2024年6月号|特集 あぶない刑事と音楽
【Part1】検証! “あぶ刑事”と音楽の歴史|1986-1987
解説
2024.6.3
文/高島幹雄
最新作『帰ってきた あぶない刑事』が劇場公開中だ。伴うシリーズ最新アルバム『帰ってきた あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック』には、「ABUNAI DEKA opening theme」などTVシリーズ第1作の音楽をはじめ、過去の映画にあった名曲のリメイクが含まれている。例えば、今回の映画で大きくフィーチャーされ、アルバム『あぶ刑事JAZZ』のメイン楽曲でもある「Where Do You Go From Here?」は、映画第3作『もっともあぶない刑事』(’89年)で誕生した楽曲だ。過去の楽曲に再び光が当たるなか公開前の5月に開催された前夜祭ともいえる<「あぶない刑事」スペシャルフィルムコンサート>はチケットが即完、追加公演も大盛況。『あぶない刑事』には欠かせないもうひとりのキャスト=ミュージック。その魅力を探るために、あらためて『あぶない刑事』の音楽、サウンドトラックの歴史を辿ってみたい。
●第1TVシリーズ『あぶない刑事』(1986-1987)
『あぶない刑事』の音楽とのファースト・コンタクトは、タカこと鷹山敏樹役・舘ひろし自身が作曲、歌唱によるエンディング・テーマ「冷たい太陽」。シングル・レコードは放映開始日の’86年10月5日より早く、9月29日に舘ひろしの音楽活動の拠点的なレーベル、ファンハウスから発売された。『あぶない刑事』の前番組だった刑事ドラマ『誇りの報酬』(出演:中村雅俊、根津甚八、伊藤蘭ほか)の最終回終了後にあった新番組予告に使われていたのは、「冷たい太陽」だった。
舘ひろし
「冷たい太陽」
1986年9月29日発売
舘ひろし
『あぶない刑事 TAKA THE BEST』
いよいよ「“あぶ刑事”伝説」の幕開けである第1話「暴走」が放映。そのオープニングに鳴り響いたのは、予告編で耳にした「冷たい太陽」ではなく、サックスとコーラスに彩られた軽快できらびやかな楽曲だった。エンディング映像にあるスタッフ・クレジットにこの曲についての記載が無かった。このオープニング・テーマは番組のスタートから約1ヶ月後の11月6日にEPIC・ソニーからリリースされたアルバム『あぶない刑事 オリジナル・サウンド・トラック』に、「あぶない刑事(テーマソング)」という曲名で収録された。当時はこのアルバムを手にした人だけが、その作曲者が舘ひろしだと知ることとなった。オープニング・テーマとエンディング・テーマによって『あぶない刑事』の音楽的なイメージ作り、土台を作ったのは舘ひろしだったのだ。
『「あぶない刑事」オリジナル・サウンド・トラック』
1986年11月6日発売
シリーズ初のアルバム『あぶない刑事 オリジナル・サウンド・トラック』は、『ビバリーヒルズコップ』(’84年)、『トップガン』(’86年)といったヴォーカル・アルバム型のサントラ盤をヒントに、英語詞によるヴォーカル曲が中心のアルバムになった。EPIC・ソニーからの発売は、日本テレビの番組関連音楽の制作会社である日本テレビ音楽のプロデューサーが同社に打診したことがきっかけだった。アルバムのプロデュースは、本作の音楽担当として劇中のBGM(劇伴)を手がけた志熊研三(アルバムに記載のクレジットはKen Shiguma)。ブレイク前の小比類巻かほる、ソロシンガーとしてのデビュー前だった鈴木聖美、’82年にデビューして、この当時はAMAZONSのメンバーになっていた大滝裕子というEPIC・ソニーのアーティストの他、作詞家でもある平塚文子、現在は濱田“Peco”美和子として活動中の松木美和子がヴォーカルで参加した。アルバム発売当初は、拳銃が大きく載ったジャケットだったが、永井博のイラストによるデザインに変更された。
柴田恭兵
「ランニング・ショット」
1986年12月21日発売
柴田恭兵
『あぶない刑事 YUJI THE BEST」』
そして、『あぶない刑事』から大ヒット曲が誕生する。ユージこと大下勇次役・柴田恭兵の「ランニング・ショット」だ。12月7日放映の第10話「激突」で初登場した後、12月21日にフォーライフからシングルがリリースされた。じわじわとヒットチャートを上昇し、シングルチャートの最高7位を記録。翌’87年2月に『夜のヒットスタジオ』(フジテレビ)に出演。3月にはランキング形式の歌番組『歌のトップテン』(日本テレビ)と『ザ・ベストテン』(TBS)の両方で10位以内にランクインした。「ランニング・ショット」にノッて駆け抜けるユージのように、柴田恭兵も歌手としても飛躍、通算6作目のシングルにして最大のヒット曲となった。シングルヒットとの相乗効果で『あぶない刑事』の人気も上昇気流に乗った。「ランニング・ショット」の大ヒットの熱気がまだ冷めぬ3月22日に放映された第25話「受難」では、柴田恭兵が歌う挿入歌が新曲に変わった。「WAR」である。シングルレコードは、劇中に初登場してから約1ヶ月後の4月29日にリリースされた。
