2024年4月号|特集 大滝詠一 EACH TIME

①原田夏樹(evening cinema)|My “EACH TIME” ~ 私が考えるBest Song Order

プレイリスト

2024.4.1

この企画は、リイシューされる度に楽曲が追加されたり曲順が変わったりするという稀有な名盤『EACH TIME』を、独自の解釈で曲順を決めてしまおうというもの。第1回目は、若きナイアガラ・ファンを代表して、evening cinemaの原田夏樹が選曲。


選曲・文:原田夏樹(evening cinema)
1. 恋のナックルボール
2. 1969年のドラッグレース
3. フィヨルドの少女
4. 魔法の瞳
5. Bachelor Girl
6. ガラス壜の中の船
7. SHUFFLE OFF
8. 木の葉のスケッチ
9. 夏のペーパーバック
10. ペパーミント・ブルー
11. 銀色のジェット
12. レイクサイド ストーリー
13. マルチスコープ

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レコードプレイヤーに乗せて面と向かってでないと聴くことができないアルバム

 私の「大瀧詠一原体験」なるものがあるとすれば、それは紛れもなく両親のCD棚でした。2000年代に大瀧さんを後追いで知った私が、当時両親の所有するCDで聴いていたのが「CD選書」の『EACH TIME』でした。オリジナル通りの曲順ですが、「レイクサイド ストーリー」はフェードアウトのやつですね。これこそが『EACH TIME』という印象が、未だに拭えません。僕の耳はこのエディションに育てられてきました。その反動なのか、今回は思い切ってひっくり返してみようという感じの曲順になりました。

 余談ですが、私は今や『EACH TIME』を真っ向から聴くことができないのです。それは、例えば、ブライアン・ウィルソンの狂気の結晶とも言える『Smile』を、初期のビーチボーイズと同じテンションで聴くことができないということにも似ています。ロンバケを経た大瀧さんは、おそらく、自身の描いていた理想系をある程度捉えてしまっていた。だからこそ、不作に悩まされるというよりも、「やれることを全部やってしまった」という意味で、その後の長い沈黙に繋がったのではないか。こう思えてならないのです。「音楽を作ることは命を削ることだ」といった文言は、今となっては常套句のように聞こえますが(ちなみに私はあまり好きな言葉ではない)、それを文字通り極限の次元で実践してみせたのが大瀧さんなのだろう、と。

 こういうわけで、ロンバケが一番好きな作品だし、電車やタクシーでの移動中にも聴くことがしばしばありますが、こと『EACH TIME』に関しては、私はレコードプレイヤーに乗せて面と向かってでないと聴くことができないのです。呪いというか、怨念にも似た大瀧さんの執念が最も顕著に表れているアルバムだからです。どうやったってBGMにはできない強度がある、それは私にとってのブライアン・ウィルソン然り、ビートルズ然り、といった感じなのです。それだけに、今回改めて聴き返す作業には、ある種の緊張感が伴いました。





原田夏樹(はらだ・なつき)

●東京を中心に活動する4人組ポップスバンド、evening cinema でボーカル・プロデュースを担当する。70~80年代のシティポップや90年代の渋谷系を主軸に、彼らのフィルターを通して再構築したサウンドで独自の存在感を放つ。その懐かしくも新しい響きは、年代を問わず深掘り好きな音楽リスナーを中心に着々とファン層を増やしている。2019年、TikTokが火付け役となった大ブームをきっかけに中国ツアーも開催するなど、世界からも注目されるアーティストとして、国内外を問わない精力的な活動を続けている。

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