2024年6月号|特集 あぶない刑事と音楽

【Part1】舘ひろし Special Interview|舘ひろしが語る『あぶない刑事』の音楽

インタビュー

2024.6.3

インタビュー・文/高島幹雄 写真/山本佳代子 取材協力/東映


「翼を拡げて」を作った時にホレた女の人がいて、君のために 僕は 生まれた、って。ロマンティストだったんだよね(舘ひろし)


── 今回は、『あぶない刑事』では音楽面でも多大なる足跡を残している音楽家としての舘さんに、自作曲も含めて“あぶ刑事”と音楽というテーマでお話を伺いたいと思います。

舘ひろし (優しく笑いながら)音楽家としては全くダメなんですよ、オレは。

── いえいえ、舘さんは『あぶない刑事』でも名曲を生み出していますから……。最新作『帰ってきた あぶない刑事』で舘さんが歌うエンディング・テーマのお話から伺います。映画2作目『またまた あぶない刑事』(’88年)とTVシリーズ『もっと あぶない刑事』の「翼を拡げてーOPEN YOUR HEARTー」が、「翼を拡げて 2024 re-recorded version」として装いも新たに、それこそ帰ってきたという感じがします。今回『帰ってきた あぶない刑事』で「翼を拡げて」を使おうというのは、舘さんのアイデアですか?

舘ひろし 僕からではなくて、近藤(正岳)プロデューサーが今回はこの曲が良いんじゃないかと。今回の映画は、新しい『あぶない刑事』だと思うんです。監督も、カメラマンも、照明もみんな新しいメンバーだから、「翼を拡げて」が合うような気がしていて、この曲で行きますって聞いた時には僕も納得できました。「翼を拡げて」は最初、僕の『ゴールデン・シャドウ』(’88年)というアルバムの曲として作ったんです。その頃ぼくはブライアン・フェリーが好きで、その影響もありました。

── アルバムの中の1曲として作って、その中から映画『またまた あぶない刑事』(’88年)のエンディングに選ばれ、シングル・カットもされたということだったんですね。

舘ひろし そうですね。

── 細かいことを言ってしまうと、「翼を拡げてーOPEN YOUR HEARTー」は、アルバム『ゴールデン・シャドウ』に収録の音とシングル・カットされた音では、別のミックスという記載はないですが、イントロの長さが違うんです。

舘ひろし そう、違うんです! 最初のダガダガダンッていうのは、短い中で衝撃的なドラムソロでしたね。

── さらに今回は舘さんが作詞した詞の一部といいますか、一言だけ変えていますが、それはどういった理由からでしょうか?

舘ひろし 「翼を拡げて」作った時からあの一言だけがずーーっと、すごく気になっていたんです。<美しきは 瞳 きらめき>という、この<きらめき>だけは本当にダサくて(笑)、自分の中で許せなくて……。でもその時は(制作上の)時間がなくて、そのまま進んじゃったんですけど。それで今回、新しく録音するなら、どうしても変えさせてほしいとお願いしたんです。それで<きらめき>の部分を<ふるえて>にしたんです。

── これはリスナーとしての深読みなんですが、『帰ってきた あぶない刑事』を観終えて、ラストのエンドロールでの「翼を拡げて」を聴いているうちに、<君の中に 僕を 見つけた>というフレーズが、タカから見た彩夏(土屋太鳳)のイメージにとても近く感じられて、この曲がエンディング・テーマとしてピックアップされたのはそれもあったのかなと思いました。

舘ひろし ……そんなことではないと思います(笑)。この曲を最初に作った時にホレた女の人がいて、(照れたような微笑を交えつつ)自分と似ているというか、解り合える女の人で……それでそういう詞を書きました。「君のために 僕は 生まれた」っていうのは、その時にそう感じたんです。(照れ笑いで)ロマンティストだったんだよね。



── 38年前のドラマ『あぶない刑事』が始まる頃にさかのぼります。オープニング曲(『帰ってきた あぶない刑事 オリジナル・サウンドトラック』での曲名は「ABUNAI DEKA opening theme」)よりも先に、エンディング曲の「冷たい太陽」を作ったそうですが、音楽でのオファーがあった時のことはおぼえていらっしゃいますか?

