2023年9月号|特集 TM NETWORK
【Part1】再起動宣言|TM NETWORKドキュメンタリー 2021-2023
解説
2023.9.1
2023年8月26日@さいたまスーパーアリーナ ⓒAnimelo Summer Live 2023
2021年10月1日、TM NETWORKの「再起動宣言」
TM NETWORKは、人を驚かせるのが大好きだ。無邪気に、そして周到に、人々を心地よく驚かせるサプライズを画策する。
記憶に新しいのは、先月26日、さいたまスーパーアリーナで開催中だった世界最大のアニソン・イベント“Animelo Summer Live”(アニサマ)にいきなり登場し、満員の会場をたちまちTMワールドに変えてしまったことがさまざまなメディアで報道されたこと。約2万人のオーディエンスを驚かせ、わずか2曲で格別の一体感を提供し、しかし多くを語ることなく3人は手を振ってステージから去っていった。カッコいい。
もっとも、クールに言えば、このエピソードもおそらくは大きな物語の一つの断片に過ぎないのだろう。僕らはまた今、TM NETWORKの“大きな物語”を同時代的に体験している。ということは、ここまでのところで、大事な要素をつい見逃してしまったり、さりげないメッセージを受け取り損ねたりしているかもしれないのだけれど、でも大丈夫。“大きな物語”が大団円を迎えるのは、もう少し先のことであるはず。だって、“大きな物語”なのだから。
まずは、ここまでのTM NETWORKの足取りをタイムラインに沿ってたどり直し、何か“抜け”がないか点検してみよう。
2021年10月1日、TM NETWORKの「再起動宣言」が出された。
一度は何気なく聞き流してしまったが、少し立ち止まって考えてみると、ここで“再起動”という言葉が使われるのは、いかにも意味ありげに思える。この40年近い歴史のなかで、世間よりも早くデジタル用語に慣れ親しんできたTM NETWORKのコアな支持者=FANKSにしてみれば、あらためて取り沙汰するようなことではないのかもしれないし、FANKSでなくても今や「再起動」という言葉はかなり日常的に使う言葉だろう。が、活動を休止していた、もっと言えばメンバーの一人が一時は引退を表明したグループがまた活動を始める場合に使うのは、単純に考えれば「活動再開」や「リスタート」だろうし、少しあらたまった雰囲気を伝えようと思うならば「再始動」といった表現になるだろうか。しかし彼らは、というか小室哲哉は、「再起動」という言葉を選んだわけで、その含意を考えることはおそらく、この「再起動宣言」から始まった新たな活動の核心への道筋を辿るための助けになるはずだ。
僕がそんなことに思い当たったのは、この「再起動宣言」の具体的な内容として発表された3回連続のオリジナル・ライヴ映像配信企画のタイトルが「How Do You Crash It?」であり、さらにはそこで披露される新曲のタイトルが「How Crash?」だったからだ。“Crash”というのも今や、仕事の必要に迫られて会社で少しコンピュータを使うといった程度のデジタル・ユーザーでも知っている、でも実際にはあまり経験したくない事象を示す言葉だ。その意味は、アプリケーションソフトやコンピュータが動作しなくなり、入力を受け付けなくなったり異常終了したりする状態のことであり、そういう状態になると電源スイッチを切って通電を一度停止し、その上で再度コンピュータを起動、つまり“再起動”しなければいけない。
そういう脈絡で“再起動”という言葉と“Crash”という言葉を並べると、TM NETWORKは、あるいは小室哲哉は、一度Crashしたけれども、この10月1日をもって再起動します!ということなのだなと考えたくなるわけだけれど、新曲「How Crash?」の歌詞を知った今の段階で考えると、それが間違った解釈であることは明らかだ。
TM NETWORK 「How Crash?」
「How Crash?」では、サビで♪Everyone makes mistake,How do you crash?♪という歌詞が繰り返し歌われる。「誰しも過ちを犯すけれども、それをどうやって壊していくのか?」という意味のこの歌詞を踏まえて“再起動”と“Crash”の並びを考えれば、やはり「過ちをCrashするために再起動する」と考えるべきだろう。そして、そこに補助線として、「再起動宣言」と同じタイミングで小室がinstagramに発表した直筆メッセージの一部を添えると、再起動からの活動が目指しているものが自ずと見えてくるような気がする。
「いろいろな過ちがあっても、まだやれると背中を押してくれる友がいました。待っていてくれるファンのみんながいました。これからの自分に残された時間にできること全てで、音楽で少しでも光を灯せたら。このコロナ禍に沢山のことを考え、奮起致しました。毎日、あらゆる人への感謝でいっぱいです。この気持ちを忘れることなく、これからまた創作に励みます」という小室の言葉は、『DEVOTION』という、最新作のタイトルに真っ直ぐつながっていると思えるが、その答え合わせはもう少し先にそうすべき時が来るはずだ。
ところで、この「再起動宣言」に先駆けて9月末に「あなたが選ぶベスト・ライヴ・パフォーマンス」というファン投票企画がスタートし、その結果を元に構成された2枚のアルバム『LIVE HISTORIA T〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜』と『LIVE HISTORIA M〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜』が、年が明けて2022年の2月23日に同時リリースされた。
