2024年5月号|特集 大江千里『1234』
【Part2】大江千里が語り尽くす『1234』
インタビュー
2024.5.9
インタビュー・文/森朋之
©PND Records & Music Publishing Inc.
(【Part1】からの続き)
歌は聴く人の数だけ進化して、僕の元へ帰ってくる僕の曲も、まるで新曲のように響く
――ここからはアルバム『1234』の収録曲について聞かせてください。1曲目の「GLORY DAYS」は先行シングルですが、やはりリード曲的な立ち位置だったのでしょうか?
大江千里 まっちゃん(ディレクターの松浦善博)とアルバムに向けてブレインストーミングをやったんですよ。箱根の温泉宿に二人で行って、マランツのカセットデッキで収録曲を聴いて。120分のカセットテープに「GLORY DAYS」の他にも「ジェシオ’S BAR」「Rain」など収録曲のほとんどが既に出来ていて入っていたんですけど、まっちゃんは「このタイミングで大江千里が<Rain>をシングルにしたら、世の中はどえらいことになるで」って言ったんです。「EPICは<GLORY DAYS>のようなキャッチーな曲を選ぶだろうし、千ちゃんの未来にとってはそれが正しいと思う。だけど俺としては<Rain>なんだよな」って。
――「Rain」がシングルとして先に出る可能性もあった?
大江千里 あったと思いますね。僕の気持ちとしては、前回言ったように「サヴォタージュ」「帰郷」「昼グリル」など私小説的な曲がこのアルバムの中では好きで。それらこそが日々を生きている中で内側から出てくるものというか、当時の身の丈をそのまま書いた曲がシングルになればいいなと思っていたんですけど、一方で「もっとチャート的に上に行きたい」という上昇意欲というのかな。それで「GLORY DAYS」や「ジェシオ’S BAR」「ROLLING BOYS IN TOWN」みたいな、コンサートで盛り上がる前提のポップな曲を書いたんですよね。
――アルバムは「GLORY DAYS」で華やかに幕を開けますが、2曲目「平凡」で雰囲気が大きく変わります。まさにモノトーンの世界観というか。
大江千里 僕の中では「平凡」も充分にシングル候補だったんですけど、結果的には全然違ったみたいですね(笑)。『1234』の曲を制作していた時期は、一晩で何曲もの素材のメロディと歌詞を同時に書いていたんですよ。キーボードを弾きながら思い付いたフレーズがあるとそこから物語を作って一気に曲の最後まで歌い切ると言うものをどんどん録音して、そのカセットテープを後で聴き直して。その中に「彼女ならあの岩場で ぼくをにらんでた」(「平凡」)と言う出だしの曲が入っていたんです。ものすごいエネルギーで「誰もがうつろに交わしてる 誰もがひとりを恐れてる」なんて部分は「これは日本のポップスの概念を変えるな」と。次々にエッジーな表現が出てくるしそれがメロディと既に結婚している。世間的にどうなんだろう?って内心チラッと思うこともあったけれど、大村さんもまっちゃんも止めないから(笑)、「よし、やっちゃえ」という感じでした。
――アコースティックギターの鋭い音色、ストイックな雰囲気のリズムアレンジも印象的です。
大江千里 アコギをザクザクかき鳴らしてちょっと聴くとプリミテイヴなんだけど、その実ものすごく洗練されていて、言葉がグルーヴィーな感じを牽引していて。前の年にジョージ・マイケルの「Faith」がヒットしたんですね。ヨーロッパに行ったとき、確かアムステルダムで乗り継ぎしたときだったかな、ジョージ・マイケルのポスターが壁一面に貼ってあったのを覚えているんだけど、あの曲もアコギを使っているじゃないですか。たぶんそのアイデアが頭の中にあって、「アコギをかき鳴らして、僕のツバキとかも飛んでくるくらい歌詞が飛び込んでくる曲を作るから、録音される音全部がリズムになるようなアレンジにしてほしい」とお願いしたんです。大村さんはいつもの感じで「えー本当? やっちゃう?」って若干懐疑的な表情で言っていたんだけど、スタジオが始まったら大村さんが率先して「もっとガーッて迫るように弾いて」って指示してくれて。「ちゃんと理解してくれているんだな」と感謝しましたね。
――続く「ROLLING BOYS IN TOWN」は“ROLLING BOYS ROLLING GIRLS”というボーカル&コーラスではじまるアッパーチューン。開放的なポップナンバーです。
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