番組の人気上昇と共にサウンドトラック・アルバムも徐々にセールスを伸ばし、EPIC・ソニーからは第2弾アルバム『あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック 総集編』が6月3日にリリース。このアルバムに収録された全10曲のうち、前作からの再収録が4曲、新曲が6曲という構成だった。それゆえに「総集編」というタイトルになったのであろう。
『「あぶない刑事」オリジナル・サウンドトラック 総集編』
1987年6月3日発売
*配信は’87年盤と一部異なる内容
新たにヴォーカルで参加したアーティストは、モデル、女優として活躍していた堀川まゆみが作曲家に転身したMAYUMI、ラッツ&スターからソロデビューして2年目の鈴木雅之、ゴダイゴのトミー・スナイダー、そして謎のコーラス・グループだったTHE SILHOUETTES。「ランニング・ショット」はこの当時、他のレーベルから音源を借りて収録することが難しい時代だったこともあってか、インストゥルメンタルが収録された。
『あぶない刑事』の放映期間中にEPIC・ソニーからリリースされた2枚のアルバムは、昨年(’23年)『あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック スペシャル・エディション』という当時は未収録だった音源(劇中に使用されたカラオケや別MIXなど)も含む2枚組CDとしてリマスター復刻されている。筆者は復刻の企画・制作で参加したのだが、その際、アルバムのプロデューサーだった志熊研三に、THE SILHOUETTESについて尋ねてみると、「もう30年以上も経っているので、もういいかな」と前置きして、実はAMAZONSの変名で、当時はCBS・ソニーからデビューすることが決まっていたので、このサントラ盤では別の名前にしたとのことだった。初リリースから36年を経て音楽の謎が一つ解けたのだ。
『あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック スペシャル・エディション』
2023年4月19日発売
本作の挿入歌に起用されたアーティストはもう一人いた。’84年に松任谷由実、松任谷正隆のプロデュースで日本コロムビアからデビューした麗美(REIMY)。’86年にSIXTY RECORDSへ移籍後はREIMY名義に統一して活動していた。’87年6月25日に発売のアルバム『ENDLESS plus VERSION』に収録の「You could be dancing」と「Lover Boy」が、封入の歌詞カードに本作の挿入歌というタイアップ表記がクレジットされている。「You could be dancing」はアルバムのリリースに先駆けて第25話「受難」などの挿入歌になった。「Lover Boy」は日本語歌詞をアルバムに収録していたが、’87年5月3日放映の第30話「黙認」などで使われたのは英語詞だった。英語版は’88年3月9日リリースの全曲英語詞アルバム『SMOOTH TALK』に初収録となった。
REIMY
『ENDLESS plus VERSION』
1987年6月25日発売
シリーズが終盤に差しかかった7月19日放映の第41話「仰天」から柴田恭兵による第3の挿入歌が登場する。6月21日にリリースの初オリジナル・アルバム『SHOUT(シャウト)』から「FUGITIVE」が起用された。このアルバムには「ランニング・ショット」と「WAR」は新たにMIXをし直した、ドラマで使われたシングルの音源とは印象が違う音源が収録されていた。前者は曲名が英語の「RUNNING SHOT」に変更になっている。さて「FUGITIVE」のイントロは、疾走感あふれるサウンドの前に30秒ほどのピアノのバラードを添えたアレンジになっているが、映像では演出上その部分をカットした形で、9月27日放映の第51話(最終回)「悪夢」まで、ユージのアクションやレパードによる追跡などに迫力を与えており、楽曲がユージの分身にも感じられる。
『「あぶない刑事」NON STOP BEST』
2016年10月5日発売
