2023年4月号|特集 大滝詠一 2023

❶「ロックを踊る宇宙人」 シェブ・ウーリー from album 『The She Wooley Collection 1946-62』|海外ノヴェルティ&コミック・ソング名鑑

レビュー

2023.4.3


シェブ・ウーリー
「ロックを踊る宇宙人」(原題“Purple People Eater”)

1958年発売

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大滝詠一が示した偉大な先駆者に対するみごとな敬意

 ’58年に全米ナンバー1を記録した「ロックを踊る宇宙人」(原題“Purple People Eater”)は米国出身のシンガーで、俳優としても活躍したシェブ・ウーリーの代表作であり、長年カントリー・シンガーとして活動していた彼が“ロックン・ロール”に挑んだ意欲作で、「一つ目で紫色をした宇宙人が人を食うと思ったら、実はロックン・ローラーだった」というオチがつく歌詞には当時の時代のムードもみごとに描かれている。しかし、当時この曲が“ウケ”た最大の理由は、回転数を変えることで作り出された奇妙な“声”があったからこそだ。この奇妙な“声”は、デヴィッド・セヴィルの「ウィッチ・ドクター」ですでに使われていた手法だが、セヴィル、ウーリーの曲ともに曲の発売は同じ’58年5月で、ウーリーは「ウィッチ・ドクター」を聴いてすぐさま手法を拝借した、ということのようだ。当のセヴィルは架空の人物で、本名はロス・バグダサリアン・シニア。のちにその奇妙な“声”で作られたキャラクター、チップマンクスの生みの親として一世を風靡した人物だ。

 ウーリーのこの曲は“ノヴェルティ・ソング”の古典中の古典だが、大滝詠一は“冗談音楽の王様”スパイク・ジョーンズの絶大な影響下にあったクレイジー・キャッツでおなじみ、植木等をリード・ヴォーカルに、新しい歌詞を乗せた「針切りじいさんのロケン・ロール」としてカヴァーしている。日本の“ノヴェルティ・ソング”の第一人者として、偉大な先駆者に対するみごとな敬意の示し方である。

文/犬伏功