2023年3月号|特集 シティポップ・ストーリー

クニモンド瀧口(流線形) × 栗本斉(『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』著者)「シティポップ・コンピレーションの極意」・前編|シティポップ対談Part1

対談

2023.3.1

文/加藤賢
写真/島田香

クニモンド瀧口(左)と栗本斉(右)


「otonano」のエディターであり、『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』の著書でもある栗本斉が、シティポップについて語り合う対談シリーズ。第一弾は、同世代でもある流線形のクニモンド瀧口を迎え、コンピレーション・アルバムの魅力について語り合った。

『Who Is This Bitch, Anyway?』や『What's Going On』のように、アルバムを通してどういう流れを作ろうかなっていうのは考えている


栗本斉 今回は、お互いそれぞれが作ったコンピレーション・アルバム『シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ~ Urban & Ocean』と、『CITY MUSIC TOKYO parallelism』が3月22日に同時リリースされるということで来ていただきました。コンピレーション・アルバムって、昔から聴いていましたか?

クニモンド瀧口 僕は以前、某レコード屋でジャズバイヤーをやっていたんです。90年代はほとんどレコ屋で働いていたんですが、 振り返ると「90年代はコンピの時代」だったなぁと。今日も色々持ってきているんですけど……。まずジャイルス・ピーターソンが作った『Jazz Juice』(’85年~)だったり、『Free Soul - Essential Argo / Cadet Grooves Vol. 3』(’91年)とか。ネオアコだとチェリー・レッドの『Pillows & Prayers』(’82年)、アシットジャズでは『Totally Wired』(’89年~)や、Talkin' Loudの『Talkin’ Jazz』(’93年~)、Mojo Clubの『Dancefloor Jazz』(’92年~)などなど。

栗本斉 聴いていました。懐かしいです。

クニモンド瀧口 多分、僕らはこれらに影響を受けた世代だと思うんですよ。

栗本斉 確かにそうですね。『Mastercuts』(’91年~)シリーズとか、めちゃくちゃ聴いていました。

クニモンド瀧口 そうなんですよ。で、そうこうしているうちに日本でも橋本徹さんが『Free Soul』のコンピを’94年にリリースした。

V.A.
『Free Soul Impressions』

1994年4月21日発売

栗本斉 日本で作ったコンピレーションって、『Free Soul』が先駆けになるんですか?

クニモンド瀧口 正確には他にもコンピはあったんですが、ジャンルを超えたオールマイティーなお洒落な音楽を紹介した『Free Soul』の登場は衝撃的でした。和モノでいうとP-VINEの『幻の名盤解放同盟』(’92年~)が先駆けでしょうね。それから’96年に、二見裕志さんと除川哲朗さんが監修した『CARAMEL PAPA』が日本クラウンから出て。ここに今のシティポップ・ブームのヒットに繋がっている大貫妙子さんの「サマー・コネクション」のシングルヴァージョンが入っていたりするんです。

V.A.
『CARAMEL PAPA』

1996年6月26日発売

栗本斉 僕は大貫さんっていうと、ヨーロッパ路線の『ROMANTIQUE』(’80年)以降のイメージしかなかったんです。それか、シュガー・ベイブのどっちか。で、今になって名盤と言われている『SUNSHOWER』(‘77年)って、あまり聴く機会がなかったじゃないですか。当時ですらアナログはなかなか手に入らなかったし。だから僕も『CARAMEL PAPA』を聴いて「大貫妙子ってこんなだったんだ!」って驚いた。だから、このコンピは画期的だったなって思います。

クニモンド瀧口 それから、『'70s GROOVERS~あこがれのSUNDOWN』(’98年)っていう徳間ジャパンの和モノコンピとか、ちょっと括りが違うんですけど、元ビックリハウスのコイデヒロカズさんがやっていた『テクノ歌謡』(’99年~)シリーズもリリースされていましたね。90年代において、コンピレーションは音楽の知識を広げるのに持ってこいのツールでした。もともと音楽好きではあったんですけど、こういう形で次から次へと知らない曲に出合えました。あと、「人が監修している」じゃないですか。例えば、『Jazz Juice』で言うとジャイルス・ピーターソンや、『Free Soul』の橋本徹さんもそうですが、「ある人が監修している」っていうのがいいなと思っていて。

栗本斉 それまでのコンピっていうと、ただ単にヒット曲の寄せ集めみたいな。レコード会社のディレクターが適当に選んでいる……。適当じゃないのかもしれないけれど(笑)。

