2024年5月号|特集 大江千里『1234』

【Part3】大江千里が語り尽くす『1234』

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インタビュー

2024.5.16

インタビュー・文/森朋之

©PND Records & Music Publishing Inc.

【Part2】からの続き)

役者が芝居を固めるような、セリフを役に成り切って喋るような作り方をしていた



――アルバム『1234』の5曲目「ハワイへ行きたい」は、ホーンセクションを取り入れたカラフルな色彩の楽曲。モノトーンの印象が強い本作のなかではかなり異色の楽曲ですよね。

大江千里 僕の中ではもっとカラフルで派手なサウンドになる予定だったんですよ。大村さんのアイデアは、打ち込みの音で、少しダークな音色、ちょっと前に大沢誉志幸さんの「そして僕は途方に暮れる」でも使用していたようなクールな世界観です。それを僕が書いたサンバの曲のアレンジに使ったのです。僕はラテンのホーンセクションが入ったワイワイガヤガヤなビッグサウンドを頭に描いていたのですが、大村さんから出てきたのは少し冷めた印象の音でした。「軽く言わないで、この海の先は今日、前線に入る」という歌詞は最初からメロデイと一緒に僕から出てきたものだったので、その「前線」という単語で、大村さんはおそらくこのアレンジを思いついたんでしょうね。そこら辺はもう一回会って本当は話してみたいところです。いずれにせよ、おっしゃるように色彩は豊かですから、「前線に入る」の辻褄をどう曲に合わせるかをずっと悩み、スタジオの隅で膝を抱えていましたね。それで初めてその頃ハワイへ行った時に受けた印象を書くことにしました。想像よりうんと寂れたハワイの様子に最初はショックを受けるのですが、それを差し引いても素晴らしい大自然やビーチの素晴らしさを、細かく書くことにしました。

――“前線”には寒冷前線などの気候で使う場合と、戦闘の第一線という二つの意味があります。千里さんのなかで「ハワイへ行きたい」は、平和を願う曲でもあったのでしょうか?

大江千里 いやいや、そんなことはまったく、何も考えずに口から歌って出てきたのがそのフレーズだっただけです。でも面白いので使うことにしました。どこかでダブルミーニング的に「前線」が他の曲たちのシリアスさとどこかで繋がるわけです。この当時はアルバムのコンセプトを非常に重要視した時代だったんですね。アルバムには「青森や佐世保や呉や/招かれない船が港に入る」(「帰郷」)というフレーズが出てくる曲も入っています。これは「(西ドイツの青年が操縦する)セスナが赤の広場に着陸した」というニュースがきっかけでできた曲ですが、基本はラブソングです。日々いろんな出来事に翻弄されながらも、どこか乾いたイケイケの時代を、対立や争い、シビアな戦争など、避けて通れない出来事を、主人公たちの目が映している、それがこの『1234』というアルバムの世界観です。「ハワイへ行きたい」はリゾートを満喫してホテルへ帰りシャワーを浴びた主人公が、ふとテレビをつけると、地球のどこかで起こった戦争のニュースが目に飛び込んできたんでしょうね。でも彼はそれをどこか遠い場所で起こる非現実的なものとして突き放してみている。

――なるほど。LPレコードでいうと「ハワイへ行きたい」はA面の最後の曲。LPレコードが販売されたのは『1234』までで、次の「redmonkey yellowfish」からはCDのみのリリースとなりました。メディア的にも過渡期だったのかなと。

大江千里 レコードを作っていた頃はA面、B面の振り分けも意識して作っていました。僕自身が幼い頃からレコードを聴いていたので、A面を聴き終わると裏返さなくちゃいけないのは手間だし流れが途切れるから嫌なんだけど、その煩わしさがちょっとしたリセットになり、その後B面がまた始まる感じが好きだったんですよ。

――そして6曲目は「サヴォタージュ」。“B面の1曲目”に相応しい爽やかなポップソングです。

大江千里 妹が東京の僕の部屋に泊まりに来たことがあって。帰った後電話で「東京、どうやった?」って聞いたら「あんな町は何処にでもあるわな」って言ったんです。「田舎から出てきた人ばかりの集まりで、忙(せわ)しいわ」って。これは言い得て妙な表現で東京を表しているな、歌詞に使わない手はないなと思って。情景としてはTOKYO FMへ行く時によく使っていた東宮御所(迎賓館赤坂離宮)あたりの景色だったり。サウンド的にはシカゴの「Saturday in the Park」のイントロをそのまま使い。そういう時代です。そういう歌詞をたたみ込むように歌ってみたいなと、なのでキーも若干高めです。

――なるほど。その頃の千里さんにとって、“東京”はどんな場所だったんですか?




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