2023年6月号|特集 林哲司の50年

【Part4】林哲司が語る50年~ナイン・ストーリーズ

会員限定

インタビュー

2023.6.13

第4回:Producer


インタビュー/栗本斉 文/加藤賢 写真/山本マオ


【Part3】からの続き)

アーティスト本来のカラーと自分のカラーが混じり合った変化を意識する


―― 4つ目のテーマは「Producer」です。作曲やアレンジの仕事とは違い、プロデューサーの場合は必要に応じて、他の人に曲を発注することもあるわけですよね。その立ち位置というのは、林さんにとってどういう感覚なんでしょうか。

林哲司 音楽家がプロデュースを担当する場合、そこには大きく分けて2つの視点が求められます。ひとつは作品を作る、サウンドをプロデュースするという視点で、もうひとつはその作品をどのように世間へアピールしていくかという視点です。これはどちらも重要なのですが、ミュージシャンがプロデューサーを務めると、やはり作品作りや音作りだけに意識が行ってしまうことが多い。そのアーティストが自分にプロデュースを依頼した意図を汲み取って、タイアップを考えたり、作品のセールスポイントを設定したりと、ビジネスとしても成功するようなプロモーションの形を考えなければいけません。「いい作品ができたね」で、終わってはいけないんです。まあ、依頼側はクリエイターにそこまで求めるプロデュースではなく、まずは自分たちがヒットを生み出せるような、いい作品を作ってほしいという依頼でしょうけど。

―― それには、相当俯瞰して作業全体を見ないと不可能ですよね。

林哲司 そうですね。だから極端な例で言うと、どの曲をシングルカットするか選ぶときに、自分が書いた楽曲よりも他人の作品が勝っていたとしたら、それを選びますね。プロデューサーとはそういう仕事だと思います。

―― でも、一方でクリエイターとしての自分もいるわけじゃないですか。そこにジレンマや葛藤を感じることはありますか。

林哲司 あります。でも、それは「どっちが楽曲として優れている?」っていう話じゃないんですよ。いま、このアーティストを売り出すシングル曲として、そのプロジェクトのリード曲としてどの曲を選ぶべきなのかということですから。アーティストの個性を色濃く反映していて、世間にアピールできるという判断ができれば、プロデューサーとしてはそちらをジャッジするのが賢明ですよね。あと、スタッフが心の中でどう思っているかも常に推察しておく必要があります。

―― スタッフが林さんに気を遣って、そういった提案がしづらいこともありますよね。

林哲司 そういうことも含め、やっぱり論理性も含めて、「この曲を選んでアピールする」ということを考えられる人がプロデューサーだと思っています。過去の例を挙げると、この若さで素晴らしい感性だなと思ったのは角松敏生くんですね。角松くんが「悲しみがとまらない」(’83年)を僕と康珍化さんに委ねるっていう判断はなかなか出来ることではないですよね。あの時代、若手ミュージシャンがプロデュースを依頼されたら、すべて自分で曲を書いていてもおかしくはないはずです。でも、彼は自分が書くよりも、この2人にシングルを任せた方が杏里さんをアピールするのにいいんじゃないかと、プロデューサーとして判断したんじゃないかと思います。




林哲司(はやし・てつじ)
●1973年シンガー・ソングライターとしてデビュー。以後作曲家としての活動を中心に作品を発表。竹内まりや「SEPTEMBER」、松原みき「真夜中のドア〜stay with me」、上田正樹「悲しい色やね」、杏里「悲しみがとまらない」、中森明菜「北ウイング」、杉山清貴&オメガトライブ「ふたりの夏物語 -NEVER ENDING SUMMER-」など全シングル、菊池桃子「卒業 -GRADUATION-」など全シングル、稲垣潤一「思い出のビーチクラブ」など、2000曲余りの発表作品は、今日のシティポップ・ブームの原点的作品となる。また、映画音楽、TVドラマ音楽、テーマ音楽、イベント音楽の分野においても多数の作品を提供。ヒット曲をはじめ発表作品を披露するSONG FILE LIVEなど、積極的なライヴ活動も行っている。
http://www.hayashitetsuji.com/


林哲司
『Hayashi Tetsuji Song File』

仕様 : CD5枚組 +ブックレット
品番 : MHCL-30815〜30819
価格 : ¥14,850(税込)
2023年6月21日発売




【関連作品】


林哲司
『林哲司 コロムビア・イヤーズ』

2023年6 月21日発売



林哲司
『ディスコティーク:ルーツ・オブ・林哲司』

2023年6 月21日発売





【関連イベント】


林哲司50周年記念SPイベント
『歌が生まれる瞬間(とき)』 ~Talk&Live~

会場:赤坂レッドシアター

●6/30(金)
出演:林哲司
ゲスト:萩田光雄(作曲家・編曲家)、船山基紀(作曲家・編曲家)
ゲストMC:半田健人

●7/1(土)
出演:林哲司
ゲスト:売野雅勇(作詞家)
ゲストシンガー:大和邦久、富岡美保、一穂

●7/2(日)
出演:林哲司
ゲスト:松井五郎(作詞家)
ゲストシンガー:藤澤ノリマサ、松城ゆきの、一穂

https://ht50th.com/