2023年6月号|特集 林哲司の50年

【Part6】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ

会員限定

インタビュー

2023.6.20

第6回:Roots


インタビュー/栗本斉 文/加藤賢 写真/山本マオ


【Part5】からの続き)

三つ子の魂じゃないけれど、当時覚えていた音楽は身体の中に残っている


―― 次のテーマは「Roots」です。林さんにとって、最初の音楽体験は何だったか覚えていらっしゃいますか?

林哲司 美空ひばりさんかな(笑)。

―― ひばりさん! それは、ご両親がお好きだったんですか。

林哲司 うーん、両親が美空ひばりをたくさん聴いていたという記憶はないんですね。でも、当時は歌が持つ世の中に広がる力が、今とは比較にならないくらい大きかったんです。流行歌という存在がエンターテイメントの中心にあった時代だったんですね。レコードを持っている、いないに関わらず、ラジオを通して歌が巷に流れていました。だから当時の人気歌手、たとえば三橋美智也さんや春日八郎さん、浪曲から出てきた三波春夫さんや村田英雄さんの曲を、みなさん流行歌として聴いていたわけです。「お富さん」(’54年)なんかもそうですね。その中でも一番よく聴いていたのが美空ひばりさんだった、ということです。

―― 流行歌が社会に密着していた時代だったわけですね。幼い日の林さんにとって、お気に入りのひばりソングは何だったんでしょうか?

林哲司 ええと、「お祭りマンボ」(’52年)かな。それを覚えて近所の家に行って、ちゃぶ台をステージに見立てて歌っていました(笑)。それで褒められて、喜んでいるっていう。


美空ひばり
「お祭りマンボ / 月の幌馬車」

1952年8月15日発売


―― やっぱりヴォーカリストですね!

林哲司 ほんとにそうです。当時はね、まだヴォーカリストの片鱗があった(笑)。

―― ということは、やっぱり小さな頃から音楽がお好きだったんですね。お母様が学校の先生で、家にはオルガンがあって、みたいなお話もありましたけど、ご家庭では他にどのような音楽が流れていたんでしょうか?

林哲司 両親はその当時の歌謡曲を普通に聴いていましたね。それで、僕は末っ子なんですが、兄貴たちが一回り離れているんです。だから、僕が物心ついた頃には、彼らはそれぞれ自分で買ったレコードを選んで聴いているんですよ。で、上の兄は歌謡ポップスとか歌謡曲を聴いていたんですが、下の兄が完璧な洋楽派で、エルヴィス・プレスリーにニール・セダカ、インストゥルメンタルではサム・テイラーやグレン・ミラーなど、60年代のヒット曲をよく聴いていたんですね。だから僕も、英語の意味はわからないけれど、ニール・セダカの「カレンダー・ガール」(’60年)を耳で覚えて歌ったりしていました。その一方で、上の兄が聴いている橋幸夫さんとか、守屋浩さんなんかも当然、自分の中に入ってくるわけです。どちらも嫌ではなかったし、洋邦のヒット曲を自然体で吸収していました。


Neil Sedaka
『The Best Of Neil Sedaka』

2015年6月24日発売


―― 邦楽と洋楽のどちらもが聴こえてくる環境だったわけですね。そこから、音楽にのめり込むにはどういう変遷を辿ったのでしょうか。




林哲司(はやし・てつじ)
●1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表。竹内まりや「SEPTEMBER」、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」など全シングル、菊池桃子「卒業 -GRADUATION-」など全シングル、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、2000曲余りの発表作品は、今日のシティポップ・ブームの原点的作品となる。また、映画音楽、TVドラマ音楽、テーマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。ヒット曲をはじめ発表作品を披露するSONG FILE LIVEなど、積極的なライヴ活動も行っている。
http://www.hayashitetsuji.com/


林哲司
『Hayashi Tetsuji Song File』

仕様 : CD5枚組 +ブックレット
品番 : MHCL-30815〜30819
価格 : ¥14,850(税込)
2023年6月21日発売




【関連作品】


林哲司
『林哲司 コロムビア・イヤーズ』

2023年6 月21日発売



林哲司
『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』

2023年6 月21日発売





【関連イベント】


林哲司50周年記念SPイベント
『歌が生まれる瞬間(とき)』 ~Talk&Live~

会場:赤坂レッドシアター

●6/30(金)
出演:林哲司
ゲスト:萩田光雄(作曲家・編曲家)、船山基紀(作曲家・編曲家)
ゲストMC:半田健人

●7/1(土)
出演:林哲司
ゲスト:売野雅勇(作詞家)
ゲストシンガー:大和邦久、富岡美保、一穂

●7/2(日)
出演:林哲司
ゲスト:松井五郎(作詞家)
ゲストシンガー:藤澤ノリマサ、松城ゆきの、一穂

https://ht50th.com/