2023年5月号|特集 大江千里 Class of ’88

①杏里『meditation』|Self Covers|邦楽セルフ・カヴァー・アルバム名盤

レビュー

2023.5.1


杏里
『meditation』

1987年11月21日発売

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1. OLIVIA O KIKINAGARA
2. LAST PICTURE SHOW
3. YOU ARE NOT ALONE
4. HEAVEN BEACH
5. ALL OF YOU
6. OVERSEA CALL
7. I CAN'T EVER CHANGE YOUR LOVE FOR ME
8. LONG ISLAND BEACH
9. SUNAHAMA
10. AFFECTION
11. GOOD-NIGHT FOR YOU


“バラディア”杏里への格好の入門盤となるAORバラード集

 自身が過去にリリースしたバラード曲のレパートリーを再演した’87年のアルバム。元より圧倒的な歌唱力を誇る彼女だけに、一聴すると歌唱の面ではさほど劇的な変化が聴かれないように感じるかもしれないが、例えば「オリヴィアを聴きながら」などの初期ヒット曲を比較すると、10年弱の歳月を経て声質自体がぐっとアダルトなしなやかさを増しているのがわかる。

 本盤の魅力は、その「オリヴィアを~」をはじめとして、シンセサイザーを多用した(’87年当時の)当世風アレンジが施されている点にあるだろう。AORバラード集として、これほど完成度の高いレコードもそうそうない。そういった視点から特筆すべきなのが、香坂みゆきへ提供した「ラストショウ」の英語版セルフ・カヴァー「LAST PICTURE SHOW」だ。入江純の編曲の元、ジョーイ・マッコイの訳詞を歌い上げる様は、はまさに世界基準のAORシンガーといった雰囲気。

 AOR〜メロウ風味へのリメイクというコンセプトゆえか、「I CAN'T EVER CHANGE YOUR LOVE FOR ME」や角松敏生と組んだ諸曲「LONG ISLAND BEACH」は、オリジナルを尊重し、再録音版ではなく再ミックスヴァージョンが収録されている。

 昨今のシティポップブームで華々しく取り上げられる杏里の過去作だが、そうしたブーム現象において無意識のうちにスポイルされがちなバラード路線の曲にもぜひ光を当てるべき。そういう意味でも本作は、バラディア杏里への格好の入門盤といえる。

文/柴崎祐二