2024年4月号|特集 大滝詠一 EACH TIME

⑨「ガラス壜の中の船」|Disc1-9|『EACH TIME 40th Anniversary Edition』全曲解説

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レビュー

2024.4.11

文/柴崎祐二


「ガラス壜の中の船」


別れと終焉の感傷がくっきりと刻み込まれたセンシュアルな歌唱



 もしかするとこの曲は、かつて大滝自身が歌った曲「それはぼくじゃないよ」で、いまだ初々しいカップルだった“ぼく”と“君”の10余年後の姿が描かれているのではないか。聴くたびにそんな妄想が頭をもたげてくる。短くない歳月を付き添ったふたりが、なにかの理由で別れを決意する。雨の中、車で“君”を送る“ぼく”。しかし、タイミング悪く車が故障してしまう。まるで壜の中の船のように、重い空気をまといながらその場にとどまるしかない。かつてふたりで過ごしたある朝、陽光の中でささやかな幸福を抱きしめたあの頃は、すでに手の届かない遠い思い出になってしまった。




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