2023年6月号|特集 林哲司の50年

【Part5】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ

会員限定

インタビュー

2023.6.15

第5回:Soundtrack


インタビュー/栗本斉 文/加藤賢 写真/山本マオ


【Part4】からの続き)

映像のための音楽であると同時に、単独でも作品として聴ける楽曲が理想


―― 5番目のテーマは「Soundtrack」です。今回発売される50周年記念のボックス、『Hayashi Tetsuji Song File』の4枚目にも、サントラだけを集めたディスクが入っていますよね。そもそも林さんの音楽のルーツがバート・バカラックとフランシス・レイということもあり、納得するところもあるのですが、このように映画や音楽、ドラマの音楽を手掛けるようになったきっかけは何だったのでしょうか。

林哲司 最初からやりたかったんだと思います。なぜかっていうと、映画がすごく好きでしたから。子どもの頃、ラジオから流れるヒットチャートには映画音楽がたくさん入っていました。ヴォーカル入りの主題歌だけじゃなくて、歌のないテーマ曲まで入っていたんですよね。僕らがすごく幸せな時間を過ごしたなと思うのは、あの当時の日本という国が、360度すべての音楽を受け入れられるだけのキャパシティを持っていたことです。もちろん英米中心ですけど、ラジオ番組のチャートはビートルズの次に映画音楽が入っていたり、インストゥルメンタルの曲が入っていたりするごった煮でした。だからビートルズを聴きたくて、そのチャートを追いかけているうちに、様々な音楽にも興味を持つようになりました。カテゴライズされたチャートじゃなかったからこそ、様々な音楽に触れることができたのだと思います。

―― 当時の日本の音楽番組が持っていた雑食性が、林さんの音楽的な引き出しを広げていったわけですね。

林哲司 そうですね。自然と映画好きになっていったのですが、70年代は、東和(後の東宝東和)がヨーロッパの映画をいくつも輸入していたので、ほとんどアメリカ映画と同じくらいの比率で観ることができました。映画を今みたいにビデオで所有できる時代じゃなかったから、映画のグッズといっても劇場でパンフレットを買うか、あるいはサントラ盤を聴いて、映画のシーンを思い出すぐらいしかできなかった。ですから好きな映画、なかでもフランシス・レイが音楽を担当した作品のサントラはよく買いました。それから当時はアメリカン・ニューシネマの時代で『イージー☆ライダー』(’69年)とか、『明日に向かって撃て!』(’69年)なんかがヒットした時代なんですが、映画公開よりも先に音楽を発売したりすることがあったんです。そうなると、たとえばバート・バカラックが音楽を担当した『明日に向かって撃て!』の場合、映画公開よりも先に、B・J・トーマスの「雨にぬれても」がヒットしていたりする。映画本編を観る前だから、「雨のシーンで使われた曲なのかな?」なんて想像しながら聴いているわけです。でも実際に映画を見てみると、ポール・ニューマンとキャサリン・ロスが晴れた日に自転車で走っているシーンで使われていたりして、「全然雨降ってねぇ!」って(笑)。


Burt Bacharach
『Butch Cassidy And The Sundance Kid』

1969年発売


―― 確かにそうですね(笑)。

林哲司 でも、あの映画の中でバカラックがやっていたことは、かつての西部劇とは如実に違うものでした。追跡シーンではスウィングル・シンガーズのようなスキャットを使っていたりして、そこに凄みを感じていました。一方でフランシス・レイが担当した『男と女』(’66年)では、あの低予算の中で、あれだけ粋な映画を作れることに驚きました。「男と女のサンバ」で聴かれるボサノヴァとか、ドーヴィルの海岸のシーンで流れる音楽とか、聴き返すたびにそのシーンのことを思い出しますね。またクリスチャン・ゴベールのアレンジからは、器楽の使い方や、同じメロディをシーンごとに変化させながらアレンジしていく手法を学びました。

―― そういった名作映画の数々から、巨匠たちの手法を学んでいったわけですね。そんな林さんが、最初に劇伴音楽を手がけた作品はなんだったんでしょうか。




林哲司(はやし・てつじ)
●1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表。竹内まりや「SEPTEMBER」、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」など全シングル、菊池桃子「卒業 -GRADUATION-」など全シングル、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、2000曲余りの発表作品は、今日のシティポップ・ブームの原点的作品となる。また、映画音楽、TVドラマ音楽、テーマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。ヒット曲をはじめ発表作品を披露するSONG FILE LIVEなど、積極的なライヴ活動も行っている。
http://www.hayashitetsuji.com/


林哲司
『Hayashi Tetsuji Song File』

仕様 : CD5枚組 +ブックレット
品番 : MHCL-30815〜30819
価格 : ¥14,850(税込)
2023年6月21日発売




【関連作品】


林哲司
『林哲司 コロムビア・イヤーズ』

2023年6 月21日発売



林哲司
『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』

2023年6 月21日発売





【関連イベント】


林哲司50周年記念SPイベント
『歌が生まれる瞬間(とき)』 ~Talk&Live~

会場:赤坂レッドシアター

●6/30(金)
出演:林哲司
ゲスト:萩田光雄(作曲家・編曲家)、船山基紀(作曲家・編曲家)
ゲストMC:半田健人

●7/1(土)
出演:林哲司
ゲスト:売野雅勇(作詞家)
ゲストシンガー:大和邦久、富岡美保、一穂

●7/2(日)
出演:林哲司
ゲスト:松井五郎(作詞家)
ゲストシンガー:藤澤ノリマサ、松城ゆきの、一穂

https://ht50th.com/