クニモンド瀧口 まさに。こういうDJとか選曲家みたいな人が監修しているコンピが出たのって、やっぱり90年代だったんです。今回、僕はコンピを作る機会をもらったんですが、90年代のコンピにはすごく影響を受けています。それで、90年代後半には「シティポップス」みたいなコンピも色々出たんですが、解釈が今のシティポップとは違っていて、はっぴいえんどとか、ちょっとフォーキーなものを起点にしているコンピレーションが多かったように思います。そこに堂島孝平さんや、キンモクセイが入ってくるみたいな時代だったと思うんですよ。その頃、僕はどちらかというと、『SOFT ROCK DRIVIN'』や『喫茶ロック』に興味がありました。

栗本斉 はい(笑)。僕も選曲に関わっていた 『喫茶ロック』シリーズは’01年からです。

クニモンド瀧口 『SOFT ROCK DRIVIN'』は’96年なのでかなり早い。これも選曲をした濱田高志さんの土龍団が監修しているので、すごくいいなと思ったんですよね。

V.A.
『SOFT ROCK DRIVIN' ~ 栄光の朝』

1996年9月4日発売


V.A.
『喫茶ロック ~地球はメリー・ゴーランド~ ソニー・ミュージック編』

2001年9月19日発売

栗本斉 僕もこの『SOFT ROCK DRIVIN'』には、めちゃくちゃ影響を受けました。90年代頭から自分でも和モノのレコードを買い始めるようになって、ある程度和モノのソフトロックやボサノヴァを集めていたんですけれど、「まだこんなにあるんだ!」っていう驚愕のコンピだったので。

クニモンド瀧口 だって、これ出るまで僕、MAOって知らなかったです。GAROとかNOVOとかメジャーな人たちは知っていたんだけれど。そして2000年代に入ると『喫茶ロック』や、金澤寿和さんの『Light Mellow』(’01年~)和モノ・シリーズが出て。

栗本斉 じゃあ、シティポップという軸でいうと、『CARAMEL PAPA』や、『'70s GROOVERS~あこがれのSUNDOWN』があって、その周辺に『SOFT ROCK DRIVIN'』や『喫茶ロック』のようなものもあり。でも、やっぱり金澤さんの『Light Mellow』は本丸というか。

V.A.
『Light Mellow ~ City Breeze from East ~ SME Edition』

2001年6月20日発売

クニモンド瀧口 『Light Mellow』は、今のシティポップのリバイバルに相当繋がっている気がします。その後、DJ MUROさんの『Diggin'』 シリーズとか、吉沢dynamite.jpさんとCHINTAMさんの『和モノA to Z』とか、DJ NOTOYAさんなど、よりDJ視点のコンピも編纂されるようになりました。

栗本斉 そうですね。『Light Mellow』の本は僕も一緒に作ったんですけど、それまでの「シティポップス」的な視点ではなくて、もっと楽曲そのものにスポットを当てようという考えだったんです。おすすめのレコメンド曲しか書いてないという、あえてそういう作りにした。そこから派生したコンピなので、DJ目線で聴きたい曲が自然とメインになっている、っていうのはあるかもしれないですよね。金澤さんのいいところっていうのは、完全なDJ視点でもないし、でも、そういう視点も持たれていて、なおかつ歴史的な背景も伝えながら、今っぽいものを作っていた。そのあたりが周辺のシーンにも影響を与えた気がします。

クニモンド瀧口 それはありますよね。

栗本斉 今回、瀧口さんが『CITY MUSIC TOKYO parallelism』を作る時に、これら先達の方々のコンピレーションを意識したことはありますか。



クニモンド瀧口 それはありますね。うまくいけば先輩方のコンピのようにシリーズ化したいと思っていて、サブタイトルを最初からつけたんですよ。最初にソニーから出したのが『CITY MUSIC TOKYO invitation』なんですけれど、「invitation(招待状)」ってつけたのは、その思いがあったから。僕はもともとApple Musicとかで、「CITY MUSIC TOKYO」っていうプレイリストを作っていたんですね。90年代のCDになっちゃった時代の音楽って、なかなかDJもプレイしないんです。TSUTAYAで100円で見つけたCDがすごくシティポップでいい曲なのに、みたいな。例えば、宮沢りえさんの「心から好き」(’92年)なんていうのは、当時ドラマを観ていて「いい曲だな」と思っていたんですけれど、アナログにもなっていない。あと、奥居香さんもプリンセスプリンセスの印象が強いんですが、実は奥居さんが出したファーストアルバム『Renaissance』(’94年)はAORだというのも、当時買っていたから知っていたっていうのがあったんですよね。僕は流線形が好きな人にいろんな音楽を伝えたいなと思っていたので、この「CITY MUSIC TOKYO」というプレイリストにこういう曲を入れて、年に2、3回ぐらい更新していたのがきっかけでした。


