2023年5月号|特集 大江千里 Class of ’88

【Part4】Life of S.O.~大江千里のライフ・ストーリー[N.Y.編]|2020-2023

会員限定

解説

2023.5.26

文/大窪由香


【Part3】からの続き)


2023年1月、原点となるステージで、ジャズ・ピアニストとしての現在地を見せた


 2019年の年末から密かに発生していた不穏な予兆は、2020年に大爆発した。新型コロナウイルス感染症のパンデミックである。2月26日、政府は全国的なスポーツ、文化イベントの中止、延期、規模の縮小を求めた。それに応じてライヴイベントの延期、中止が次々と発表された。千里さんのソロコンサート<Senri Oe “Hmmm” Japan Tour 2020 -special solo performance->の4本目、2月27日仙台公演直前のことである。ソロコンサートは3月1日の静岡公演で終了し、その後マット・クロージー(B)とロス・ペダーソン(Dr)と共に東名阪の<Senri Oe “Hmmm” Japan Tour 2020>に出る予定だった。3人とも心からツアーを楽しみにしていたが、危険な状況の中、大切なファンの人たちを集めることはできない。「悔しいけれど中止にしよう」。英断だった。
 3月7日にN.Y.に戻る予定だった飛行機を、2月27日に変更した。“いつかまたこのトリオでやる時がきたら、中止になったこのツアーのセットリスト通りに演奏してみよう”。そんな思いを胸に日本を後にした。

 新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻化するニューヨーク州では、3月22日からロックダウンが始まった。日本から戻ったばかりの頃はピアノに触る元気もなかったが、ビデオ編集をしながら音楽をつけたり、自身のジャズの曲の中から静かな曲ばかりをDJ風に繋げた「calm, soothing and feel good」をwebで公開したりと少しずつ音楽を取り戻し、パンデミックだからこそ音楽で人と関わり合う活動を手探りながら一つ一つ興していった。その中で、「Togetherness」という約1分20秒の短い曲を作ってYouTubeにアップした。この曲は“距離や時間を超えて一緒にいられる強さ”をテーマに、戦地の兵士と故郷で見守る家族や、パンデミックで患者に付き添えない家族や恋人など、困難な中にいるすべての人へ贈るつもりで書いたという。この「Togetherness」は、AP通信選定による「コロナ禍で作られた40曲」に選ばれた。

 N.Y.では9月からレストランやバー、劇場などの屋内活動において、ワクチン接種証明の提示が義務付けられた。世の中のルールがコロナによって変化していく。そんな9月6日、千里さんは還暦を迎えた。友人の家で赤いダウンベストをプレゼントしてもらった千里さんは、それを着て20歳の女の子とダンスを踊ったそうだ。愉快に踊る様子はnoteの動画でも確認できる。60歳を迎えた千里さんは、「固定観念の殻が割れてもっと自分の心に忠実に日々の選択を行なうようになった」と語っていた。

 10月にはマット・クロージー(B)、アリ・ホーニグ(Dr)とともに、大江千里トリオの有料配信ライヴ<Live Streaming from Blue Note New York>を開催。アルバム『Hmmm』の楽曲をはじめとした“SENRI Jazz”を、リアルタイムで世界に向けて発信した。


大江千里
『Hmmm』

2019年9月4発売





大江千里
『Class of '88』[初回生産限定盤]

2023年5月24日発売
MHCL-3032~3034/¥8,800(税込)
●Disc-1:CD 『Class of '88』 ※通常盤と共通
●Disc-2:CD 『Senri Jazz 〜First Decade〜』
●Disc-3:DVD 『大江千里Piano Concert ~Remember Homeroom!~』



大江千里
『Class of '88』[通常盤]

2023年5月24日発売
MHCL-3035/¥3,300(税込)