2024年3月号|特集 作詞家の世界

【Part4】小西康陽が語る「私が好きな作詞家たち」

会員限定

インタビュー

2024.3.28

インタビュー・文/馬飼野元宏



【Part3】からの続き)


作詞家の詞について考えることで、自分のルーツに山上路夫さんの詞があったんだと思い起こさせてくれた


――小西康陽さんが、名作詞家たちの作品を語っていただくインタビュー、最終回は「放送作家、コピーライター、マルチタレント」という枠です。日本のポップスの最初期である50年代、まだレコード会社の専属作詞家が活躍していた時期から、放送作家出身の方が多く作詞を手掛けることがありました。まず、その時代の代表格でもある永六輔さんです。

小西康陽 坂本九さんの「上を向いて歩こう」(’61年)、水原弘さんの「黒い花びら」(’59年)、北島三郎さんの「帰ろかな」(’65年)と3曲選びました。

――放送作家やコピーライターの方って、企画・コンセプトありきで作詞されることが多い印象がありますが、永六輔さんの詞、ことに挙げていただいた3曲は、そういう企画性が全く感じられない詞ですね。

小西康陽 うん、そうですよね。その意味では、永六輔さんも「詩人」であったのかもしれないですね。

――3曲とも、中村八大さんの作曲で、いわゆる「六・八コンビ」と呼ばれる組み合わせです。

小西康陽 永六輔さんと中村八大さんって、たまたま銀座の往来でばったり出会って、明日までに10曲を書き下ろさなくてはならなくて、困り果てていた八大さんが、永さんにその場でお願いして徹夜で作ったうちの1曲が「黒い花びら」だそうですね。そんな偶然って本当にすごいことだと思う。


水原弘
「黒い花びら」

1959年7月発売



――しかも「上を向いて歩こう」と「黒い花びら」は、世界観は全然違うのにどちらもスタンダードになってしまった。

小西康陽 永六輔さんは、「いい湯だな」(’66年)をはじめ、いずみたくさんと組まれた「にほんのうた」シリーズも全部好きです。ただ、北島三郎さんの「帰ろかな」ですが、この曲に関しては、作家の方から売り込んだのか、レコード会社の方から六・八コンビに依頼したのか、どっちなんでしょうね、すごく不思議です。

――「帰ろかな」は、「上を向いて歩こう」と同様に、NHKの『夢であいましょう』の「今月のうた」として作られた曲だそうです。

小西康陽 ああ、そうだとしたら、北島三郎さんに歌わせたのは大正解ですね。

――この曲、三橋美智也さんが得意だった望郷演歌、集団就職の世界ですよね。永六輔さんと並ぶこの時代の放送作家の方では、やはり青島幸男さん。まずハナ肇とクレージーキャッツの「ホンダラ行進曲」(’63年)。歌詞をあらためて読んでみたのですが、リズムからの発想なのか、意味のない言葉を、思いつきのフレーズだけでパッと作っちゃったような…。

小西康陽 そのテキトーさがすごいですよね。でもすごく印象に残る。いや、これは本当にクレージーキャッツのベストワンだと思います。そもそも「ホンダラ」ってどういう意味なんだ?ってことを、人に考えさせない。さらに坂本九さんが、ダニー飯田とパラダイスキング在籍時に出した「九ちゃんのズンタタッタ(聞いちゃいけないよ)」(’61年)。これは作曲も青島さんがやっているので、よりメロディーと言葉が一体化している。あとはやっぱり坂本九さんの「明日があるさ」(’63年)。これは逆に、えっ、これも青島さんの作詞だったんだ!という驚きがありました。


ハナ肇とクレージーキャッツ
「ホンダラ行進曲」

1963年4月20日発売



――ストレートな人生讃歌ですから、ナンセンスな「ホンダラ行進曲」とは随分と違う作風です。永さんにしても青島さんにしても、この時代の放送作家の方って、今はあまりいないタイプかもしれませんね。この時代は他にも野坂昭如さんや五木寛之さんたちもCMソングの作詞を始めています。他に、今回お名前が出てこなかった作詞家の方で、印象に残った方、エピソードのある方、あるいはもっと世代が後の方ではどなたかいらっしゃいますか。

小西康陽 「音楽家」の枠になるんですが、つんく♂さんが作る曲は、やっぱり言葉が入ってきますよね。僕は天才だと思う。モーニング娘。の「LOVEマシーン」(’99年)を聴いた時は感動しました。「日本の未来は」っていう箇所が特に好きです。他にもいい作詞家さんはたくさんいますが、特に僕が取り上げなくてもいいかな…という方たちでしょうか。エピソードで言えば僕、ビクターのスタジオで、康珍化さんが目の前で作詞をしているのを見たことがあるんです。亀井登志夫さんの曲に詞をつけて、その曲に僕がアレンジを頼まれていたんですが、その場で何度も書き換えて、最初に来た詞と全然違う、真逆の内容になっていてびっくりした記憶があります。本当に、20分ぐらいで書き直されていました。作詞家の人ってみんな書くのが早いです。あれは僕にはできないな、と思った。


モーニング娘。
「LOVEマシーン」

1999年9月9日発売



――小西さんは、通常、詞を書かれる場合、どのくらいかかるのでしょうか。

小西康陽 自分で曲も書く場合は、もう一瞬ですけれど、例えば田島貴男さんの曲に詞をつけた時などは、2日で1曲みたいな感じだったかなあ。コーラスを入れてから歌詞を直したりして、エンジニアに怒られたり。

――小西さんが、これまで好きな詞として挙げていただいた作品には、ご自身で歌われたり、アレンジされてカヴァーした作品が多いですが、実際に歌ってみて新たな発見があった、ということはありますか。

小西康陽 歌って発見したといえば、昨年、パラダイスガラージの豊田道倫さんと名古屋でライブをやったんですよ。名古屋でやるなら、と思って僕の大好きないとうたかおさんの「あしたはきっと」(’72年)をカヴァーしたんです。


いとうたかお
「あしたはきっと」

1972年05月1日発売



――いとうさんは名古屋のフォークシーンの第一人者ですね。





小西康陽(こにし・やすはる)
●1959年、北海道札幌生まれ。作編曲家。
1985年にピチカート・ファイヴのメンバーとしてデビュー。
解散後も、数多くのアーティストの作詞/作曲/編曲/プロデュースを手掛ける。


4.21 sun
『ノラオンナ58ミーティング デビュー20周年「風の街へ流れ星を見に行こう」』
LIVE : ノラオンナ(声とウクレレ)
MUSICIANS : 柿澤龍介(ドラムス)・橋本安以(ヴァイオリン)・外園健彦(ギター)・藤原マヒト(ピアノ)・古川麦(声とホルン)・宮坂洋生(コントラバス)
GUEST : 小西康陽(声とギター)
DJ : juri
at 吉祥寺 スターパインズカフェ
開場 18:00 / 開演 19:00
https://mandala.gr.jp/SPC/schedule/202040421/

5.10 fri
『コーヒーハウス・モナレコーズ』
LIVE : 麻田浩・大江田信・小西康陽
DJ : 菅野カズシゲ
at 下北沢 mona records
開場 / 開演 19:00
https://www.mona-records.com/livespace/19010/




↑↑↑↑『山上路夫ソングブック-翼をください-』スペシャルサイトはこちら↑↑↑↑