TM NETWORK
『LIVE HISTORIA T〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜』
2022年2月23日発売
TM NETWORK
『LIVE HISTORIA M〜TM NETWORK Live Sound Collection 1984-2015〜』
2022年2月23日発売
このタイミングで、TMがこれまで辿ってきた軌跡のライヴ側面があらためて概観され、そのエッセンスがまとめられたことはおそらく重要で、それはまずライヴの現場で体験した身体的な記憶としてのTM NETWORKを意識することを促しているように思える。さらに言えば。今後の活動においてこれまで以上にライヴが担う意味合いが深くなることの予告であるような気がするからだ。もちろん、“新作のリリースまでにはかなり時間がかかるだろうからまずはアーカイブから”という現実的な判断があったことは想像に難くないが、それにしても「再起動宣言」の具体的な動きが、まずライヴの配信であり、その次がライヴ・ヒストリー作品であったことは記憶しておくべきだろう。
さて、38回目のデビュー記念日4月21日には、前年に行われた3回の配信ライヴの映像を収録したBD『How Do You Crash It?』をリリース。初回限定盤には、そのライヴの音源を収めた3枚組CDと新曲「How Crash?」のスタジオ・レコーディング・バージョンが同梱されていた。さらに翌週28日には、3ヶ月後に始まるライヴ・ツアー“FANKS intelligence Days”のオープニング曲「Please Heal The World」をLINE NFTに限定リリース。パッケージ作品だけの楽しみや新しいデジタル・ツールの活用も盛り込みながら、ライヴ・ツアーに向け、その活動の熱量を確実に高めていった。
TM NETWORK
『How Do You Crash It?』
2022年4月21日発売
そして、7月29日から<TM NETWORK TOUR 2022“FANKS intelligence Days”>がいよいよスタート。7年ぶりの全国ツアーだ。当初4都市7公演のスケジュールが発表されたが、後に横浜ぴあアリーナMMでの追加2公演が発表されて、最終的には5都市9公演のツアーとなった。また、最初の7公演は前年の配信ライヴと同じくメンバー3人のみでのステージだったが、ぴあアリーナのステージにはドラムとパーカッションがサポートで加わり、さらには爆撃で破壊された自宅でピアノを弾くウクライナ人男性の映像が流れる場面も折り込まれるなど、2022年という時代を俯瞰する目線とそのベースにある問題意識をよりビビッドに浮かび上がらせるステージを展開した。小室によれば、このツアーでは音と光(照明)を同期させる演出にこだわったそうだが、赤い閃光と白いムービングライトが十字に重なるシーンが印象的なオープニング曲「Please Heal The World」や青く照らされたステージを緑色のムービングライトが彩った「Self Control」でその意図はとりわけ鮮やかに表現されていた。もっとも、小室たちメンバーがこのツアーに込めた最も重要な思いは、おそらくは“intelligence”という言葉で表現されていたのではないか。“intelligence”という言葉には情報収集とか分析活動といった意味があり、ここでも直接的にはそう訳されるべきなのだろうが、メンバーが求めていたのはファンとあらためて深く知り合うことだったはずで、だからこそ最初の7公演はメンバー3人だけで臨んだのだろうと思われるのだけれど、それを「FANKSへの情報収集」という言い方をしてしまうのがTM NETWORKならでは、とも言うべきだろう。
TM NETWORK
『“FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM』
このツアーの最終日9月4日のステージの模様は、暮れも押し迫った12月28日にBD『“FANKS intelligence Days” at PIA ARENA MM』としてリリースされたが、それに先立つ12月3日には再起動後最初のプロジェクトとなった無観客配信ライヴの映像をまとめた『How Do You Crash It?』を全国8箇所の映画館にて上映。つまり、2022年は様々な形でTMのライヴに触れる1年だったということだ。その上で、ぴあアリーナのステージの最後、メンバーがステージ後方の扉の中へと姿を消した後モニターに映し出された「Day10 147XX」という文字の意味するところを、FANKSは大きな期待ともに考えることになった。
驚きと謎に彩られたTM NETWORKの物語、その乱反射する煌めきは2023年に入ると、ますます光度を強めていく。
(【Part2】に続く)
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9月21日(木)TM NETWORK 『CAMP FANKS '89 at YOKOHAMA ARENA』(劇場版5.1chデジタル・リマスター)
10月12日(木)TM NETWORK 『TMN final live LAST GROOVE[5.18]』(劇場版5.1chデジタル・リマスター)
10月19日(木)TM NETWORK 『TMN final live LAST GROOVE[5.19]』(劇場版5.1chデジタル・リマスター)
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【Part2】『DEVOTION』|TM NETWORKドキュメンタリー 2021-2023
解説
2023.9.6