2023年4月号|特集 大滝詠一 2023

【Part1】鈴木慶一 インタビュー|「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」誕生秘話と大滝詠一の想い出を語る

インタビュー

2023.4.21

インタビュー・文/岡村詩野


『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』に完全未発表の“新曲”として収録された「ゆうがたフレンド (USEFUL SONG)」。大滝と親交の深いムーンライダーズの鈴木慶一が特別ゲストで参加し、大滝と鈴木による伝説のユニット=“冗談ぢゃねーやーず”が、その曲で復活した。50年という年月を経て届けられた“新曲”の誕生秘話、そして大滝詠一との想い出をじっくりと語ってもらった。

「ゆうがたフレンド」はあと5ヴァージョンある


──「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」の“大滝詠一と鈴木慶一(冗談ぢゃねーやーず)”名義でのヴァージョン、すごくおもしろいですね。大滝さんが自ら作曲したこんなヴァージョンがあったとは驚きでした。

鈴木慶一 私も今回初めて聴いたんだよ(笑)。もともとは去年の3月にムーンライダーズが日比谷野音でライヴをやった時、終演後にナイアガラの坂口(修)さん[*1]が楽屋に来てくれてね、“実は「ゆうがたフレンド」で、こういうのがありまして”と言うんだ。いや、そんな音源があるんだ! って驚いた。私からは今日演奏した「イスタンブール・マンボ」も歌ってますねと言って、さて「ゆうがたフレンド」って、どんなんだろうって想像していたんだけど、去年の12月の恵比寿ガーデンホールでやったムーンライダーズにやっぱり坂口さんが来てくれて、その時に“これを出します、つきましてはヴォーカルを入れてください”と言うんだよ。その時もまだ私はてっきりあの「イスタンブール・マンボ」[*2]を新たに歌うんだ、くらいに思っていた。大滝さんが自分で曲をつけて歌った「ゆうがたフレンド」があるって言われてもまだピンとこなかったんだ。

『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』
2023年3月21日発売


 そして、去年の年末に、本当にその音源のデータが送られてきた。で、聴いてみて、ビックリしましたね。2022年最後のビックリ。だって、本当にそれまで一度も聴いたことがなかった「ゆうがたフレンド」を、大滝さんが歌っていたんだよ。もともと「ゆうがたフレンド」は大滝さんが曲を作って、糸井(重里)さんが作詞をして、『とんねるずのみなさんのおかげでした』のテーマ曲として使われるはずだった。ところが結局それはボツになってしまった。で、ご存知のように、糸井さんの歌詞に新たに曲をつけて我々ムーンライダーズが「ゆうがたフレンド(公園にて)」[*3]として新たな別に曲にしたんだ。つまり、ライダーズの「ゆうがたフレンド」は大滝さんが最初にテレビ番組用に作ったヴァージョンじゃなくて、ギターの白井良明が曲をつけたものなんだよね。そういう関係性もあって、今回大滝さんが自分で歌ったヴァージョンでデュエットする相手として私が選ばれたんじゃないかな。

ムーンライダーズ
「ゆうがたフレンド(公園にて)」

2006年9月27日発売


──『とんねるず~』のテーマ曲としてボツになった理由はご存知ですか?

鈴木慶一 いやあ、特に詳しく聞かなかったけども、何だろうねえ……まあ、番組制作上での方向性の違いなのかな。もったいないよね。でも、大滝さんってそういう例がきっとすごくたくさんあるんだと思うんだよ。大滝さんの「イスタンブール・マンボ」だって、ドラマの劇伴としてちょっと作っちゃった、みたいな感じだったと思う。実は大滝さんのそういうボツ曲っていっぱいあるって言われてるけど、本当にそうなのかな? ってちょっと信じられないところもあった。でも、実際にこうして本当にあったわけでね。しかも、実はムーンライダーズの「ゆうがたフレンド」も、あの時、メンバー内でコンペをして白井の曲が糸井さんによって選ばれた、という経緯があるんだよ。つまり、同じ糸井さんの歌詞であと5ヴァージョンある(笑)。もちろん私の曲もあるし、かしぶち(哲郎)くん、岡田くんのもある。たぶんマネージャーが管理してくれてると思うけどね(笑)。あれ、今全部聴いたらおもしろいんじゃないかな。

時間を超えて一緒に大滝さんと歌うって感無量だなあ


──では実際に、今回デュエットするために大滝自唱ヴァージョンを初めて聴いてみて、最初はどんな印象を持ちましたか?

鈴木慶一 テレビ番組のテーマ曲としては複雑というか、次々といろんな展開が変わっていく。ダニエル・ビダルの「オー・シャンゼリゼ」みたいな感じがあったり、デキシーランド・ジャズっぽかったりボードヴィルっぽかったり、テンポも遅くなったり速くなったり…マイナーになって「アラ見てたのね」(都はるみ)みたいになってったり。で、一周回ってまた戻る……みたいな。すごい構成だよね。

 ただね、まあ、これは糸井さんの歌詞がそうなんだけど、これはもう若者が歌う歌じゃないなと。当時、私たちは50代だったわけだけど、当時のとんねるずのふたりが歌うにはちょっと渋すぎたと思う。“走る剣道部/さぼるライトバン/ともだちも/金はない 落ち込む中高年/ふくらむ女子高生/ともだちも/あてもなく”って、中高年が若者を見ているような目線の歌詞でしょ。もしかしたら糸井さんとしても、若者がテレビを通じて楽しむ曲という意味よりは、そういう若者もゆくゆくはこういう感覚になるんだよ、ってことを言いたかったのかなって気はするよね。この大滝さんヴァージョンはたぶん2005年くらいに録音されていると思うんだけど……当然私はそこには立ち会っていないし、そこから18年くらい経って、私はもう50代じゃないけど、一緒に時間を超えて一緒に大滝さんと歌うって感無量だなあって思いましたね。

──慶一さんのヴォーカル録音はいつだったのですか?

