2023年7月号|特集 山下達郎 RCA/AIR YEARS

①大貫妙子『Grey Skies』|山下達郎トリビア~サイドワークス・レビュー

レビュー

2023.7.3


大貫妙子
『Grey Skies』

1976年9月25日発売

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1. 時の始まり
2. 約束
3. One's Love
4. 午后の休息
5. 愛は幻
6. Wander Lust
7. 街
8. いつでも そばに
9. When I Met The Grey Sky
10. Breakin' Blue



シュガー・ベイブの大半が集結した大貫妙子の1stアルバム

 山下達郎の年表的にいえば、’73年に結成したシュガー・ベイブを’76年の春に解散、同じ頃に、大滝詠一/伊藤銀次/山下達郎の3人による『NIAGARA TRIANGLE Vol.1』をリリース。そして夏には渡米してレコーディング、その成果は12月に初のソロ・アルバム『CIRCUS TOWN』として発表される。このような忙しい時期に参加したのが、大貫妙子の1stアルバム『Grey Skies』だったのだ。

 山下達郎がアレンジに参加したのは、「時の始まり」「約束」「愛は幻」の3曲で、このどれもがシュガー・ベイブ時代のレパートリーであった。大貫妙子の『Grey Skies』には他に、細野晴臣、坂本龍一、矢野誠らが編曲に参加しているのだが、他の曲ならともかく、これらの曲だけは自分でアレンジしたかったと思う。そんな熱気がほのかに感じられる。

 「時の始まり」の演奏には、寺尾次郎のベース、上原裕のドラムス、エレクトリック・ギター、ハモンド・オルガン、パーカッションで山下達郎が加わっている。大貫妙子自身もヴォーカルとピアノで参加しているので、シュガー・ベイブの大半が集結したことになるのだ。軽やかに跳ね回るリズム、そこに都会的なアクセントのピアノが入り曲が進んでいく。これはまさしくシュガー・ベイブのサウンドだ。

 坂本龍一が弾くフェンダーのローズ・ピアノに先導される「約束」は、山下達郎のシャープなコード・カッティングが実に心地よい。そこに徳武弘文のエイモス・ギャレットばりに官能的なリード・ギターがインサートされていくという、極上のサウンド・メイク。「愛は幻」のタイトで洗練されたリズム感は、まさしくシティポップだと言える。バンド・スタイルの飾り気のないアレンジメントなのだが、沸き立つような都会感覚にあふれている。リード・ギターは、シュガー・ベイブの盟友でもあった、名古屋のセンチメンタル・シティ・ロマンスの中野督夫。これがまたとびきりの名プレイなのだ。

文/小川真一