もとはレコードだったものがCDに変換された時、同じアルバムでも微妙に聴くニュアンスが違っていたのではないか。そしてそれを不本意とするアーティストも少なからずいたのではないか。と今さらになって思う。
昔、友人から聞いた話。彼女が報道記者をしていた頃の先輩は、番組ナレーションを書く際の心構えとして「A面だけではなくB面的な意図を込めて書くと豊かな番組になる」とよくアドバイスしていた。それはつまり「行間を読む」的なニュアンスの比喩なのだけど、ある時から部下に意味がまったく通じなくなった。レコードにA面とB面があるという認識が共有できず、気の利いた言い回しが使えなくなった……とショックを受けていたらしい。
このエピソードに共感できるのはそれなりに歳を重ねた世代ということになるが、私もそのひとりだ。もはやCDすら消滅した世の中で、音楽や映画を早送りで鑑賞するとか、ギターソロは無駄だから必要ないと言われているとか、価値観の乖離が甚だしくて唖然とすることばかり。まぁ、懐古主義に走るのはあまり好きではないけれど。
実は脚本の仕事をする以前、音楽の世界で活動していたことがある。その頃はすでにCDが主流になっていたので、アルバムの曲順は1曲目から10曲目まで通しで聴くことを前提に決めていた。様々なタイプの曲をどう並べ、どういう流れで聴かせるか。曲間の空白の秒数も含めたトータルでひとつのテーマ、物語を構築した。
- 相沢友子(あいざわ ともこ)
- 1971年東京生まれ。1991年ソニーレコードより音楽アーティストとしてデビュー。2000年『世にも奇妙な物語・記憶リセット』で脚本家デビュー。連続ドラマ『恋ノチカラ』『鹿男あをによし』『鍵のかかった部屋』『僕だけが17歳の世界で』映画『重力ピエロ』『プリンセストヨトミ』などを手がける。最新作は映画『ミステリと言う勿れ』(9/15公開)連続ドラマ『セクシー田中さん』(10月よりNTV毎週日曜22:30放送)。
https://www.instagram.com/aizawa_tomoko/
■映画『ミステリと言う勿れ』公式サイト
https://not-mystery-movie.jp/
■日本テレビ系日曜ドラマ「セクシー田中さん」公式サイト
https://www.ntv.co.jp/tanakasan/
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