2023年10月号|特集 キャンディーズ

【Part3】伊藤蘭が語るキャンディーズ~スペシャル・ロングインタビュー

会員限定

インタビュー

2023.10.17

文/大谷隆之

写真/近藤みどり


【Part2】からの続き)

ただの歌謡曲じゃない、何か新しい方向にいきたいという気持ちは、3人の共通だった


―― 9月2日の50周年アニヴァーサリー公演について、もう少し聞かせてください。ライブ中盤、バンドが「SUPER CANDIES」を演奏しますね。これは’75年にMMP(ミュージック・メイツ・プレイヤーズ)がキャンディーズのために作った応援歌で。

伊藤蘭 そうですね。森雪之丞さんが歌詞を付けてくださっています。今回のセットリストには、実は雪之丞さん作詞の曲がかなり入っているんですよ。シングルのA面にはなっていませんが、個人的に思い入れのあるナンバーが多くて。先ほどお話ししたように、当時のステージでは洋楽のカバーも重要なレパートリーだったんですね。その日本語訳詞も雪之丞さんが多かった。CCRの「プラウド・メアリー」とか、イーグルスの「ホテル・カリフォルニア」もそうかな。ある意味、私たちのステージの世界観を創ってくださった存在です。

―― その「SUPER CANDIES」でMMPが思いきり客席を煽った後、衣装替えした3人が「ハートのエースが出てこない」でバーンとステージに再登場する。後期のライヴでは、これがお約束の展開だった。

伊藤蘭 当時はよく、そういう繋ぎ方をしていましたね。もともとは大里さん(マネージャー大里洋吉氏)かチャッピーさん(MMPリーダーの渡辺茂樹氏)のアイデアじゃないかな。今回のライヴではそこも踏襲してみました。

―― 「SUPER CANDIES」から間髪入れずに「ハートのエースが出てこない」、「その気にさせないで」、「危い土曜日」、「年下の男の子」、「やさしい悪魔」へと続くパートですね。それまで後方におられたコーラスの2人がすっとステージ中央に出てきて、伊藤さんとトライアングルを作る演出がぐっときました。

伊藤蘭 さっちゃん(渡部沙智子)、ちのちゃん(高柳千野)には本当に助けてもらっています。歌はもちろん、振り付けも完璧ですからね。すごいなって。ステージには絶対に欠かせない存在。

―― コーラスワークはかなり忠実に再現しているんですか?

伊藤蘭 なるべくオリジナルに近付けています。ただ、ずいぶん時間も経っていますから。自分のパートは歌えても、ミキさん、スーさんとのハモリがどうなっていたかは、厳密に覚えていなかったりしたんですね。そこは改めて、音源から譜面に起こしてもらいました。あとは実際歌ってみての微調整かな。さっちゃん、ちのちゃんと声を合わせつつ、「こうだったな」と思えるところに落とし込んでいった。ちょっと記憶の謎解きにも似た感覚で(笑)。

―― じゃあ伊藤さんは、当時のパートをそのまま担当されて?

伊藤蘭 基本はそうですね。そのうえで私がパンチの強いメロディーを歌ったほうがいい場面では、少しパートを入れ替えたりしています。例えば「危い土曜日」では、スーさんが担当していた主メロの「♪もっと、もっと」というサビ前のフレーズを私が歌っています。そのように楽曲を一回バラし、細かく組み立て直す作業がありました。


キャンディーズ
「危い土曜日 / 青春の真中」

1974年4月21日発売


―― 聴いていて、まったく違和感がなかったです。

伊藤蘭 嬉しいです! キャンディーズの楽曲って、やっぱり3つの声が1つになって成立するものなんですね。ユニゾンもしかりだし、ハーモニーもそう。ミキさんとスーさんと私の声が重なって初めてキャンディーズの声になる。

―― それがヴォーカル・グループとしての得がたい魅力になったと。

伊藤蘭 加えてメンバー各自の持ち味もありましたからね。それぞれがソロをとっている時間はまた別の表情があるでしょう。そこに2声のコーラスで厚みを加えたり、ピンポイントでユニゾンを挟んでパンチを効かせたりして。1粒で3倍おいしい曲の聴かせ方ができたっていうのかしら(笑)。

―― そう考えると、3人という数は絶妙ですね。最小編成でさまざまなバリエーションを作れる。

伊藤蘭 ええ、本当に。1人ずつの歌唱、2声のハーモニー、3声のハーモニー、3人全員のユニゾン。それらをフレーズごとに自由に組み合わせることができたので。1つの楽曲でいろいろな変化を楽しめた。その楽しさは大きかったと思います。リスナーにとっても、私たち自身にとっても。

―― 超過密スケジュールのなかでそれを体得しレコーディングするのは、今にして思えば大変なことですよね。若くて経験値も少なかった3人にとっては。

伊藤蘭 そうですね。やっぱりデビュー前後の頃、穂口(雄右)先生にコーラスワークの基礎を叩きこんでいただいたのがよかったんじゃないかと。難しいハードルも設定されたけれど、そのぶん達成できたときの喜びも大きかった。それがいわゆるキャンディーズのサウンドに繋がって、いい楽曲やアルバムに結び付いていったので。大変でもつらくはなかったですよ。むしろ楽しさとか充実感のほうが大きかった。

―― ここからはもう少し時間をさかのぼって、キャンディーズ結成以前の話も伺えればと思います。そもそも歌手を志したきっかけは何だったんですか?




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伊藤蘭
『LEVEL 9.9』

2023年7月19日発売


伊藤蘭
「Shibuya Sta. Drivin' Night」

※7インチ・アナログ・シングル
2023年12月20日発売