2023年4月号|特集 大滝詠一 2023
【Part3】鈴木慶一 インタビュー|「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」誕生秘話と大滝詠一の想い出を語る
インタビュー
2023.4.26
インタビュー・文/岡村詩野
『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』に完全未発表の“新曲”として収録された「ゆうがたフレンド (USEFUL SONG)」。大滝と親交の深いムーンライダーズの鈴木慶一が特別ゲストで参加し、大滝と鈴木による伝説のユニット=“冗談ぢゃねーやーず”が、その曲で復活した。50年という年月を経て届けられた“新曲”の誕生秘話、そして大滝詠一との想い出をじっくりと語ってもらった。
(【Part2】からの続き)
大滝さんの遊び心の背景には日本の大衆文化への憧憬もあった
── 今回のアルバムに収録されている他の曲についてはどうでしたか?
鈴木慶一 市川実和子さんが歌っている「ポップスター」を聴いて思い出したことがある。あの曲には関わってないけど、市川さん、あの曲を含めたアルバム[*6]をその後出したでしょ? あのアルバムに私が2曲提供したので、その曲のレコーディングの時に一度足を運んでね。その時に、せっかくきたんだから何かやっていきなよって大滝さんに言われて。何をやらされるのかと思ったら、“馬の鳴き声をやって”って(笑)。「Do You Wanna Play Game」って曲の歌詞に“ハナの差/クビの差/三馬身”とかっていう部分があるんだけど、そこで馬の鳴き声をやってほしいっていうんだよ。
『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』
2023年3月21日発売
── 本物の馬の鳴き声を使うこともできるのに、わざわざ作曲した慶一さんに馬の鳴き真似をさせるのが粋ですね。
鈴木慶一 まあ、嫌とは言えないですからね(笑)。わかりました、やりましょうと。“ヒヒヒ~ン”ってやりましたよ(笑)。でも、そういうところだよね、遊び心に近い感覚。大滝さんは福生のスタジオでソロ後にこういうノヴェルティともパロディとも言えない遊び心に近い作業を散々やってきた。それを90年代に、もう自分ではライヴも全然やらなくなっていた時代にレコーディングでも実践していたわけです。しかも、その遊び心のバックには日本の大衆文化への憧憬みたいなものもあったと思う。
── ええ、そもそも若い女の子に、競馬というある種の昭和感ある光景を連想させる歌詞を歌わせるというのにも、欧米のポップスと日本古来の大衆文化とのシンクロを感じます。そして、それはノヴェルティ・ソングというものではもはやなくて、大滝さんにとってむしろそれこそが本流みたいなところがあったのではないかという気がします。日本の大衆芸能、演芸と欧米のポップスの豊かな合流……それはもはやノヴェルティなんかじゃないというか。
鈴木慶一 そのとおり。細野さんもそういうところがある。もちろん私もね、自分の曲の中にゲップの音を入れたことがあるんだけど(笑)[*7]、さっきの馬の鳴き声を真似るっていうのと同じ感覚じゃないかって思うんだよね。そういうのは、元々あきれたぼういずとかフランキー堺さんとかの流れの上にあるもので、私も子供の頃にそういうのに触れてきたから自然と影響として出ている。洋楽のポップスをただ日本語にしましたというのではない感覚。そこに差を持たせないってことなんだと思うよ。最高のギターソロと最高のゲップは同じなんだって。だから、大滝さんは植木等さんのような芸能系の人に曲を提供することも、自分で歌うことも同じ感覚だったんだろうなと思いますね。そういう方々に曲書くことがやっぱり楽しかったんじゃないかな。
── 芸能とポップスの蜜月関係ですね。
鈴木慶一 そういう感覚は、私はムーンライダーズだけではなく、曽我部恵一くんのプロデュースで00年代から10年代にかけてソロ・アルバムを作った時にもすごく生きたと思うし[*8]、KERAと一緒にやってるNo Lie-Senseでももちろんそれは感じられると思うよ。KERAも自分でLONG VACATIONってバンドをやってるくらいだからね、当然大滝さんのことは好きなわけでね。で、それっていうのはオマージュとかではなく、もっとカジュアルにパロディ……元ネタがちゃんとあって、それがわかる人にはすぐわかっちゃう。その面白さが大切なんだよね。敷居は高いけど。それが福生時代の大滝さんの作品の大きなポイントだったと思うんだけど、『A LONG VACATION』ではそれがなくなる。このノヴェルティ感覚っていうのは福生でなければ生まれなかったと思うよ。
私は『NIAGARA CALENDAR』(’77年)が大好きなんだけど、あの1曲目の「Rock'n' Roll お年玉」の“みなさん、あけましておめでとうございます!”って掛け声の前に聴こえてくる足音が最高なんだよね。“おっとしだまっ、おっとしだまっ”ってコーラスとか、よくあんな言葉をコーラスにするよね。「あの娘にご用心」の“ごよ~じん、ごよ~じん”ってコーラスもそう。あの言語感覚ってほんとにおもしろい。何がどうなってどうなるのかまったくわからない感じ。でも、ちゃんと元ネタがある。それを隠さないし、昇華するわけでもない。
大滝詠一
『NIAGARA CALENDAR』
1977年12月25日発売
『NIAGARA CALENDAR '78』『NIAGARA CALENDAR '81』を含む大滝詠一作品サブスクはこちらをチェック
「お前らは70過ぎても一緒にやってれば面白いことになる」と大滝さんに言われた
── 大滝さんの場合、いいポップスを作ることに対する野心が、誰もやっていない真新しいこと、斬新なことを目指すというより、昔からあるいいポップスを上書きしていく楽しさを満喫する中から生まれる……ということだったのかと思います。
鈴木慶一(すずき・けいいち)
●’51年東京生まれ。’70年頃より音楽活動を開始し、あがた森魚、はっぴえんど等のサポート、また数多くの録音セッションを経験する。’72年に、“はちみつぱい”を結成。日本語によるロックの先駆的な活動を展開しアルバム『センチメンタル通り』をリリース。はちみつぱい解散後に、ムーンライダーズを結成し’76年アルバム『火の玉ボーイ』でデビュー。バンド活動の傍ら膨大なCM音楽、アイドル、演歌など幅広い楽曲提供とプロデュース、『Mother/Mother2』などのゲーム音楽に関わり、人々に大きな影響を与えている。映画音楽では北野武監督の『座頭市』、『アウトレイジビヨンド〜最終章〜』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』でシッチェス国際映画祭最優秀音楽賞を受賞した。’15年に音楽家生活45周年を迎え、東京メルパルクホールで記念ライヴ(チケットはソールドアウト)を行なった。俳優としての顔も持ち映画やドラマへの出演も多数。
ムーンライダーズ
『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』
2023年3月15日発売
http://www.moonriders.net/
https://columbia.jp/artist-info/moonriders/
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インタビュー
2023.4.24