2023年11月号|特集 はっぴいえんど+URCレコード

①五つの赤い風船『おとぎばなし』|URCレコード名盤ディスクレビュー

レビュー

2023.11.1


五つの赤い風船
『おとぎばなし』

1969年8月1日発売

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1. 私は深い海にしずんだ魚
2. 青い空の彼方から
3. 貝殻節
4. めし屋
5. 一滴の水
6. まぼろしのつばさと共に
7. 叫び
8. 時計
9. まるで洪水のように
10. 母の生まれた街
11. おとぎ話を聞きたいの
12. 唄


絶妙な絡み具合を放つツイン・ヴォーカルと時代を反映した音楽性

 男女混合グループだったこともあり、そのロール・モデルはピーター、ポール&マリーと言われている。そして、今聴いてもその美しく層の厚いコーラスに耳が奪われるだろう。しかし、それだけでは断じてない。中川イサト、藤原秀子らが在籍していたザ・ウィンストンズに、西岡たかしが加わる形でスタートしたのが、このグループ。西岡たかしと藤原秀子のツイン・ヴォーカルは、確かに、声と声の相性も含めて絶妙な絡み具合を放っており、複雑な曲構成や素朴な歌詞も魅力的だ。だが、高田渡とのスプリットという形だったファースト『高田渡/五つの赤い風船』(’69年2月)からわずか半年というスパンで届けられたこの2ndアルバムは牧歌的な雰囲気が少々後退、少しサイケデリックな風合いを加えたことによって、幻想的なアシッド・フォークのように聴こえる曲もあるのが興味深い。

 特に藤原がメイン・ヴォーカルをとった「おとぎ話を聞きたいの」のメタリックなギターの、弾くような音色の異物感は不気味とも言えるもので、ベトナム戦争反対を視野に入れたような歌詞も相まってマーダー・バラッドのような印象をも受ける。この曲を含め、ほとんどの曲の作詞・作曲は西岡たかしだが、本作リリース後に脱退してしまう中川イサトによる「一滴の水」、長野隆による「叫び」の存在感も絶大で、特に中川の「一滴の水」の破壊力はすさまじい。ジャケットは可愛らしいメルヘン調だが、楽器の使い方、アレンジなどあらゆる点で研ぎ澄まされた傑作だ。

文/岡村詩野




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