V.A.
『CITY MUSIC TOKYO invitation』

2020年11月4日発売


栗本斉 じゃあ、そのプレイリストがこの『CITY MUSIC TOKYO』コンピレーションの元になっているんですね。

クニモンド瀧口 そうですね。その頃、流線形のファースト・アルバム『シティミュージック』(’03年)がプレミア価格になっていて、レコードが2、3万ぐらいになっちゃっていたんですよ。それは嫌だね、っていう話をレーベルとしていて、じゃあマスタリングして出し直そうという時に、「じゃあ流線形の7インチと一緒にコンピレーションも出しましょう」という打診をソニーさんから頂いて。

栗本斉 なるほど。コンピレーションを作る際に、コンセプトというか、「これだけはやろう」という軸みたいなものはあったんですか?

クニモンド瀧口 やっぱり洗練されている楽曲ですね。たとえばクロスオーヴァーのサウンド。何かしらジャズとか、ソウルの要素が入っているような。シティポップの定義じゃないですけど、日本のAOR的なもの、っていうのが軸にあります。東京の人たちじゃなくても良いんですが、都会的な匂いがする音楽を選んでいますね。たとえばビクターの『CITY MUSIC TOKYO signal』だと、金子由香利さんが入っているんです。これはシティポップなのかっていうと、シティポップじゃないんだけれども、オケのトラックがすごくソウルフル。この後に奥慶一さんのインスト曲が入っているんですが、ソリーナやエレピの音がキラキラしていて、夜の高速道路とか車で走ったら、「めちゃくちゃ気持ちいいじゃん!」みたいな。そういうサウンドを僕の視点で入れている感じですね。


V.A.
『CITY MUSIC TOKYO signal』

2023年1月25日発売


栗本斉 シティポップっていうのは、明確なジャンルではないし、言葉自体が曖昧じゃないですか。でも瀧口さんにとって「シティ感がある」という意味でシティミュージックっていうことですよね。それから、僕はこのアートワークがとても印象的で、「あ、ちゃんと考えて作られているな」って、すごく感じました。

クニモンド瀧口 これはフォトグラファーの高木康行さんの作品なんです。高木さんは元々モデルやスタイリストをしていた方で、シティボーイなんですよね。ビルや建物の写真が印象的で前から気になっていたんです。ビルの窓ってグリッド感がすごく強いですよね。僕は建築のように、規則的なものとか、数学的な要素が実は好きなんです。それって実は都会的だなと思っているんですよ。なので、自分が選曲している曲と高木さんの写真は、割とマッチしたものになったかなと思っています。『CITY MUSIC TOKYO invitation』のアートワークもグリッド感のある窓の風景なんですけど、ちょっとモノレールが映っていて動きもある。サブタイトルも温かみがないというか……。ソニーさんの『parallelism』は平行体とかそういう意味ですし、ビクターさんの『signal』は信号、インセンスさんの『tremolo』もただの波、みたいな。それらをサブタイトルにしているので、「ほっこりだね」っていう方向には振ってない感じですね。それは通していきたいなって思いました。

栗本斉 テクノポップっぽい曲も選ばれていたりするじゃないですか。特に、今回の『CITY MUSIC TOKYO parallelism』はミニマルな曲を並べていますよね。そのあたりの感覚とも通じているのかなっていう。

クニモンド瀧口 そうですね、僕からすると、「シティミュージック」って解釈です。 80年代とか90年代のニューウェイヴやテクノが好きだったし、すごく都会的な音だと思うんですよね。ピチカート・ファイヴの小西康陽さんが作った戸川京子さんの「動物園の鰐」 なども、ジャンルで言うとニューウェイヴやテクノみたいな感じですけれど、「テクノだから、シティポップじゃない」って話ではなくて、時代とマッチしていた都会の音楽だと思っているから「シティミュージック」に加えているっていう感じです。


V.A.
『CITY MUSIC TOKYO parallelism』

2023年3月22日発売


栗本斉 最近はシティポップの括りにテクノポップが入れられることも多いし、シンセがガンガン鳴っている歌謡曲とかアイドル歌謡なども、シティポップの範疇に入れられるようになっています。でも、今回僕が作った『シティポップ・ストーリー』のように、いわゆる王道っていうことでいうと、テクノポップみたいな音は絶対外れますよね。