鈴木慶一 これが実は今年の正月明けてすぐだった(笑)。年末に依頼されて、音源聴いてびっくりしてたらこれが4日締め切りだった。で、気がついたらもう録音しなきゃ。これが新年一発目の仕事でした。でも、このあとにひどい’23年が来るとは思わなかったね……。このヴォーカルを録音したのは自宅のプライヴェート・スタジオだったんだけど、そこで部屋に誰も入れずにひとりで録った。というのも、大滝さんは実際に福生のスタジオには歌を録る時は誰も入れなかったらしくてね。で、私もその気持ちになってですね、ひとりで歌入れしてみたんだ。

 で、どのパートを歌うのか、みたいなのは坂口くんが指定してきたので、まずはそれに従ってみた。当初、坂口くんは“とりあえずは最初から最後まで歌ってください”っていうんだけど、でも、それをやると私と大滝さんって、おそらく歌うと声が似てるからどっちがどっちかわからなくなるよって言って(笑)。それで、一番は大滝さんが歌って、二番を私が歌った。ただ、“生まれてきたときゃ/はだかじゃないか”ってところ……マイナーになるところには私が勝手にハーモニーをつけさせてもらいました。でも、大滝さん最後のヴォーカル録音だった曲がこの「ゆうがたフレンド(USEFUL SONG)」で、それをもとに今度はそこに自分のパートを入れていく、それをコンピューターの前で録音していくって……ちょっとしんみりはしましたね。もうこの世にいない人と一緒に歌ってるのかあ……ってね。

──でも、確かに歌声は似ているように思います。一緒に歌っていると自然と似てきてしまうのかもしれませんが。

鈴木慶一 そうだね。思い出したけど、’70年、はっぴいえんどのライヴに参加した時、大滝さんに“お前何でそんな変な歌い方するんだ”って言われたことがあるよ。“いや、あなたの歌を真似してんです”って返したんだけどね(笑)。でもね、私は大滝さんに似ているだけじゃなくて、一緒に歌う人にどうも似ちゃうところがある。ちなみに、高橋幸宏と一緒にやるTHE BEATNIKSの時はやっぱり幸宏に似ちゃう(笑)。それで一緒にハモるといい感じになるというのもあるんだけどね。大滝さんと私、顔も似てるっていうのに関してはちょっとわからないけど(笑)、大滝さんのあの低い低いとこから出てくる声はやっぱりすごいと思う。なんというか……豊かなんだ。それを今回時空を超えて一緒に歌ってみてつくづく実感したよね。

【Part2】へ続く)

[*1]
ナイアガラ・レーベルの坂口修氏。もともとは大滝自身が設立したもので、’75年にはシュガー・ベイブ『SONGS』をリリースしている。

[*2]
オリジナルはフォア・ラッズによる’53年によるヒット曲「Istanbul (Not Constantinople)」。ムーンライダーズは’77年の同名アルバムでカヴァーしていて、大滝も’03年のテレビドラマ『東京ラブ・シネマ』の劇伴用に同曲をアレンジして提供している。’20年にリリースされた大滝の『Happy Ending』には大滝の自唱ヴァージョンを収録。

[*3]
’06年にムーンライダーズ30周年記念リリースの一環としてシングル・リリース。同年発売のアルバム『MOONOVER the ROSEBUD』にはDub Master Xによるダブ・ミックスが収録されている。



鈴木慶一(すずき・けいいち)
●’51年東京生まれ。’70年頃より音楽活動を開始し、あがた森魚、はっぴえんど等のサポート、また数多くの録音セッションを経験する。’72年に、“はちみつぱい”を結成。日本語によるロックの先駆的な活動を展開しアルバム『センチメンタル通り』をリリース。はちみつぱい解散後に、ムーンライダーズを結成し’76年アルバム『火の玉ボーイ』でデビュー。バンド活動の傍ら膨大なCM音楽、アイドル、演歌など幅広い楽曲提供とプロデュース、『Mother/Mother2』などのゲーム音楽に関わり、人々に大きな影響を与えている。映画音楽では北野武監督の『座頭市』、『アウトレイジビヨンド〜最終章〜』で日本アカデミー賞最優秀音楽賞を受賞。今敏監督の『東京ゴッドファーザーズ』でシッチェス国際映画祭最優秀音楽賞を受賞した。’15年に音楽家生活45周年を迎え、東京メルパルクホールで記念ライヴ(チケットはソールドアウト)を行なった。俳優としての顔も持ち映画やドラマへの出演も多数。

ムーンライダーズ
『Happenings Nine Months Time Ago in June 2022』

2023年3月15日発売

http://www.moonriders.net/
https://columbia.jp/artist-info/moonriders/