2023年4月号|特集 大滝詠一 2023

【Part1】『大瀧詠一』〜『NIAGARA MOON』〜『GO! GO! NIAGARA』の時代|大滝詠一ノヴェルティ/コミック・ソング・ストーリー

解説

2023.4.3

文/小川真一


1971年発表のファースト・シングル「恋の汽車ポッポ」には、大滝詠一のポップス愛、ノヴェルティ嗜好が詰め込まれている


 大滝詠一がノヴェルティ・ソングやコミック・ソングを意識し始めたのは、いつ頃からだったのだろうか。それは少年時代にラジオから流れるポップスに親しんだ時期と、同時ではなかったかと思う。

 最初から大胆に言い切ってしまえば、50年代から60年代にかけてのヒット・ソングは、何らかの形でノヴェルティ・ソングの要素があったのだ。例えば、ザ・コースターズの「ヤケティ・ヤック」や、クリスタルズ「ダ・ドゥ・ロン・ロン」、エルヴィス・プレスリー「監獄ロック」、ディキシーベルズ「サウスタウンU.S.A.」などにしても、歌詞の語感を生かしたリズムであったり、サウンド・アプローチであったり、どこかにノヴェルティの要素が含まれている。ノヴェルティを珍奇、数奇、目新しくてイカしたもの、と解釈すれば納得していただけるのではないだろうか。

 日本でも例外ではなく、スリー・キャッツの「黄色いさくらんぼ」、守屋浩「有難や節」、小林旭「自動車ショー歌」、笠置シヅ子「買い物ブギー」、森山加代子「じんじろげ」など、例をだせばきりがない。おかしさ、面白さ、ちょっと変というのは、ヒット・ソングの重要な要素になっていたのだ。三橋美智也の大ヒット「達者でナ」にしても、よく聞くと日本の望郷歌謡とカントリー&ウエスタンとラテン・ビートとが、実に不思議な形でミクスチェアされている。

 ’71年12月10日にベルウッド・レコードから発売されたシングル「恋の汽車ポッポ」には、大滝詠一のポップス愛、ノヴェルティ嗜好が詰め込まれているのだ。この曲は、はっぴいえんど時代作った「愛餓を(あいうえお)」の続編の「伊呂波(いろは)」が元になっている。この曲を松本隆に聞かせたところ、「そんなんじゃ売れないヨ」と言われ、現在の歌詞になったとか。タイトルの「恋の汽車ポッポ」は、ポール・アンカの作品で、日本では森山加代子やかまやつヒロシがカヴァーしていた「Train of Love」の邦題をそのまま頂戴している。

 全体の雰囲気を、キャロル・キングが作曲しリトル・エヴァが歌った「ロコ・モーション」のパロディーにしようと思いつき、細野晴臣、鈴木茂らとともにトレイン・ソングのアレンジに仕立てた。シングルのジャケットで、大滝詠一が蒸気機関車の上に乗っているが、これはリトル・エヴァのアルバム・ジャケットをパロったもの。といった具合に幾重にも仕掛けが施してある。これが大滝流ノヴェルティ・ソングの第一弾。

 ’72年6月25日発売のセカンド・シングル「空飛ぶくじら」は、曲調からしてノヴェルティな雰囲気があるが、このノスタルジックな響きのあるピアノや、のどかなクラリネットの音色は、初期のハリー・ニルソンのサウンドに通じている。さらにその源流を探るのならば、ザ・ビートルズの「ユア・マザー・シュッド・ノウ」にまで辿り付くだろう。ちなみに「空飛ぶくじら」は、はっぴいえんどのメンバーが参加していない初めての曲。


『大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition』
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 大滝詠一の初のソロ・アルバムとなった『大瀧詠一』(’72年11月25日発売)でノヴェルティ・ソングといえば、真っ先に思いつくのが、エルヴィス・プレスリーに壮大なオマージュを捧げた「いかすぜ!この恋」。歌詞は「本命はお前だ」や「マリーは恋人」など、エルヴィスの日本盤シングルのタイトルを並べたもの。これだけ一曲できてしまうところが凄い。歌い方も当然ながらエルヴィス風で、さらにご丁寧なことに、鈴木慶一(当時ははちみつぱいのメンバーで、のちにムーンライダーズを結成)とのバック・コーラス隊のネーミングが「冗談ぢゃねーやーず」。これは勿論、エルヴィスのバック・コーラスをしていたジョーダネーヤーズをもじったもの。この冗談ぢゃねーやーずが約50年ぶりに復活したのが、『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK』に収録された「ゆうがたフレンド (USEFUL SONG)」であったのだ。

