2023年7月号|特集 山下達郎 RCA/AIR YEARS

【Part2】クリス松村が語る山下達郎RCA/AIR YEARS

会員限定

インタビュー

2023.7.12

インタビュー・文/油納将志 写真/島田香 収録/2023年6月・都内某所


怨念かもしれないですね、「MY SUGAR BABE」って。なぜお前たちはヒットしなかったんだって、いい音楽だったのにという。(クリス松村)


【Part1】からの続き)当時、クリスさんが達郎さんはどうしてヒットしないのかとずっと思い続けていたところに、「RIDE ON TIME」が大ヒットしたわけですが、達郎さん自身もクリスさんと同じようになぜ受け入れられないのか、と思い続けて制作されていたんじゃないでしょうか。

クリス松村 達郎さんは「BOMBER」が収録されている『GO AHEAD!』(’78年)で表舞台で活動するということが終わるかもしれないと思って、自分がやりたいようになんでもやってしまおうと制作したと後に明かしていますね。当時、Charにツイスト、原田真二という新しい顔ぶれがどんどん出てきて、彼らに注目が集まっていきました。そんな中、「BOMBER」が思いもよらず大阪のディスコで支持されるんです。「BOMBER」のヒットもそうですけれど、達郎さんが「RIDE ON TIME」で“当たった”ということと、そのヒットによって自分が時流に乗って、時代に迎合して見えるかもしれないという危惧を抱かれていたかもしれません。でも、ヒットは素晴らしいことだったと思うんですよね。山下達郎のような音楽をやっていたミュージシャンなんて他にいませんでしたから。だからこそ、達郎さんも注目されていったわけです。


山下達郎
『GO AHEAD!』

1978年12月20日発売
<RCA/AIR YEARS Vinyl Collection>
2023年7月5日発売


── 一部のコアな音楽ファンが密かに聴いて楽しんでいたのが、若者が今聴いていないと遅れるという音楽へと変わっていった瞬間でもありますね。

クリス松村 自分が推しに推していたミュージシャンがやっと世間に認められた、というような喜びがありましたね。先日、長門芳郎さんとお話していて意外だったのは、長門さんがやられていたレコード店<パイド・パイパー・ハウス>では『CIRCUS TOWN』(’76年)や『SPACY』(’77年)はとっても売れて、大ヒットしたアルバムだったと教えてくれました。でも、当時のRCA/AIRの関係者は1店舗につき30枚、50枚と売れたお店と、0枚のお店と極端すぎる結果が出ていたと語っていて、そのまばらな結果が売り上げにつながらなかったそうなんです。「RIDE ON TIME」と同じくCMタイアップ曲だった「愛を描いて」の時にスタッフがこのレコードを売ろうとすごくがんばっている姿を達郎さんが目にして、ご自身も一生懸命やらなければという気持ちになったそうなんですが、オリコン100位圏内にも入ることなく終わってしまいました。達郎さんはショックだとは言っていませんが、なんで? とはおっしゃっているから、ヒットの仕組みを不思議に思われたのでしょうね。





クリス松村

オランダの政治都市ハーグで誕生。日本に帰国後も学生時代にイギリス、ブラジル、アメリカ、カナダなどの都市をまわる。邦楽、洋楽問わずの音楽好きが高じて、番組出演にとどまらず、テレビやラジオの番組監修、CDの音楽解説、航空会社の機内放送オーディオプログラムの構成、ナレーションなども手掛けた。出演するラジオ番組の構成はすべて自ら行う。アナログ盤、CD、DVDなど約2万枚所有、現在も収集中。大物アーティストとの対談もこなすなど、アーティストからも認められるほどの、大の音楽ファン。
音楽が好きで話しているという考え方から、音楽評論家ではなく、音を楽しむ『音"楽"家(おんらくか)』として活動。

クリス松村●担当音楽番組
【ラジオ】
◎MBSラジオ『クリス松村のザ・ヒットスタジオ』
◎ラジオ日本『クリス松村の「いい音楽あります。」』
◎BAYFM『9の音粋』 木曜担当DJ

【動画連載】
◎otonano『クリス ミュージック プロマイド』