2024年1月号|特集 ガールポップ’90s
ガールポップ’90s名鑑・名盤レビュー|②『PRISM』|谷村有美
レビュー
2024.1.5
谷村有美
『PRISM』
1990年5月12日発売
再生はこちら ▶
1. BLUEじゃいられない
2. 6月の雨
3. ようこそ愛する気持ち
4. 友達でいい
5. 黄昏のシルエット
6. シンデレラの勇気
7. ラッシュ・アワーのアダムとイヴ
8. 眠れぬ夜の恋人達
9. つばめに逢える頃に
10. ひとつぶの涙
シティポップの視点から再評価されるべきガールポップの名盤
ガールポップの代名詞的な存在だったシンガー・ソングライターの代表作であり、シティポップが国境を越えて人気を集める今こそ再評価されるべき1枚と言えよう。
アマチュア時代は鍵盤担当としてインストゥルメンタルをやっていた時期があり、当初はフュージョンバンドの一員かピアニストを目指していたというが、周囲の勧めもあって歌にも力を入れることに。そのアシスト役を担ったのが、プロデューサー/作曲家/アレンジャーの西脇辰弥であった。自らもキーボードを弾き幅広い音楽知識を持つ彼は、フュージョンやラテン、ソウルミュージックといった海外のサウンドをベースにした新しい形のJ-POPを提示し、谷村有美もそれに十分に応えていく。このコンビによって生まれた傑作が4枚目の『PRISM』である。
’89年にヒットした「がんばれブロークン・ハート」で相性の良さを見せた二人は、勢いに乗って本作の制作に着手。オープニングを飾る「BLUEじゃいられない」ではブラコン的なリズムに未来への期待感をにじませ、シングルカットされた「6月の雨」では当時のフュージョン特有のきらびやかなリズムやギターカッティング、ベースラインで大人向けのJ-POPを作り上げる。さらにニューミュージックと呼ばれてきた先輩たちの音楽にリスペクトした「黄昏のシルエット」においては、ジャズのレジェンド=ミシェル・ペトルチアーニのような華麗なピアノソロを挿入してジャンルレスな音を構築、「ラッシュ・アワーのアダムとイヴ」でバート・バカラックへの愛情を包み隠さす表すなど、ジャンルに関係なく良いと思ったものを取り入れる柔軟な姿勢によって、他ではなかなか聴けない作品に仕上がった。
両者は以降も『愛は元気です。』『White Songs』といった人気作で評判を高めていったが、コラボレーションは’92年リリースの『Docile』で一区切りに。やりたいことはすべてやりきったのだろう。
文/まつもとたくお
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