 なおこの「いかすぜ!この恋」は、古臭い雰囲気を出すためにカセット・プレーヤーをピアノの中にいれ、それをマイクで録音したヴァージョンがある。こちらはアルバム『大瀧詠一 乗合馬車 (Omnibus) 50th Anniversary Edition』の中に「いかすぜ!この恋 (カセット・バージョン) 」として収録されている。カセットが止まる「パチン」という音まで入っているので、最後までじっくりと聞いていただきたい。

 シングルで発表した「恋の汽車ポッポ 」も、アルバム『大瀧詠一』の中では、「恋の汽車ポッポ第二部」として歌詞の一部が書き換えられ、シンガーズ・スリーによる60年代ガール・グループスの囃子言葉がふんだんに盛り込まれている。つまりはこれが、大瀧詠一のお囃子ポップスの第1号。

 ’75年5月30日にリリースされた『NIAGARA MOON』も、随所にノヴェルティ色が顔を出している。このアルバムは福生の自宅スタジオに16トラックのマルチ・レコーダーなど録音機材を持ち込んで制作された。当時の大滝はニューオーリンズのR&Bに凝っていた時期で、「楽しい夜更し」はアーニー・ケイドーの「マザー・イン・ロウ」を改作して出来た曲。ニューオーリンズR&Bとポップスの関係は非常に密接で、そのお茶目で人懐っこくてリズミカルなところが、そのまま当時のヒット曲となっていった。ヒューイ・ピアノ・スミス作の「シー・クルーズ」や「ロッキング・ニューモニア・アンド・ザ・ブギウギ・フルー」などは数多くのカヴァーが存在している。


大滝詠一
『NIAGARA MOON -40th Anniversary Edition-』

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 セカンド・ラインのリズムが弾けだす「ロックン・ロール・マーチ」は、まさにそのヒューイ・ピアノ・スミス風。この雰囲気はそのまま「ハンド・クラッピング・ルンバ」へと繋がっていくが、「カモメのジョナサン」から始まる言葉遊びの連続技はまさにノヴェルティ。それがエクソシストになり日本沈没になり、映画のタイトルで連なっていくところが最高に楽しい。

 「福生ストラット(パートII)」は、まるでザ・ミーターズのような粘り気のあるファンクネスが充満している。後にウルフルズがタイトルを変え、トータス松本が歌詞を書き加えたのが「大阪ストラット」なのだが、このウルフルズ版は、さらにノヴェルティ色が濃厚になっている。

 このニューオーリンズR&Bからノヴェルティの要素を抽出し、さらにそこに日本的な解釈を加えていくというのは、大滝詠一の発明品だったのではと思う。このアイデアは、’76年10月25日に発売された『GO! GO! NIAGARA』にも転用されていく。アルバム全体がラジオ番組を模していて、ジングルが入ったりディスク・ジョッキー風の声が入ったり、ヴァラエティー豊か。


大滝詠一
『GO!GO!NIAGARA 30th Anniversary Edition』

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 その中でもノヴェルティ趣味が満載になったのが「趣味趣味音楽」で、ヘンリー・フロッグマン・ヘンリーを思わせるようなニューオーリンズR&Bでスタートし、最後はリトル・リチャードの「ジェニ・ジェニ」のパロディーで終わるという構造。歌詞も、エルヴィス・プレスリーの歌のタイトルがいつのまにか富山の薬売りになるという破天荒さ。こんなことは大滝詠一にしか出来やしない。

 ザ・リップ・コーズの「ヘイ・リトル・コブラ」のコーラスで始まり、ツイスト関連の曲名がずらりと出てきて、キメの部分ではスリー・ファンキーズの「でさのよツイスト」が顔を出す。さまに大滝流ノヴェルティ・ソングの真骨頂といえるのが「Cobra Twist」だ。’77年7月にシングル「青空のように」のB面に収められた時には、シングル用モノ・ミックスでリリースされた。

 そしてこの大滝詠一の趣味趣味ノヴェルティ・ソングは、’77年発売のアルバム『NIAGARA CALENDAR』で、そして翌年の『LET'S ONDO AGAIN』で、さらに大きく花開いていくことになる。

【Part2】 『NIAGARA CALENDAR』〜『LET'S ONDO AGAIN』の時代に続く)



『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK / NIAGARA ONDO BOOK』
2023年3月21日発売
CD2枚組/SRCL-12450~12451 /3,960円(税込)
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『大滝詠一 NOVELTY SONG BOOK』
2023年4月26日発売
アナログレコード1枚組/SRJL-1150/4,290円(税込)
ご購入はこちら
https://smr.lnk.to/uRBreK

スペシャルサイトはこちら
https://www.sonymusic.co.jp/Music/Info/eiichiohtaki-nsb/


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https://www.sonymusic.co.jp/artist/EiichiOhtaki/info/550558

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