2024年2月号|特集 筒美京平

【Part1】作詞家・橋本淳が語る「盟友・筒美京平」|最新曲:平山みき&野宮真貴「アーティスト/ホットな地球よ」

インタビュー

2024.2.14

インタビュー・文/鈴木啓之 写真/島田香


 大作曲家・筒美京平が遺した楽曲に盟友の橋本淳が作詞した新作「アーティスト/ホットな地球よ」が2月14日にリリースされる。デビューからずっとふたりの作品を歌い続けてきた平山みきと、ピチカート・ファイヴ時代に筒美からの楽曲提供も受けていた野宮真貴によるデュエット。筒美が作曲家になるきっかけともなった作詞家界の重鎮・橋本淳氏に、今回の新曲のこと、筒美とのゴールデン・コンビによる作品周辺のことをたっぷりと伺った。4回にわたって貴重なインタビュー内容をお届けする。


── 今回の新曲「アーティスト/ホットな地球よ」発売に至った経緯をお聴かせください。

橋本淳 僕は京平さんとは長い間一緒に仕事をしていましたが、70年代後半くらいになると少し疲れてきちゃって、僕自身が歌を作るのをやめたんですよ。それからは本当にもう何曲か手がけるくらいだったのですが、全然作ってなかったんです。それでも京平さんとの交流は続いていました。お身体の具合があまりおもわしくなくなってからもたまに会っていて、亡くなる3日前にも京平さんの家に行っていたんです。それから3日後に奥さまから残念な報せが届いてしまった。それで京平さんが亡くなった後に、以前「これやってよ」と言われていた曲が6、7曲はあったなと思い出して。作家でも作曲家でも亡くなって時間が経つと、引き潮のように人はどんどん忘れていくじゃないですか。僕の気持ちとしては、それが嫌で、なんとか京平さんの作曲で僕が持ってるものを少しずつ出しながらでも忘れられていくのを一日でも遅くなるようにしたいななんて思っていたんです。

── 今回かつておふたりの秘蔵っ子としてデビューされた平山みきさんに声をかけられたのはやはり必然だったということでしょうか。

橋本淳 京平さんの曲は16ビートの裏を当てていくように歌手が歌わないと、パンパンって弾けていかないんですよ。だから、ストレートボイス、声がガーンと出る人が好きなんですね。そういう意味ではもう彼女に勝る人はいないだろうと。京平先生が遺されたものは、やっぱり平山みきさんが歌われるのが一番だろうと思いました。と言いながら、もうずいぶん長く歌ってきた歌手がよくこんな16ビートをやれるなと思うくらい、 背中に裏ビートのトーンが来るのを感じました。それも何も計算せずに自然体で歌ってるんですよ。


平山みき
「真夏の出来事」

作詞:橋本淳/作曲・編曲:筒美京平
1971年5月25日発売


 思い出しましたね。かつて「真夏の出来事」は先に京平さんが曲を作ったんですが、最初に事務所でピアノでメロディを聴かせて貰ったときに唖然として、これに歌詞なんてはめられないと思った。今の時代から見れば、それほどテンポが早いとは思わないんだけど、当時は8ビートが精一杯の時代だから、16ビートはすごく難しかった。今度の詞は京平さんのことを想い浮かべながら書いたつもり。彼がもういないことに納得できなくて、 最後は早く帰ってきてって、奥さんが空に向かって言う歌にしようと思ってそうしたんだけど、ご本人はきっと嫌がってるんじゃないかなと思ったら、案の定(笑)……。いろんな試行錯誤の末に出来上がった曲が「アーティスト」なんです。

── 奥さまはきっと喜んでらっしゃるのだろうと思います。もう一曲の「ホットな地球」は不思議な魅力がある曲ですね。

橋本淳 曲はいいんですけど。結局、僕の詞が支離滅裂になっちゃって。でも僕はあれはあれで好きなんです。とにかく戦争が嫌なんですよ。ウクライナとか、イスラエルとかね、庶民がたくさん犠牲になって、戦争を仕掛けた当事者たちはいつも安全圏にいるでしょ。そういうものになにか一撃を、僕なりの反骨心を見せたいなと思って書いたんです。だけど気が付けば最初に書いたものからどんどん変わっていっちゃって(笑)、結局は当初のイメージとは全く違うものになりました。こんな歌、書く人きっといないもんね。「バナナが揺れて」なんて。この2曲は自分としては成功したつもりです。少しでも多くの人が耳にして、「筒美京平っていたね、いたわね」って言ってもらいたい。僕、いま空に向かって「いたよな!」って言いたいぐらいですよ。


平山みき&野宮真貴
「アーティスト/ホットな地球よ」

2024年2月14日発売
DDCB-12985/2CD/3000円(税込)
SPACE SHOWER MUSIC

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── 「アーティスト」は海沿いの茅ヶ崎や鎌倉が舞台になっていますね。

橋本淳 京平さんとは青山学院高等部から一緒なんです。ちなみに大学も一緒です。たしか15歳ぐらいの時でしたね。「ちょっと今日このあと茅ヶ崎へ行くよ」って誘われて一緒に行ったら、ガソリンスタンドの裏に小洒落たバーがあって、「ここでピアノ弾いてんの」とか京平さんが言うんでビックリしましたね。その時が音楽家・筒美京平との初めての出会いだったような気がします。そのあとは彼とは本当に長い歴史があって、15歳から80歳まで、65年も付き合ったことになる。今回のプロジェクトもね、遺された曲を形にするのもそんな長い付き合いの恩返しになればと良いと思っています。京平さんの告別式の日は寒いうえに土砂降りの雨で、鎌倉の教会から火葬場まで10分か15分、びしょ濡れになりながら、京平さんの家族とうちの家族で送ったんですよ……。

