2024年5月号|特集 大江千里『1234』

⑦「帰郷」|Disc-1 CD『1234』|『1234 ~Special Limited Edition~』徹底検証

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レビュー

2024.5.17

文/ドリーミー刑事


当時の世情や空気をよりリアルに追体験させるジャーナリスティックなポップソング

 『1234』の前半6曲はいずれもパワフルで多彩なアレンジが施されてきたが、「帰郷」は一転して無伴奏の独唱から始まる。またそのメロディもどこか日本的な郷愁を感じさせ、老夫婦や鈍行などの言葉づかいからも、それまで描いてきた若き都市生活者の快活ぶりとは異なる内省が感じられる。モスクワに降りたセスナとは、東西冷戦の最中である’87年に西ドイツ人のパイロットが着陸を赤の広場へと強行した事件を、青森・佐世保・呉に入港しようとする船とは、チェルノブイリ原発事故を背景とした米軍の原子力空母に対する反対活動を指しているのだろう。このように大江の歌には時代を象徴するキーワードが含まれていることが多いが、’24年に聴き返すとそれが当時の世情や空気をよりリアルに追体験させ、優れたポップソングにはジャーナルな側面があることを教えてくれる。




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