2024年4月号|特集 大滝詠一 EACH TIME

【Part3】井上鑑スペシャル・ロングインタビュー

会員限定

インタビュー

2024.4.24

インタビュー・文/荒野政寿 写真/山本マオ


【Part2】からの続き)

大滝さんの中で、普遍的なものを求める気持ちが強くなっていたんじゃないかなと思う


── 1983年7月28日にリリースされる予定だった『EACH TIME』は一旦発売が延期され、7月24日に西武球場で行われた「ALL NIGHT NIPPON SUPER FES ’83 / ASAHI BEER LIVE JAM」に出演した際の演奏が、大滝さんにとってソロ名義で最後のライヴとなりました。2019年にアルバム『NIAGARA CONCERT ’83』としてようやく日の目を見たこの日のライヴは井上さんがアレンジを担当されましたが、当時のことは覚えてらっしゃいますか?

井上鑑 めちゃめちゃ覚えていますよ(笑)。僕、そのとき日本にいなかったんですよね。ちょうどロンドンにいる時間を増やしたいと凄く思っていた時期で、向こうにいたんですけど。「そうか、いないのか。じゃぁ譜面を送ってくれ」という指令が来ました。何しろ今のような通信手段なんか全然ないですし、ファックスも一般の家庭にはまだほとんどない時代でした。東京はもうちょっとマシだったと思いますけど、当時のロンドンでは東京でやるみたいに文房具屋で譜面をコピーすることもできなくて。仕方ないので、フジテレビ系FCI現地の事務所で助けて頂きまして……ただ、スコア用紙は1回にファックスできない大きさなんで、半分ずつ送ったりしていました。多分、A4サイズしか送れなかったと思う。なのでスコア1ページを2枚に分けて順番に送っていくんですけれど……。


『NIAGARA CONCERT ’83』
2019年3月21日発売


── 気が遠くなるような作業ですね。送信にも時間がかかったでしょうし。

井上鑑 ファックスでやり取りしている途中で、大滝さんから電話がかかってきて、「あそこをこう変えたい」とか言われる。で、直して、また送って、みたいな……よく覚えています(笑)。曲数もかなりありましたから、譜面を書くだけで結構大変だったんですけど、それを日本へ送って、また修正してっていう作業が凄く大変で。そのたびにフジテレビの事務所にお邪魔して。そうやってファックスでやり取りして納品したので、僕は当日の現場も見てないんです。音も後から聴きました。

── なるほど。『EACH TIME』もレコーディング中はどういうアルバムになるのかよくわからなかったとおっしゃっていましたが、あれも大滝さんの歌が入ってリリースされたものを聴いて、初めて全体像を把握できた感じでしょうか。

井上鑑 そうですね。だから言葉との関係とかは、本当にリスナーとして聴いて、初めて理解するっていう。「こういうものを作るから」と説明を受けたわけじゃないですけど、やっぱり『A LONG VACATION』からの流れで、どういう方向に向かっているかっていうのはなんとなくわかるんで、「なるほど、こうなったか」っていう印象が強かったです。僕は松本隆さんとは南佳孝さんの“映画名作シリーズ”のアルバムでかなりがっちり組んでやっていたので、手口はわかる感じだったんですけど。でもメロディーと言葉の関係っていう意味でも、本当に凄い完成度のアルバムだなと『EACH TIME』を聴いたときに思いましたね。

── 出来上がった『EACH TIME』は、どんなところに『A LONG VACATION』との違いを感じましたか?




井上鑑 (いのうえ・あきら)

●東京生まれ。桐朋学園大作曲科在学中(三善晃氏に師事)より作編曲家として音楽活動を開始。『PROPHETIC DREAM 予言者の夢』でデビュー。寺尾聰「ルビーの指環」で日本レコード大賞編曲賞受賞。ほとんどの大滝詠一作品に参加。福山雅治、佐野元春、吉田兄弟他多数のヒット作、話題作に参加。先鋭な感覚と確かな書法で多彩な表現を展開している。2023年春15枚目のソロアルバム『RHAPSODIZE』発表。アルバム、ライブ音源共に、立体音響での配信もスタートしている。

https://www.akira-inoue.com
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https://vimeo.com/user31500643




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