── やはり筒美さんと作られた2008年の映画『GSワンダーランド』の主題歌「海岸線のホテル」もあの辺りが舞台になっていましたね。

橋本淳 そう、あれも茅ヶ崎にあったパシフィックホテルのイメージ。京平さんともよく行きました。車で行って、帰ってこられるじゃないですか。あの辺は思い出が多いんです。でもまぁ、京平さんが亡くなって3年以上も経つかと思うとショックですよ。今年の10月で4年になるのかな。京平さんは80で亡くなったけど、僕はもう85になっちゃう……早いですね、ほんとに。



── 今回、平山みきさんと一緒に歌われた野宮真貴さんはいかがでしたか。

橋本淳 彼女の歌は独特で味があるよね。やっぱり16ビートのみきさんと一緒に歌うとフィットしてとても調和がいい。レコーディングではいろいろ注文つけましたけど、さすがプロとしてしっかり応えてくれた。最初のレコーディングの頃と随分変わった気がしますよ。彼女の中でも曲の世界観がだんだん拡がっていたような気がします。聴いてくれる人も同じような心地よさを感じてくれるんじゃないかな。

── 野宮さんは橋本さんと筒美さんの作品を一番よく聴かれて育った世代でしょうから、おふたりの作品のことを最も理解されている歌い手のおひとりかと思います。

橋本淳 そういう人たちの気持ちのどこかに僕らの歌の記憶が残っていてもらいたいと思うんですよ。そう言っても永遠というのは無理なことは解るんだけど、 やっぱり出来る限りは、残ってもらいたい。記憶に残りやすい京平さんのヒット・ソングでいえば京平さんが65歳ぐらいの時に作ったものが最後だと思います。その後、京平さんは15年ぐらいあまり人には言わずに入退院を繰り返していましたから。よくナンバーワンの作曲家って言われるように、彼にとっては、ヒット曲を作ることは簡単なんですよ。彼の才能からすれば全然簡単だと思う。ま、それがすごいんですけどね。ただ、音楽作品を生み出すまでには今以上に避けることができない人と人との交渉事っていうんですか、それが彼の中では負担になっていたようで、なるべくなら人と会いたくないという感じでしたね。

── しかしながら筒美京平さんを最初にその位置に導いたのは橋本先生ですから。それがなければ、作曲家・筒美京平は生まれてなかったでしょう。

橋本淳 最初にすぎやまこういちさんを師事して京平さんらみんなで集まったのが運命でしたね。すぎやまさんの助手をしていた頃、先生が盛んに僕に作詞を勧められた理由はいまだによく判らないんですが(笑)、とにかく変わった若者だなと思われてたのは確かのようで。でも僕には全然その意識がなかった。いつも辞めたいと思いながら助手をやっていた。ほんとにずっと辞めたかったんですよ(笑)。そんな経験を経て、同じすぎやま門下として京平さんとは共に長い時間を過ごした盟友ですから今回の「アーティスト/ホットな地球よ」は僕に課せられた使命と思って取り組みました。発売されるこの形になるまでずいぶん時間がかかりましたけど、ジャケットに映る野宮さんのオペラグラスの意味も早く伝わってほしい。うん、そしたら大ヒットだよね。100万枚だって夢じゃない。みきさんの歌声にしても、野宮さんのファッションポーズにしても素晴らしいもん。僕とすぎやま先生と京平さんで楽曲制作を始めた時も、無理にヒット曲を作ろうと頑張ると、レコード会社の専属の人たちの歌に負けちゃうから、運が良けりゃっていう感じで作っていました。そういった意味では「ブルー・ライト・ヨコハマ」もいろんな偶然が重なって生まれたヒットだったんですよね……。

【Part2】に続く)





橋本淳 Hashimoto Jun
1939年生まれ。青山学院高等部時代に1年後輩の筒美京平と知り合う。フジテレビのプロデューサーであり後に作曲家として大成功するすぎやまこういちの私設アシスタントを経て、’66年、作詞家としてジャッキー吉川とブルー・コメッツの「青い瞳」でデビュー、同「ブルー・シャトウ」(’67年)で初の『日本レコード大賞』を受賞。ヴィレッジ・シンガーズの「亜麻色の髪の乙女」(’68年)などに代表される大ヒットで“GSで最も売れた作詞家”として知られている。ミリオンセラーとなったいしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」(’68年)をはじめ、橋本淳(作詞)×筒美京平(作曲)作品は550曲を超え、筒美京平がコンビを組んだ作詞家では最も多い。

平山みき&野宮真貴
「アーティスト/ホットな地球よ」

2024年2月14日発売
DDCB-12985/2CD/3000円(税込)
SPACE SHOWER MUSIC

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Disc1
「アーティスト」
作詞:橋本淳/作曲:筒美京平/編曲:船山基紀
「ホットな地球よ」
作詞:橋本淳/作曲:筒美京平/編曲:本間昭光

Disc2(Bonus Track)
2023年9月18日開催・ビルボードライブ東京
「野宮真貴、渋谷系歌謡曲を歌う。」からのライブ音源
①MC
②くれないホテル/野宮真貴
③Hey Girl/野宮真貴
④真夏の出来事/平山みき
⑤いつか何処かで/平山みき
⑥フレンズ/平山みき&野宮真貴
⑦アーティスト/平山みき&野宮真貴
⑧ダンシング・セブンティーン/野宮真貴


https://music.spaceshower.jp/news/251779/




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