2024年5月号|特集 大江千里『1234』

【Part2】佐橋佳幸と伊東俊郎が語る『1234』のレコーディング

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対談

2024.5.17

インタビュー・文/細川真平 写真/山本マオ


伊東俊郎(左)、佐橋佳幸(右)

【Part1】からの続き)


色をガーッと塗り重ねるのではなく、点描画もしくは水彩画みたいに塗っていく感じ



――伊東さんの作る音について、佐橋さんはどう感じていましたか?

佐橋佳幸 キラキラした、みずみずしい音というか……大村さんが伊東さんを指名していたのもたぶん、伊東さんがやるとこうなるという、音の色彩感のイメージみたいなものがあったからだと思います。それが分かったうえで僕は伊東さんに「こんなふうにしようと思っているんだけど、どう思います?」みたいな相談が普通にできるようになっていたので、このアルバムでは本当に自由にやらせてもらった感じですね。先ほど言った(「ROLLING BOYS IN TOWN」の)ギター・ソロ以外は、このときのレコーディングって本当にスムーズでしたね。飲みに行ける時間に終わっていましたから(笑)。

伊東俊郎 間違えてやり直しをするということがすごく少なかったからね。でも佐橋に「サビのところは良いから、頭のところだけ直してほしい」って頼んだら、「もう一回最初から全部やります」って言うのでやってもらったことはあった。「時間ないよ!」なんて言いながら(笑)。でも、そういうがノリを作ってくれる重要なポイントでもあったよね。

佐橋佳幸 今思い出したんですけど、「GLORY DAYS」にボトム(低音)のギターを入れたほうがいいって言ったのは、大村さんじゃなくて伊東さんでしたね。ガッガッガッて下で鳴っているやつ。みんなでそういうアイディアを出し合って作っていましたよね。あと、このアルバムを聴くと、リバーブ(残響音)でスマイルガレージ(スタジオ)だって分かりますね。

――リバーブ感も含めて、スネアの音が特に素晴らしいと思いました。

伊東俊郎 これは当時好評だったんですけれど、2000年代になるとうるさいって言われるようになって(笑)。

佐橋佳幸 僕はこの音、好きですよ!

伊東俊郎 今はまた良いって言われるようになってきましたけど。まあ、どう言われても知ったこっちゃない(笑)。

佐橋佳幸 めっちゃ良い音だと思います(笑)。リバーブは、スタジオにあった鉄板エコーを使ったんでしたっけ?

伊東俊郎 このときはリバーブ用のルームを作ったね。

佐橋佳幸 あ、そうだった!

伊東俊郎 倉庫にスペースがあったんで、そのコンクリートの部屋に回線を通してスピーカーを入れて、ルーム・エコーを録るための部屋を作ったんだよね。

佐橋佳幸 デジタル・リバーブは併用していないの?

伊東俊郎 してない。デジタル・リバーブはもう飽きちゃっていて(笑)。それと、TM NETWORKではデジタル・リバーブを使っていたから、色を変えるためもあってね。

佐橋佳幸 ああ、そうか。TMはああいうサウンドだからデジタル・リバーブが合うし。

伊東俊郎 だから、比べると『1234』のリバーブは少し密度が粗いというか……ガシャッていう感じですよね。美里の場合なら鉄板エコーなどを使って柔らかい感じにするし、アーティストによってそういう音色の棲み分けをしていたんですよね。



――お二人は『1234』制作に向けて、意気込みみたいなものはあったのでしょうか?






佐橋佳幸(さはし・よしゆき)
●音楽プロデューサー、ギタリスト。東京都目黒区出身。70年代初頭、お小遣いを貯めて買ったラジカセがきっかけで全米トップ40に夢中になり、シンガー・ソングライターに憧れ、初めてギターを手にする。中学3年生の時に仲間と組んだバンドでコンテストに入賞。高校受験を控えつつも、強く音楽の道へ進むことを志す。’77年春・都立松原高校に入学。一学年上のEPO、二学年上の清水信之という、その後の音楽人生を左右する先輩たちと出会う。デビューを控えた“EPO”とのバンドと並行して、ロックバンドUGUISSを結成。’83年にEPICソニーよりデビューする。解散後、セッション・ギタリストとして、数え切れないほどのレコーディング、コンサートツアーに参加。高校の後輩でもある渡辺美里のプロジェクトをきっかけに、作編曲・プロデュースワークと活動の幅を拡げ、’91年にギタリストとして参加した小田和正の「ラブ・ストーリーは突然に」、’93年に手掛けた藤井フミヤの「TRUE LOVE」、’95年の福山雅治「Hello」等が立て続けにミリオンセラーを記録し、クリエイティビティが高く評価される。’94年には初のソロアルバム「Trust Me」を発表。“桑田佳祐”とのユニット“SUPER CHIMPANZEE”にて出会った、“小倉博和”とのギターデュオ“山弦”としての活動等、自身の音楽活動もスタート。’96年、佐野元春 & The Hobo King Bandに参加。’03年、EPICソニー25周年イベント<LIVE EPIC 25>の音楽監督。’15年、3枚組CD『佐橋佳幸の仕事(1983-2015)~Time Passes On~』をリリース。座右の銘は「温故知新」愛器はフェンダー・ストラトキャスターとギブソン・J-50。趣味は読書と中古レコード店巡り。UGUISSのデビュー40周年を記念したアナログ2枚組『UGUISS(1983-1984)~40th Anniversary Vinyl Edition~』が2024年4月リリース。

https://note.com/sahashi/


伊東俊郎(いとう・としろう)
●レコーディングエンジニア、サウンド・プロデューサー。1955年、鹿児島県生まれ。1976年に音響ハウスに入社し、その後CBS/SONY、スマイル・ガレージを経てフリーランスとなる。大滝詠一、吉田美奈子、山下達郎、佐野元春、大江千里、TM NETWORK、渡辺美里、米米CLUB、HOUND DOG、爆風スランプ、THE STREET SLIDERS、THE BOOM、ゆず、木村カエラ、家入レオ、岡崎体育、DRUM TAO、本間昭光など、多数のアーティストのレコーディングやプロデュースに携わっている。


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