2023年5月号|特集 大江千里 Class of ’88
第4回:映画|Column of ’88 ~ 1988年のカルチャーシーンを斬る!
コラム
2023.5.23
文/真鍋新一
『Class of ’88』にちなみ、1988年にフォーカスするカルチャーコラム。第4回目は大作とミニシアターが混在していた映画業界について。
大手企業が出資した大作映画から、ミニシアターの隆盛まで百花繚乱の映画界
1988年に公開された映画からこの時代の懐かしいトレンドを振り返ってみるに当たり、手始めにまだ観たことのないこの年の日本映画を1本選んで観賞してみた。夜の東京タワーは電球で覆われており、今と比べると圧倒的に暗くて存在感がない(ライトアップに変更されたのは翌年から)。駅にはまだ自動改札がなく、通勤ラッシュの時間には改札に立った駅員が切符を切る音が構内に響いている。日比谷公園ではお昼休みに社員たちが仲良くバレーボール……。
作品の内容はさておき、フィルムに刻まれた35年前の東京の風景には実に興味深いものがあった。部長の椅子で退屈な毎日を過ごす主人公がヒロインとの逢い引きに使うマンションの一室は、住むために買った物件ではない。「値段が上がるのを待って売りに出す」と彼が妻と話している場面があり、投機のために所有していたことが判明する。なんとまぁリッチな話。一般企業の平凡な中間管理職でこの生活レベルである。こうした設定がそれなりにリアリティを持って描かれていた時代だった。そんな時期に公開され、世に問われた映画たち。翌年が始まってたった1週間で平成になってしまうから、事実上昭和の最後を飾った映画と言ってもいい。
『帝都物語』
©KADOKAWA
まず目につくのが1月30日公開の『帝都物語』。大正モダンと超能力バトルSFが合体したこのオールスター超大作のバックボーンとなったのは、西武百貨店を中心とするセゾングループ。すでにパルコの広告キャンペーンなどで時代をリードしていた文化戦略の一環として、80年代から大々的に映画界にも進出した。セゾングループの功績がそれだけにとどまらなかったのは、系列会社のシネセゾンがフェデリコ・フェリー二監督の『インテルビスタ』(7月23日)、ルイ・マル監督の『さよなら子供たち』(12月17日)、松本俊夫監督の『ドグラ・マグラ』(10月5日)などといった作品を配給し、ミニシアター「シネセゾン渋谷」(’11年閉館)、「銀座テアトル西友」(’13年閉館)を経営していたこと。この年に劇場版『花のあすか組!』と宮沢りえのデビュー作『ぼくらの七日間戦争』の二本立て(8月13日)を送り出した角川映画とともに、この時代の文化を象徴する一大勢力だった。
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