2023年6月号|特集 林哲司の50年
【Part9】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ
インタビュー
2023.6.30
第9回:Now & Then
インタビュー/栗本斉 文/加藤賢 写真/山本マオ
(【Part8】からの続き)
総合芸術の見せ方を追求していく意味でも、ミュージカルを視野に入れていきたい
―― ここまで長時間にわたってインタビューにお付き合いいただき、ありがとうございました。いよいよ最後のテーマ、「Now & Then」に移ります。活動50周年を迎えた今日まで、精力的にご活躍されている林さんですが、最近のお仕事についても改めて教えていただけませんか。シティポップのブームもあって、新規の案件も多いかと思うのですが。
林哲司 シティポップ・ブームだから仕事が増えたという感覚は、実はないんですよ。それよりも活動50周年という節目に際して、さまざまな企画が舞い込んできているという印象です。乗り切らなきゃいけないイベントがとにかく多いんですよ(笑)。
―― 今年はそんな感じですよね。大きなイベントが目白押しです。
林哲司 ここまで忙しくなるとは思っていませんでした。仕事の話に戻りますが、ここ何年かは自分のやりたい企画がいっぱいあって、それを進めていく傾向が強かったですね。たとえば、杉山清貴&オメガトライブのRe-Mixプロジェクトは3年越しの企画で、来年40周年で完結します。また、稲垣潤一さん、菊池桃子さんは、提供した作品をまとめたコンピに新曲を加えて発表し好評を頂きました。そして今、松城ゆきのさんというアーティストをプロデュースしているんですが、これも自分のやりたかったこと。元よりフレンチポップスのような作品を書きたくて、かれこれ 3年ぐらい前から、シャンソンの集いに足を運んでいたんです。そこで松城さんに会って、彼女をプロデュースすることになりました。1stアルバム『Le Premier Pas』(’20年)をリリースし、つい先日「刻印 -mon amour-」と「雨音」のカップリングシングルをリリースしました。
杉山清貴&オメガトライブ
『ANOTHER SUMMER REMIX』
2023年3月29日発売
松城ゆきの
「刻印 -mon amour- / 雨音」
―― これだけでも相当なお仕事の量ですね。とても充実されていらっしゃいますし。
林哲司 やはり自分にとって興味の持てる仕事が一番ですね。シティポップ・ブームに若いアーティストが興味をもって、それがきっかけでコラボレーションすることもありますね。Awesome City ClubのPORINのソロプロジェクト、Piiとの共作で、そのアレンジを新東京が手掛けるとか、最近ではGOOD BYE APRILというバンドのメジャーデビュー・シングル「BRAND NEW MEMORY」(’23年)の作曲とプロデュースを担当しました。
Pii
「パノラマ東京」
2023年4月26日リリース
GOOD BYE APRIL
「BRAND NEW MEMORY」
2023年4月5日配信リリース
2023年5月24日7inchアナログ盤リリース
―― 松城ゆきのさんのような、自らアンテナを張って立ち上げた企画というのは、他にもあるのでしょうか。
林哲司 そうですね。70年代の末から80年代の初頭にかけて、僕はイースタン・ギャングというディスコ・ユニットを手掛けていて、あわせてSHOODY(シューディ)というモザンビーク出身の女性ソウル・シンガーの作品も同じプロジェクトで作曲していたんですが、このたびビクターから、その時代の音源を集めた『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』(’23年)というコンピレーションが発売されることになりました。でも、ただ再発するだけじゃ面白くないので、SHOODYの代表曲「ECSTASY」(’80年)を今風のEDMでリメイクすることにしたんですよ。そのリミックス・アレンジを大谷靖夫さんを起用して進めました。さらに、その日本語ヴァージョンも作りたかったから、僕のSong File LiveのヴォーカリストであるiCHiHOに歌ってもらいました。こちらは配信限定シングル「林哲司プレゼンツ・Ecstasy e.p.」(’23年)で聴くことができます。EDMにしたのはちょっとした思い付きだったんですけど、いい作品に仕上がってくれました。なにより40年前の作品が新たに蘇ったことに対する感動がありますね。
SHOODY / iCHiHO
「林哲司プレゼンツ・Ecstasy e.p.」
2023年6月23日リリース
―― 林さんが書かれたイースタン・ギャングやSHOODYのディスコ曲、大好きです。現在では、のちのシティポップに繋がる作品としても再注目されていますよね。
林哲司 一方で、やっぱり過去の作品だけじゃなく、新しい作品も聴いてほしいなっていう思いも正直言えばあって。ただ、今の音楽業界は、音楽シーンやシステムの形が以前と大きく変わっちゃいましたから、ヒットの実感が非常につかみにくいんですよ。もちろんビッグアーティストであれば数字となって出てくるんだけど、配信を中心にしている場合は、かつて僕らがパラメーターとして用いていたオリコンとか、レコード店のセールスとか、そういう数字がすごくミニマムになっちゃうんですね。それから、何がヒットの「王道」なのかが明確に見えない時代になっているとも思います。音楽カテゴリーの多様化に伴って、その支持層もバラバラになっているから、ここにはウケてるけど、ここには全然ウケてないということも頻繁に起こりますよね。誰にでもチャンスがあるという点では良いのですが、音の作り手、送り手としては実感の掴みにくい時代になってしまいました。五里霧中という感じで、そこはちょっと不満ですね。
―― それはみんなおっしゃいますよね。「いま、何がヒットしてる?」って言われても、ちょっとわかりづらい。チャートの1位ならヒット曲かっていうと、それも聴いていない人は全く聴いていなかったりしますし。そういった難しい時代にあって、林さんが今後取り組んで行きたいプロジェクトなどはあるのでしょうか。
林哲司(はやし・てつじ)
●1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表。竹内まりや「SEPTEMBER」、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」など全シングル、菊池桃子「卒業 -GRADUATION-」など全シングル、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、2000曲余りの発表作品は、今日のシティポップ・ブームの原点的作品となる。また、映画音楽、TVドラマ音楽、テーマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。ヒット曲をはじめ発表作品を披露するSONG FILE LIVEなど、積極的なライヴ活動も行っている。
http://www.hayashitetsuji.com/
林哲司
『Hayashi Tetsuji Song File』
仕様 : CD5枚組 +ブックレット
品番 : MHCL-30815〜30819
価格 : ¥14,850(税込)
2023年6月21日発売
【関連作品】
林哲司
『林哲司 コロムビア・イヤーズ』
2023年6 月21日発売
林哲司
『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』
2023年6 月21日発売
【関連イベント】
林哲司50周年記念SPイベント
『歌が生まれる瞬間(とき)』 ~Talk&Live~
会場:赤坂レッドシアター
●6/30(金)
出演:林哲司
ゲスト:萩田光雄(作曲家・編曲家)、船山基紀(作曲家・編曲家)
ゲストMC:半田健人
●7/1(土)
出演:林哲司
ゲスト:売野雅勇(作詞家)
ゲストシンガー:大和邦久、富岡美保、一穂
●7/2(日)
出演:林哲司
ゲスト:松井五郎(作詞家)
ゲストシンガー:藤澤ノリマサ、松城ゆきの、一穂
https://ht50th.com/
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【Part8】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ
インタビュー
2023.6.28