2024年5月号|特集 大江千里『1234』
【Part4】佐橋佳幸と伊東俊郎が語る『1234』のレコーディング
対談
2024.5.31
インタビュー・文/細川真平 写真/山本マオ
伊東俊郎(左)、佐橋佳幸(右)
(【Part3】からの続き)
今聴くと信じられないぐらい素晴らしいソングライターだったんだなと思う
――当時のB面1曲目に収録されていたのが「サヴォタージュ」ですね。この曲では、ヴォーカルが前面に出ていますね。
伊東俊郎 B面の頭なので、歌をしっかり出そうということを意識しましたね。千ちゃんの歌の良さをしっかりと伝えられるようにしたかったということもありますし。
――トリルから始まる、短いながらも見事な佐橋さんのギター・ソロが聴けますね。
佐橋佳幸 うーん、細かいところはもう憶えていないですけどね。なんせ’88年のことですから、無理です(笑)。
――それはそうですよね(笑)。
佐橋佳幸 ただ、この曲もリズム録りから参加した憶えはありますね。
――次は「帰郷」です。これにはギターは入っていないですね。
伊東俊郎 初めてこの曲の歌詞を聴いたときの衝撃たるや……。
佐橋佳幸 ギターが入っていないから、僕も出来上がったのを後で聴いたんですけど、「今なんつった?」って思いましたよ(笑)。
伊東俊郎 ここで歌われていることが、今の世界情勢に繋がっていますよね。久しぶりに聴き直してみたら、「今って千ちゃんがこの曲で歌っていたまんまじゃん」って思ってしまいました。彼は、不安だとか、悲しいこと、つらいこと、失恋もそうだし、ひどい世界情勢とか、そういうマイナス要素を取り入れるアンテナが敏感なんじゃないかと思うことがありますね。そしてそれを、悲観的にというんじゃなく、クールに表現する詞が多いと思うんですよね。だから、聴いているこちらも、事実を突きつけられる怖さを感じるときがあって。ヴォーカル・ディレクション(ヴォーカルのレコーディングに際しての指示出し)をしているときにも、ガーッと感情的に歌ってもらったほうがいいのか、それとも音程、リズムも含めてカチッと歌ってもらったほうがいいのか、悩むことが多かったですね。
佐橋佳幸 この曲、メロディもすごくきれいだよね。千ちゃんって、歌詞も良いけどメロディもすごく良いんだよな。
――次は「昼グリル」です。
佐橋佳幸 僕、この曲好きなんですよ。“日比谷のグリル”から始まるこの歌詞って、すごいですよね。だって、今でも憶えている。僕が録音に行ったときには、千ちゃんはもうこの歌詞を歌っていましたね。それで、さっきの「帰郷」と同じで、この曲の歌詞を聴いたときにも、「今なんつった?」って(笑)。
伊東俊郎 不思議な曲だと思いましたよ。「同い年ぐらいの女性は、こんなふうに昼飯食っているのかな?」なんて思ったりもして(笑)。そういえばこの曲、最初はもっとレゲエ調だったんですよ。
佐橋佳幸 そうだった、そうだった、僕がギター弾きに行ったときももっとレゲエな感じだった。
伊東俊郎 それで、やっているうちにレゲエ色が強くなり過ぎて、最終的にそっちに行き過ぎないように仕上げたんですよね。
――次は「消えゆく想い」。スケール感のあるバラードで、ギターのアルペジオやオブリガートもすごく美しいですね。
佐橋佳幸 これは僕も弾きましたけど、松原さんのギターも入っていますね。プリプロのときの松原さんのギターを残している部分があるのかもしれない。
伊東俊郎 盛り上がって、千ちゃんの声が割れる感じになるところがグッときますね。
――間奏のピアノもすごく良い音ですが、録音は苦労されたんですか?
伊東俊郎 苦労はしてないですね。ここのピアノはダビングだし、コードじゃなくてメロディを弾いているだけですから。
佐橋佳幸 聴き直してみると、このアルバムでピアノを弾いているのはほとんど西本(明)さんだね。
伊東俊郎 松原さんのギターもそうだけど、西本さんのピアノも、プリプロの段階で入っていたものをそのまま使っているところもけっこうあるかもしれないね。
――そしてラストが「ジェシオ’S BAR」。サックスとギターの掛け合いがかっこいいですね。
佐橋佳幸(さはし・よしゆき)
●音楽プロデューサー、ギタリスト。東京都目黒区出身。70年代初頭、お小遣いを貯めて買ったラジカセがきっかけで全米トップ40に夢中になり、シンガー・ソングライターに憧れ、初めてギターを手にする。中学3年生の時に仲間と組んだバンドでコンテストに入賞。高校受験を控えつつも、強く音楽の道へ進むことを志す。’77年春・都立松原高校に入学。一学年上のEPO、二学年上の清水信之という、その後の音楽人生を左右する先輩たちと出会う。デビューを控えた“EPO”とのバンドと並行して、ロックバンドUGUISSを結成。’83年にEPICソニーよりデビューする。解散後、セッション・ギタリストとして、数え切れないほどのレコーディング、コンサートツアーに参加。高校の後輩でもある渡辺美里のプロジェクトをきっかけに、作編曲・プロデュースワークと活動の幅を拡げ、’91年にギタリストとして参加した小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」、’93年に手掛けた藤井フミヤの「TRUE LOVE」、’95年の福山雅治「Hello」等が立て続けにミリオンセラーを記録し、クリエイティビティが高く評価される。’94年には初のソロアルバム「Trust Me」を発表。“桑田佳祐”とのユニット“SUPER CHIMPANZEE”にて出会った、“小倉博和”とのギターデュオ“山弦”としての活動等、自身の音楽活動もスタート。’96年、佐野元春 & The Hobo King Bandに参加。’03年、EPICソニー25周年イベント<LIVE EPIC 25>の音楽監督。’15年、3枚組CD『佐橋佳幸の仕事(1983-2015)~Time Passes On~』をリリース。座右の銘は「温故知新」愛器はフェンダー・ストラトキャスターとギブソン・J-50。趣味は読書と中古レコード店巡り。UGUISSのデビュー40周年を記念したアナログ2枚組『UGUISS(1983-1984)~40th Anniversary Vinyl Edition~』が2024年4月リリース。
https://note.com/sahashi/
伊東俊郎(いとう・としろう)
●レコーディングエンジニア、サウンド・プロデューサー。1955年、鹿児島県生まれ。1976年に音響ハウスに入社し、その後CBS/SONY、スマイル・カンパニーを経てフリーランスとなる。大滝詠一、山下達郎、竹内まりや、吉田美奈子、佐野元春、大江千里、TM NETWORK、渡辺美里、米米CLUB、HOUND DOG、爆風スランプ、THE BOOM、ゆず、木村カエラ、家入レオ、岡崎体育など、多数のアーティストのレコーディングやプロデュースに携わっている。
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【Part3】佐橋佳幸と伊東俊郎が語る『1234』のレコーディング
対談
2024.5.24