2024年4月号|特集 大滝詠一 EACH TIME

【Part5】『EACH TIME』全容|Eighties TIME~大滝詠一80年代ストーリー~

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解説

2024.4.26

文/小川真一


どの時代の『EACH TIME』と出会ったのかによって、その印象は大きく違う


 『EACH TIME』は、’84年3月21日にはリリースされた。大滝の誕生日である7月28日に出すという予定は果たせなかったが、無事に完成を迎えたのだ。

 最初は『A LONG VACATION』と同じく、レコードとカセット・テープの二種類のメディアで販売された。CDは少し遅れてのリリースとなったのだが、そのCDが爆発的に売れ、チャートで連続3週第1位を記録した。これは日本人としては初めてのこと、快挙だと言っていい。当時はまだCDの普及率が低かったのだが、その普及に『EACH TIME』が拍車をかけた。

 『EACH TIME』について、大滝詠一は色々な発言をしている。アルバムのタイトルは、コンセプト・アルバムではないので、最後の最後に決まった。また曲の集合体なので何でもいいやと思っていて、実際にある時期まで“A LONG VACATION 2”(略して「バケツー」と呼ばれていたそうだ。それにしても『EACH TIME』のタイトルのハマり具合は見事だ。このタイトルであのジャケット、他に置き換えることなんてできない。


40th Anniversary Edition『EACH TIME VOX』【完全生産限定盤BOX】ブックレットより


 大好評だった『A LONG VACATION』の次回作ということでのプレシャーはあったのかの質問には、「ぜんぜんなかった。売れるだろうと思っていたから。時の勢いだからね」と答えている。大滝自身にも、時代の勢いが追い風になっているという自覚はあったのだ。

 ’84年版のオリジナル『EACH TIME』は、全9曲で発売された。アナログ盤で言うと、「魔法の瞳」から「銀色のジェット」までの5曲がSIDE 1(A面)、「1969年のドラッグレース」から始まり「レイクサイド ストーリー」で終わるのがSIDE 2(B面)となる。他にもレコーディングの過程で出来上がった曲があったのだが、アナログ盤は曲を多く入れ過ぎると音質に影響が出てしまう。またA面から始まり裏返してB面になるという、アナログ・レコードだからこその構成美も考慮しなけれならない。この事を考えながら曲が絞り込まれていった。

 曲順について、色々なプランがあったようだ。今回の『EACH TIME 40th Anniversary Edition』のブックレットにも写真があるが、「1969年のドラッグレース」がA面のトップだったり、「フィヨルドの少女」が入っていたり、「魔法の瞳」が「Magic In Your Eyes」のタイトルでB面の頭に来ていたり、様々な試案があった。その試案通りに並び替えてプレイリストを作ってみるのも面白いだろう。


大滝詠一
『EACH TIME』

1984年3月21日発売


 ’84年の初出版『EACH TIME』は、「レイクサイド ストーリー」で締め括られている。この曲も逸話があり、マスター・テープをプレス工場に持っていくその直前になって、もう一つのヴァージョンに取り替えられた。それが最初に耳にした壮大なエンディングのヴァージョンなのだ。最後の歌詞で一度曲が終わりそうになるのだが、そこから再び三連のリフレインが盛り上がり、ハリウッド映画のラストのようなエンディングを迎える。個人的には、このヴァージョンが一番耳に馴染んでいる。

 ところが、『EACH TIME』の全曲を12インチ・シングルに切り直した『EACH TIME SINGLE VOX』(’84年4月1日発売)では、エンディングがフェイド・アウトするヴァージョンに入れ替わっている。その後の経緯も書いておくと、オリジナル『EACH TIME』に収録されなかった「Bachelor Girl」と「フィヨルドの少女」を追加した’86年の『Complete EACH TIME』は、フェイド・アウト・ヴァージョン。’89年版『EACH TIME』の「レイクサイド ストーリー」は、フェイド・アウトながらもミキシングが微妙に違う。’91年のCD選書版は’89年版とほぼ同じ。2004年に出された『Final"20th Anniversary Edition』においては、フェイド・アウトではあるがそのフェイド・アウトのタイミングが違っていて、全体の尺が短くなっている。と言った具合に、複雑な経緯を辿っているのだ。




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