ソニーミュージックの定番アイテム、ノンストップMIXコンピレーションの一環で’16年にリリースされた2枚組『あぶない刑事 NON STOP BEST』の構成、パッケージのディレクションを筆者が担当した際に、サウンドトラック・アルバム収録曲以外の舘ひろし、柴田恭兵の楽曲と『まだまだ あぶない刑事』の主題歌、orange pekoe「空の庭」はフルサイズで収録したが、「FUGITIVE」だけはイントロのピアノをカットして、ドラマ内での使用法を再現した。
●映画第1作『あぶない刑事』(1987)
『あぶ刑事』初の映画化は、TVシリーズ最終回の予告編でも「スクリーンでまた会える」という言葉で伝えられ、大きな期待が寄せられた。そのサウンドトラック・アルバムは、劇場封切日の’87年12月12日よりも約1週間早い12月5日にリリースの『あぶない刑事 サウンド・トラック』。レーベルは舘ひろし「冷たい太陽」の発売元であるファンハウスに移った。この経緯は、’16年に発売のCD-BOX『あぶない刑事 ORIGINAL ALBUM COMPLETE』の封入ブックレットにあるスタッフ座談会によると、『あぶない刑事』の生みの親であるセントラル・アーツのプロデューサー黒澤満がファンハウスに出向いて、舘ひろしの担当プロデューサーにサントラ盤を同社からの発売することの打診に端を発したという。そして、東映側の音楽プロデューサーと打合せをした時、話に出てきた映画はここでも『トップガン』だった。
『あぶない刑事 サウンド・トラック』
1987年12月5日発売
*配信は’87年盤と一部異なる内容
アルバムは映画のための新曲の他、TVシリーズから「冷たい太陽」と「RUNNING SHOT」(前出のアルバム『SHOUT(シャウト)』のMIX)も含む全10曲を収録。英語歌詞の挿入歌に起用されたヴォーカリストは、鎌田英子(A-mi)と、現在はディサロ水城として活動している小山水城。鎌田英子は’85年にファンハウスからデビューしており、このサウンドトラック・アルバムから「再会のJoker」が映画のイメージ・ソングとして先行シングル・カットされ、11月25日にリリース。この曲は新曲の中で唯一の日本語歌詞であり、映画内では使われていない。尚、この『あぶない刑事 サウンド・トラック』は映画の大ヒットという追い風もあり、10万枚くらいの高セールスを上げた。
映画内の音楽は、TV版でおなじみのBGM(劇伴)、EPIC・ソニーのサントラ盤から「Cops And Robbers」、シングルのMIXである「ランニング・ショット」、さらに『あぶない刑事 サウンド・トラック』の新曲が要所に使われ、エンディングは「冷たい太陽」というTVシリーズを踏襲した構成になっていた。
(【Part2】へ続く)
高島幹雄 (たかしま・みきお)
バップ勤務時より『あぶない刑事MUSIC FILE』など音楽をアーカイヴするCDの企画制作や映像商品の制作に参加。ソニーミュージック発売の企画制作CDは『あぶない刑事 TAKA THE BEST』(’12年)『あぶない刑事ORIGINAL ALBUM COMPLETE』(’16年)『「あぶない刑事」NON STOP BEST』(’16年)『あぶない刑事オリジナル・サウンドトラックスペシャルエディション』(’23年)。他に新刊『あぶない刑事マニアックス』(講談社)の企画と構成・執筆。
『あぶない刑事マニアックス』
(講談社)
『帰ってきた あぶない刑事』
2024年5月24日劇場公開
舘ひろし 浅野温子 仲村トオル 柴田恭兵
土屋太鳳
西野七瀬 早乙女太一 深水元基
ベンガル 長谷部香苗 鈴木康介 小越勇輝 / 杉本哲太
岸谷五朗 / 吉瀬美智子
監督:原廣利
脚本:大川俊道 岡芳郎
製作プロダクション:セントラル・アーツ
配給:東映
©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会
https://abu-deka.com
2024年5月24日劇場公開
舘ひろし 浅野温子 仲村トオル 柴田恭兵
土屋太鳳
西野七瀬 早乙女太一 深水元基
ベンガル 長谷部香苗 鈴木康介 小越勇輝 / 杉本哲太
岸谷五朗 / 吉瀬美智子
監督:原廣利
脚本:大川俊道 岡芳郎
製作プロダクション:セントラル・アーツ
配給:東映
©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会
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【Part2】検証! “あぶ刑事”と音楽の歴史|1988-1989
解説
2024.6.14