「A BETTER DAY」を自ら作曲・編曲したほか、DAWN MARIE MOOREが歌う「JUST A LITTLE BIT MORE」は作詞も手がけた。Suzi Kimは日本のR&Bシーンで活躍するシンガー。当時様々なアーティストの楽曲を手がけていたジョー・リノイエは1曲のみ。クラブのシーンでDJがターン・テーブルをまわす曲として使われる「SUPER DUPER WOMAN」を提供。作曲家陣は他に和泉一弥、羽田一郎など。

 本作はそれまでのシティポップ的な路線に加え、当時の最先端だったクラブ系サウンドを大胆に取り入れているが、さらにジャズも加わっている。しかも大野雄二だ。大野は『あぶない刑事』の生みの親、セントラル・アーツ代表・黒澤満プロデュースによる東映セントラルフィルム作品『最も危険な遊戯』(’78年)など『遊戯シリーズ』や、本作に近い時期では東映Vシネマでも音楽を手がけている。またこの当時は、例年『ルパン三世テレビスペシャル』の音楽以外にジャズ・ピアニストとしての活動を再開、ジャズクラブでライヴをやり始めていた。大野による楽曲「DAY BREAK SOMEONE」のパーソネルは大野(ピアノ)の他、日野元彦(ドラム)、鈴木良雄(ベース)、五十嵐一世(トランペット)によるカルテット。
 冒頭のキャスト、スタッフのクレジットが映し出されるタイトルバックと、バンドホテル内での銃撃戦後にタカの合図で演奏が始まるシーンの2つのタイプがサントラ盤に収録された。映像とのシンクロが心地よい演出になっている。

 Fuji-Yama(諸藤彰彦と山崎茂之のユニット)によるインストゥルメンタルの劇伴(BGM)はサントラ盤には4曲収録されているが、これだけではなく様々なシーンに合わせた楽曲が大量に作られていた。Fuji-Yamaは東映側の音楽プロデューサー・高桑忠男との仕事で、映画『学校の怪談』(’95年)のほか東映Vシネマの音楽などを多数手がける中で、本作へのオファーがあって参加することになった。


●TVスペシャル『あぶない刑事フォーエヴァー TVスペシャル’98』(1998)
●映画第5作『あぶない刑事フォーエヴァー』(1998)


 日本テレビ開局45周年記念作品として、前作から約2年ぶりという意外と早めに帰ってきた『あぶない刑事』。「テレビで始まる。映画で終わる。」というキャッチコピーの通り、’98年8月28日に日テレ『金曜ロードショー』枠で『あぶない刑事フォーエヴァー TVスペシャル’98』が放映された後、9月12日からその続編となる映画第5作『あぶない刑事フォーエヴァー』が公開というメディアミックス展開だった。


舘ひろし with THE COLTS
「CRY OUT~泣いていいよ~」

1998年7月23日発売

舘ひろし
『あぶない刑事 TAKA THE BEST』


 その音楽アイテムはTVスペシャルの放映から約1ヶ月前にファンハウスよりエンディング・テーマ「CRY OUT~泣いていいよ~」が、舘ひろし with THE COLTS名義のシングルとして発売。THE COLTSはこの当時ファンハウスの契約アーティストだったロックバンド。映像では使われていないが、カップリングはTHE COLTSとの共演による「翼を拡げて~OPEN YOUR HEART~」のニューヴァージョンだった。同社から8月21日にSING LIKE TALKINGによるTVスペシャルと映画の共通オープニング・テーマ「FIRECRACKER」のシングルがリリース。TVスペシャルのオープニングでは、画面の両側からタカとユージが歩み寄った後、銃を構えるテンポにも融合している。同日にはフォーライフから柴田恭兵の挿入歌「RUNNING SHOT~SHOTGUN MIX」のシングルも発売。こちらは当時、テレ東『おはスタ』に出演していたレイモンド・ジョンソンのプロデュース&ラップによって柴田恭兵のヴォーカルトラックを素材にリミックスが施され、この時代にマッチしていた。

 アルバム『あぶない刑事フォーエヴァー オリジナル・サウンドトラック』は8月26日にファンハウスより発売。「FIRECRACKER」「RUNNING SHOT~SHOTGUN MIX」「CRY OUT~泣いていいよ~」も含む全13曲を収録。そのうち7曲は英語歌詞による楽曲で、すべて鷺巣詩郎がプロデュース。鷺巣の拠点、ロンドンにあるイーストコートスタジオでレコーディングされた。映画のスタッフクレジットでは、劇伴(BGM)を手がけたFuji-Yama(諸藤彰彦・山崎茂之)と共に音楽担当として名を連ねている。当時の鷺巣は音楽を手がけている『新世紀エヴァンゲリオン』が大ヒットしてまもない時期であり、「今」の時代の音楽を取り入れてきた“あぶ刑事”らしい人選だったかもしれない。

