2023年11月号|特集 はっぴいえんど+URCレコード

【Part2】|はっぴいえんどヒストリー

会員限定

解説

2023.11.7

文/柴崎祐二


【Part1】からの続き)

「日本語ロック論争」を経て、来るべきセカンドアルバムのセッションへ


 1970年8月5日にリリースされたはっぴいえんどのファーストアルバムは、セールス面では決して成功を収めたとは言い難かったが、黎明期の日本ロックシーンに小さくないインパクトをもたらした。バッファロー・スプリングフィールドやモビー・グレープといった米西海岸の(フォーク)ロックに範を取りながら、プロコル・ハルム等のブリティッシュロックからの影響もほのかににじませたそのサウンドは、重厚なハードロックに与するいわゆる「ニューロック」が気勢を上げていた1970年当時にあって、明らかに特異な存在感を放っていたのだ。

 全ての曲がオリジナルの日本語詞で占められ、しかもそれが前時代のグループサウンズにおける牧歌的な言葉使いはもちろん、メッセージ性を前面化したフォーク系の歌詞のあり方とも決定的に隔絶した、現代詩やアングラ文化のエッセンスを消化したものであったという点が、何よりも斬新だった。

 同作の新規性は、音楽以外の面でも見られた。当時雑誌『ガロ』等への寄稿で注目を集めていた漫画家・林静一の手によるカヴァーイラストは、旧来の国内ポップミュージック作品におけるアートワークのあり方と大きく一線を画すものだった。

 加えて、同作に封入された歌詞カード裏面には、「下記の方々の多大なるご援助に深く感謝したい」という文言とともに、多量の固有名詞が羅列されていた。スティーヴン・スティルスやニール・ヤング、フレッド・ニール、ボブ・ディラン、ローラ・ニーロといったミュージシャンをはじめ、永島慎二、つげ義春、唐十郎、稲垣足穂、富岡多恵子、大江健三郎、アラン・ロブ・グリエ、澁澤龍彦、中平卓馬、他、他、他……大勢の名を上げて自らの影響源を明示/暗示するこうしたスタイルは、後の時代のサブカルチャーシーンにおける記号的コミュニケーションのありようを先取りするような、すぐれて示唆的なものだった。


はっぴいえんど
『はっぴいえんど』

1970年8月5日発売






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