クニモンド瀧口 そうですよね、シティポップって言いづらい。

栗本斉 でも、それをしっかりこの並びで入れているっていうのは、めちゃくちゃ面白いなっていう。

クニモンド瀧口 そこは選曲する人のわがままというか、その人のカラーだっていうところなので、何を選んでもいい。だけど、やっぱり都会的とか洗練されているっていうことが軸にあるんで、そこはブレさせないつもりでいます。



栗本斉 瀧口さんは、選曲家でありながら、ミュージシャンでもありますよね。ミュージシャンの立場として、ミュージシャンだからこそ、こんな選曲ができた面もあるんですか。

クニモンド瀧口 それはありますね。『CITY MUSIC TOKYO parallelism』は、後半のMELONあたりからニューウェイヴ系のサウンドになってくるんですけれど、やっぱり流れは考えています。グルーヴだったり、コード進行だったり、キーだったりを揃えたいなっていうのはありますね。たとえばビクターの『CITY MUSIC TOKYO signal』には、西岡恭蔵さんの「Yoh-Sollo」 が入っているんですけれど、「Yoh-Sollo」のリフとその後に続く冨田ラボの「いつもどこでも feat. 児玉奈央」のリフが実は似ているとか、「これ一緒じゃん!」っていう、気付く人は気付くポイントを入れています。それは、どちらかと言えばミュージシャン的な考え方なのかもしれないですね。

栗本斉 コード進行やリズムはまだわかるかもしれないですが、そのあたりを繋げてくるっていうのは、やっぱりミュージシャンならではというか。

クニモンド瀧口 たとえば、マリーナ・ショウの『Who Is This Bitch, Anyway?』とか、マーヴィン・ゲイの『What's Going On』って、もう組曲のように1曲目から最後の曲までの流れがあるじゃないですか。やっぱりアルバムを通して流れがあるのってすごくいいなと思っていて。 76分っていう中で、どういう流れを作ろうかなっていうのは考えていますね。



栗本斉 選曲する際には、やっぱり流れは考えますよね。

クニモンド瀧口 今回の『CITY MUSIC TOKYO parallelism』をマスタリングしていた時に、わりと地味かなと思ったんですよ。最初が中谷美紀さんの「MIND CIRCUS」で始まって、GWINKOさんの「雨よ優しく」なんかはゆったりめだったりする。でも生活って、疾走感あるシーンだけじゃないなと思うんです。たとえば「レストランでご飯を食べる」っていうシーンで、疾走感のある曲ばっかりかかっていても、つまらないと思うんですよ。たまに行くおいしいワインが飲めるお店が奥渋にあるんですね。そこに行った時に、たまたま『CITY MUSIC TOKYO invitation』がかかっていたんですけれど、悪くなかったんです。昔だったら、レストランとか、お洒落なところに和モノって絶対かけなかったじゃないですか。それが「こういうシーンにも合うんだな」と思って。そう考えた時に、アップテンポの曲ばかりじゃなくてよかったなと思ったんですよ。聴くシーンは色々あるので、ゆったりした曲もあったり、たまにスピード感のある曲が入っていたり。両方入っていた方がコンピレーションとしてはいいんだなって気付きました。


【後編】へ続く)



クニモンド瀧口(くにもんど・たきぐち)
●2003年に流線形として音楽活動を開始。プロデュース、楽曲提供、アレンジなどを行う。堀込泰行をヴォーカルにフィーチャーした流線形の最新作『インコンプリート』(2022年)が3月22日にアナログ盤でリリース。また、監修・選曲のコンピレーション・アルバムも多数手掛けており、最新作『CITY MUSIC TOKYO parallelism』が3月22日に発売。

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『CITY MUSIC TOKYO parallelism』
2023年3月22日発売




栗本斉(くりもと・ひとし)
●旅と音楽の文筆家、選曲家。ウェブマガジン「otonano」エディター。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著『Light Mellow 和モノ669 Special』(ラトルズ)ほか。2022年2月発売の最新刊『「シティポップの基本」がこの100枚でわかる!』(星海社新書)が重版を重ねヒット中。企画選曲解説を手掛けたコンピレーションCD『シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ~ Urban & Ocean』が3月22日に発売。

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『シティポップ・ストーリー CITY POP STORY ~ Urban & Ocean』
2023年3月22日発売