2023年6月号|特集 林哲司の50年

【Part7】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ

会員限定

インタビュー

2023.6.26

第7回:City Pop


インタビュー/栗本斉 文/加藤賢 写真/山本マオ


【Part6】からの続き)

メロディやコード進行については、独自に追求してきたんじゃないかと思う


―― 次は、最も難関のテーマ(笑)。 「City Pop」についてご質問させていただきます。ここ10年ぐらいの間に、「シティポップ」という言葉が使われるようになりましたが、林さんの作品はその象徴として取り上げられることが非常に多いと思います。そのことに対して、率直にどう思われますか。

林哲司 僕としては、まず不思議な現象だなぁって思いましたが、40 年以上前にリリースした作品を海外の人たちに聴いてもらえたことがすごく嬉しいですね。このブームについては様々な方のご意見を見聞きしてきたのですが、皆さんがお話しされていることは、どれもそれなりの要因で当たっているとは思っているんです。ただ、日本の場合は、逆輸入ブームであると同時に発信国ですから、ブームの要因を捉える人たちのうんちくが皆さん一家言あり、答えがひとつにならないんですね。逆に海外の人たちは、そういう歴史的背景がないぶん、すごくニュートラルに楽曲を聴いてくれていると思います。

―― 鋭いご指摘ですね。ひとくちに「シティポップ・ブーム」と言ってしまいがちですが、日本国内と海外とでは楽曲に対する出会い方がまったく違いますよね。

林哲司 そうです。じゃあ海外の人から見た「シティポップ」とは何かというと、「80年代の日本の都会的な音楽」という一言で説明できるような気がするんですね。だから僕も大貫妙子さんも、極端に言うとはっぴいえんどまでもが、ひとつのジャンルに入っちゃうわけです。でも、それはそれで分かりやすい受け取り方だとは思うんですよね。だから、そういったシンプルな捉え方を通して、今日聴くに耐えるものとして自分のメロディを楽しんでもらっているというのは、やはり嬉しいことです。

―― 海外の方から見たシティポップとは「80年代の日本の都会的な音楽」という、大まかな理解に基づいているというのは、確かにそうだと思います。これが日本の場合はどうなるのでしょうか。

林哲司 日本のシティポップ議論というのは、やはり皆さんご意見が違いますよね。時には、シティポップ・ミュージシャンの紹介に僕が全く含まれないこともあるわけですし。はっぴいえんどを起源にする方もいたりして、僕としては「ええっ!?」と思うんですけど、それもひとつの考え方だと思います。ただ、リバイバルといえるのは日本だけの話であって、海外ではリバイバルでもなんでもないわけですよね。僕は向こうの人たちのニュートラルな受け止め方を素直に受け取っているから、それでいいんです。「シティポップの作曲家・林哲司」という代名詞をきっかけに自分の音楽を聴いてもらえるなら、それで構わない。そうではないということがやがてわかってもらえるだろうし、今回リリースされたCD-BOXを聴いて、林哲司ってこれだけ色々な音楽を作ってきたんだな、と思ってもらえれば一番ですね。

―― 改めて感じますが、80年代は本当にたくさんの優れたポップスが作られてきましたよね。それを支えていたのが、洋楽に憧れ、影響を受けてきたという側面だと思います。そこもシティポップの共通点として外せないと思いますが、いかがでしょうか。

林哲司 そうですね。だから僕が一番の疑問だったのは、なんでアメリカの、僕たちが影響を受けた音楽を聴くほうに戻らなかったかということです。日本の80年代の音楽に注目してくれるんだったら、そのルーツになっている、僕たちが一生懸命参考にした当時のアメリカ音楽を聴けばいいのに……という疑問が、自分の中で未解決だったんですよ。

―― 確かにその通りですよね。なぜ日本の音楽をわざわざ聴くようになったのでしょうか。




林哲司(はやし・てつじ)
●1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表。竹内まりや「SEPTEMBER」、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」など全シングル、菊池桃子「卒業 -GRADUATION-」など全シングル、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、2000曲余りの発表作品は、今日のシティポップ・ブームの原点的作品となる。また、映画音楽、TVドラマ音楽、テーマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。ヒット曲をはじめ発表作品を披露するSONG FILE LIVEなど、積極的なライヴ活動も行っている。
http://www.hayashitetsuji.com/


林哲司
『Hayashi Tetsuji Song File』

仕様 : CD5枚組 +ブックレット
品番 : MHCL-30815〜30819
価格 : ¥14,850(税込)
2023年6月21日発売




【関連作品】


林哲司
『林哲司 コロムビア・イヤーズ』

2023年6 月21日発売



林哲司
『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』

2023年6 月21日発売





【関連イベント】


林哲司50周年記念SPイベント
『歌が生まれる瞬間(とき)』 ~Talk&Live~

会場:赤坂レッドシアター

●6/30(金)
出演:林哲司
ゲスト:萩田光雄(作曲家・編曲家)、船山基紀(作曲家・編曲家)
ゲストMC:半田健人

●7/1(土)
出演:林哲司
ゲスト:売野雅勇(作詞家)
ゲストシンガー:大和邦久、富岡美保、一穂

●7/2(日)
出演:林哲司
ゲスト:松井五郎(作詞家)
ゲストシンガー:藤澤ノリマサ、松城ゆきの、一穂

https://ht50th.com/