舘ひろし それは『あぶない刑事』を創ったプロデューサーの黒澤満さんとウチ(当時の石原プロモーション)の亡くなった小林専務が日活出身の仲間で、『あぶない刑事』に出演させる条件として、主題歌をぼくに歌わせたいということを小林専務が言ったと思うんです。それで、小林専務から「曲を作れ」という命令が僕にきました。

── ああ! 確か黒澤満さんは日活では撮影所の所長もなさっていたと伺いました。

舘ひろし この話を頂いた時に僕は『あぶない刑事』というタイトルが好きじゃなくて……。「あぶないなぁ」とか「あぶないよ」っていうのが、当時の若者の流行語としてあったんです。ぼくは俳優としてのデビューが東映で、黒澤さんがプロデュースの『皮ジャン反抗族』(’78年)や『薔薇の標的』(’80年)といった東映セントラルフィルムの映画だったり、石原プロの『西部警察』(’79~’84年)もあって、どれも義理人情というか、それでいてハードボイルドなものをやってきたので、「あぶない」というタイトルがもうひとつ自分の中では気に入らなかったんです。

── なるほど、そうでしたか……。

舘ひろし それで、『危険な刑事』にしたらどうですか? って提案したんですけど、黒澤満さんは、いやここは『あぶない刑事』でいきたいと。それで撮影が始まる前に曲を書くことになって、ぼくはアラン・ドロンの『太陽がいっぱい』(’60年)みたいなフランス映画の音楽を意識して、マイナーな曲を作ったんです。撮影をしていくうちに「オープニングの曲も作ってくれ」と言われて、もっと明るいというかスピーディーな「She’s So Cool」という曲を書いたんです。

【Part2】へ続く)




舘ひろし

1950年3月31日生まれ、愛知県名古屋市出身。千葉工業大学工学部建築学科卒。
1976年、東映映画「暴力教室」で俳優デビュー。
1982年に出演したTVドラマ「西部警察」(石原プロモーション/EX)をきっかけに、1983年2月8日、石原プロモーションに入社。
1984年、自ら作曲の「泣かないで」(東芝EMI)を発表、同年大晦日の「NHK紅白歌合戦」に初出場。
1986年、36歳で主演した連続TVドラマ『あぶない刑事』(セントラル・アーツ/NTV)のクールな刑事役で大ブレイク。TVドラマシリーズは1989年3月まで続き、劇場版は2017年まで計7作が制作された。

一方で1994年の映画『免許がない!』(東宝)や、1999年に放送のNHK BS衛星ドラマ劇場『玩具の神様』、2006年のNHK大河ドラマ『功名が辻』、2007年O.A.の連続TVドラマ『パパとムスメの7日間』(TBS)他、アクションのみならずコメディからラブロマンス、シリアスな役まで、幅広い演技力で数々のTVドラマや映画に出演。

歌手活動としては2012年、石原裕次郎の名曲10曲を歌い継ぐカバーアルバム『HIROSHI TACHI sings YUJIRO』(DefSTAR Records)を制作。第54回「輝く! 日本レコード大賞」企画賞を受賞、同年の大晦日に28年ぶり2回目となる「NHK紅白歌合戦」に出場。

さらにNHKスペシャルドラマ『坂の上の雲』(2009-2011年)やNHK土曜ドラマ『夏目漱石の妻』(2016年)、映画『アルキメデスの大戦』(2019年/東宝)では、“明治の男”の精神性と悲哀を、2018年公開の映画『終わった人』(東映)では定年を迎えたサラリーマンをコミカルに演じ、第42回モントリオール国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。同作品で2019年、第61回ブルーリボン賞 主演男優賞及び第42回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞をW受賞。2020年11月、旭日小綬章を受章。

2021年1月16日石原プロモーション終業。2021年4月1日舘プロを設立。(オフィシャルサイトから引用)

舘ひろしオフィシャルサイト https://tachipro.jp/hiroshi-tachi/





『帰ってきた あぶない刑事』
2024年5月24日劇場公開


舘ひろし 浅野温子 仲村トオル 柴田恭兵
土屋太鳳
西野七瀬 早乙女太一 深水元基
ベンガル 長谷部香苗 鈴木康介 小越勇輝 / 杉本哲太
岸谷五朗 / 吉瀬美智子

監督:原廣利
脚本:大川俊道 岡芳郎
製作プロダクション:セントラル・アーツ
配給:東映
©2024「帰ってきた あぶない刑事」製作委員会

https://abu-deka.com

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