 サントラ盤に収録されたFuji-Yamaの楽曲は3曲のみだが、実際に映像で使われた楽曲数はこの約10倍以上あった。


『あぶない刑事フォーエヴァー オリジナル・サウンドトラック』
1998年8月26日発売


 TVスペシャルと映画では映像における音楽の構造が大きく異なっていた。TVスペシャルは、一倉治雄監督の要望で『リターンズ』では1曲も使われなかった志熊研三が手がけた第1TVシリーズの音楽が数多く映像を彩っている。そのマスターテープの音源はステレオの左右がリズムとメロディーに分かれていたため、Fuji-Yamaがリミックスが施して映像に使った。これによって本作用の新曲と共に“あぶ刑事”らしい音響が再現された。そして映画の方は、過去の楽曲は捜査課のシーンに流れるオープニング・テーマのヴァリエーションの1曲を除いて、すべて新曲で新しい世界観を表現していた。

 本作公開当時の音楽商品は新作関連にとどまらなかった。ファンハウスからは映画第1作から第4作の『リターンズ』までの4枚のサントラ盤をセットにした『あぶない刑事 THE MUSIC オリジナル・サウンドトラック・コンプリート・ボックス』を、シリアルナンバー付き、新規編集の解説ブックレットを封入した1万セット完全予約限定で11月6日に発売。過去の映画版サントラが一過性で終わらないエヴァーグリーンな音楽になっていく大きなステップだったのかもしれない。

 『あぶない刑事リターンズ』と『あぶない刑事フォーエヴァー』において、各シーンとの融合で強い印象を残しながらも、残念ながら公開当時のサントラ盤に収録されなかったFuji-Yamaによる劇伴(BGM)が、後年になってCDとして形になっていることもお伝えしたい。

 2001年4月にファンハウスがBMGと合併したレーベル、BMGファンハウス通販商品として『あぶない刑事 THE MUSIC COMPLETE BOX』が、映画版シリーズの音楽プロデューサーの佐久間雅一の企画でリリースされた。メーカー各社の協力のもと、第1TVシリーズ『あぶない刑事』から映画『あぶない刑事フォーエヴァー』までの間に発売された10枚のアルバムをまとめたものだ。この制作当時、佐久間から筆者にボーナストラックとして収録できる音源は何かないか? と相談を受け、『リターンズ』と『フォーエヴァー』のディスクの空き時間にFuji-Yamaの曲をセレクトして収録することなどを提案して、全体から見れば一部だけだが世に出すことができた。さらに2014年2月、講談社から長期間発行されていた“あぶ刑事”のDVDマガジンが映画版作品に到達する頃に、バップから『あぶない刑事リターンズ MUSIC FILE』『あぶない刑事フォーエヴァー TVスペシャル'98 MUSIC FILE』『あぶない刑事フォーエヴァー THE MOVIE MUSIC FILE』の3枚のアルバムを筆者の企画・制作で発売させていただいた。これでFuji-Yamaによる劇伴(BGM)は全てを聴くことができるようになった。

●映画第6作『まだまだ あぶない刑事』(2005)


 前作のラストでタンカーの爆破と共に海に消えたタカとユージ。あれから約7年後に復活したのが、’05年10月22日に公開となった映画第6作『まだまだ あぶない刑事』だ。




高島幹雄 (たかしま・みきお)

バップ勤務時より『あぶない刑事MUSIC FILE』など音楽をアーカイヴするCDの企画制作や映像商品の制作に参加。ソニーミュージック発売の企画制作CDは『あぶない刑事 TAKA THE BEST』(’12年)『あぶない刑事ORIGINAL ALBUM COMPLETE』(’16年)『「あぶない刑事」NON STOP BEST』(’16年)『あぶない刑事オリジナル・サウンドトラックスペシャルエディション』(’23年)。他に新刊『あぶない刑事マニアックス』(講談社)の企画と構成・執筆。

『あぶない刑事マニアックス』
(講談社)







『帰ってきた あぶない刑事』
2024年5月24日劇場公開


舘ひろし 浅野温子 仲村トオル 柴田恭兵
土屋太鳳
西野七瀬 早乙女太一 深水元基
ベンガル 長谷部香苗 鈴木康介 小越勇輝 / 杉本哲太
岸谷五朗 / 吉瀬美智子

監督:原廣利
脚本:大川俊道 岡芳郎
製作プロダクション:セントラル・アーツ
配給:東映
©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会

https://abu-deka.com

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