2023年4月号|特集 大滝詠一 2023

①大瀧詠一『大瀧詠一』|大滝詠一ノヴェルティ&コミック・ソング作品レビュー

レビュー

2023.4.3


大瀧詠一
『大瀧詠一』

1972年11月25日発売

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1. おもい
2. それはぼくぢゃないよ
3. 指切り
4. びんぼう
5. 五月雨
6. ウララカ
7. あつさのせい
8. 朝寝坊
9. 水彩画の町
10. 乱れ髪
11. 恋の汽車ポッポ第二部
12. いかすぜ! この恋


コミカルでいて繊細な言葉選びを味わえるソロデビューアルバム

 ソロアーティスト大滝詠一のデビューアルバム。元々『風街ろまん』制作中に立ち上がった企画ということもあり、はっぴいえんどの影もそこかしこに。日本語の音韻とポップス〜ロックのフォーマットをいかに合致させるかという試みがより一層深化し、コミカルでいて繊細な言葉選びは早くも卓越の域に達している。

 「ノヴェルティ」の視点からまず挙げるべきは、「いかすぜ!この恋」だろう。かねてよりエルヴィス・プレスリーのモノマネを得意としていた大滝が、その趣味を全開にさせた傑作曲。エルヴィス楽曲の日本語タイトルを羅列するだけの歌詞もまさにナンセンスなのだが、それが見事譜割りにハマっているのがスゴい。同じくオールディーズ路線の「ウララカ」は、クリスタルズ「ダ・ドゥー・ロン・ロン」を下敷きにしており、のちに「サイダー」へ発展。

 ジェリー・リードとジョー・テックスにヒントを得たという「びんぼう」は、情けないのに超ファンキーという唯一無二の世界。同じくスワンピーな「あつさのせい」は、はっぴいえんど「いらいら」に次ぐフラストレーション溜め込みソングの傑作で、本人曰く「〈いらいら〉の少年が部屋の中で悶々としているのが、外に出て殺人を犯そうとしているのが〈あつさのせい〉」なのだそうだ。こんな爽やかな調子の曲に剣呑な社会風刺を差し込むそのセンスよ!

文/柴崎祐二