2024年4月号|特集 大滝詠一 EACH TIME

【Part4】井上鑑スペシャル・ロングインタビュー

会員限定

インタビュー

2024.4.30

インタビュー・文/荒野政寿 写真/山本マオ


【Part3】からの続き)

長い時間をかけて録っても、出来上がりを聴いたら全然音が聞こえないこともあった


── 東芝EMIから続けてリリースされた井上さんのソロアルバムは『PROPHETIC DREAM』(1982年)、『CRYPTOGRAM』(’82年)、『SPLASH』(’83年)と作を重ねるごとにプログレッシヴな要素、最新のサウンドへの接近が顕著になっていきますし、大滝さんの『EACH TIME』セッションに参加されていた時期は、ちょうどカセットブック『カルサヴィーナ』(’84年、’20年にCD化)で実験的なアプローチをされていた頃でしたよね。アレンジャーとして手がけた歌謡曲やニューミュージックの作品も並べると音楽的な振れ幅が非常に大きいですが、そういう時期に並行して『EACH TIME』のようなポップ・アルバムも手がけることができてしまうバランス感覚が、「どうしてこんなに何でもできてしまうんだろう?」と、いちファンとしては何とも不思議でした。

井上鑑 僕はバンドでデビューしたり、アーティストとしてデビューしたりしたわけではなくて。CM音楽を作るところからキャリアがスタートしているので、ジャンルが違うとか音楽的な要素が違うっていうことは全然気にならないんです。ただ、CMの場合はクリエイターが持っている視点とか方向性がとても大事なので、操上和美さんとか市川準さんとか、凄い人たちが活躍している時期にその近くにいて、いろんなことを勉強しながら楽しんで仕事をできたのは幸いでした。で、その「楽しくて勉強になる」の代表格が大滝さん、という感じです。大滝さんも感覚的に近いからっていうことだけではなく僕を呼んでくれているのがわかったので、だから違和感は全然なかったです。向こうも面白がって僕を見ていたんじゃないかと思う。そこから、だんだんと近付いていった感じはやっぱりあるので、『EACH TIME』辺りで少し取り入れられ方も変わってきたんだと思うし。同時に自分の方にも、いろんなものが大滝さんから返ってきていると思います。


井上鑑
『カルサヴィーナ』

1984年11月発売


── 『EACH TIME』に収録されなかった曲のひとつである「バチェラー・ガール」は、’84年に録音された大滝詠一さんのヴァージョンも、稲垣潤一さんがカバーした際のヴァージョンも、編曲を井上さんが担当されました。稲垣さんが大滝さんの曲を歌うという展開は意外でしたが、声質だけ見るとタイプ的に遠くないシンガーなのかなと感じる部分もあって。

井上鑑 うん、声質的にはそんなに遠くはないです。いわゆる“ホット”な声ではないですからね。


稲垣潤一
「バチェラー・ガール」

1985年7月20日発売


── 稲垣さんヴァージョンの「バチェラー・ガール」はアレンジを考える際に、どんなところに留意されましたか?

井上鑑 特に意識して大きく変えたつもりはないんですよ。稲垣君は最初に「雨のリグレット」(’81年:作詞:湯川れい子、作曲:松尾一彦)という曲を一緒に作ったんですけど、その時の印象がやっぱり強くてね。透明感のある高い声で、雨のイメージが強かったので、「バチェラー・ガール」もごく自然にできました。松本隆さんの歌詞の歌い出し……「雨はこわれたピアノさ」というのも、とても印象的なフレーズでしたね。



── ’85年に発売されたシングル「フィヨルドの少女 / バチェラー・ガール」から12年を経てようやく届いた大滝さんのニューシングル「幸せな結末」(’97年)、そして最後のシングルになった「恋するふたり」(’03年)にも井上さんは参加されましたよね。どんな感じで大滝さんから声をかけられたのでしょうか?




井上鑑 (いのうえ・あきら)

●東京生まれ。桐朋学園大作曲科在学中(三善晃氏に師事)より作編曲家として音楽活動を開始。『PROPHETIC DREAM 予言者の夢』でデビュー。寺尾聰「ルビーの指環」で日本レコード大賞編曲賞受賞。ほとんどの大滝詠一作品に参加。福山雅治、佐野元春、吉田兄弟他多数のヒット作、話題作に参加。先鋭な感覚と確かな書法で多彩な表現を展開している。2023年春15枚目のソロアルバム『RHAPSODIZE』発表。アルバム、ライブ音源共に、立体音響での配信もスタートしている。

https://www.akira-inoue.com
https://www.facebook.com/akirainoue.pabloworkshop
https://vimeo.com/user31500643




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