2023年2月号|特集 佐野元春 SWEET16

【Part1】佐野元春が語る『SWEET16』|最新インタビュー[前編]

インタビュー

2023.2.24

インタビュー・文/otonano編集部


『SWEET16』は10代だった自分と、亡くなった父親に捧げたアルバム


―― 『SWEET16』は’92年に発表された作品です。30年を経て、佐野さんにとってこのアルバムは今どのような位置付けなのでしょうか。

佐野 90年代の最初に出したアルバム、そしてキャリアの転換期にあったアルバム。家族のことがあってしばらくブランクがあってその後、心機一転してレコーディングしました。「スウィート16」は10代だった自分と、亡くなった父親に捧げたアルバムです。

―― 結果的に『SWEET16』は新しい若いファンを獲得し大ヒットしました。

佐野 ラッキーだった。ファンがみんな待っていてくれた。このアルバムは30代の自分が10代の自分を見て作った。ザ・ハートランドの演奏も冴えている。サウンドは明るくてポップ。そこが良かったんだと思う。

―― 『SWEET16』をアルバム・タイトルに決められた時のことは覚えていますか。

佐野 はい。実を言うと「SWEET16」というのは初期のAPPLE社が開発したコンピューターに関係しています。Apple II シリーズだったかな。そのコンピューターにROMの一部として実装された、いわゆるコマンド・セットのコードネーム。それとチャック・ベリーのロックンロールが僕の中で融合して、すごくいい気分になったのを覚えている。

―― アルバム全体に喪失と新しい出発の両方を肯定するような印象があります。

佐野 ソングライターとして少し成長したんだと思う。物事の表や裏、太陽と月、光や影を言葉に込めて、広い視点で曲が書けるようになった。いいことだと思う。

―― 雷鳴の「ミスター・アウトサイド」で始まり、「また明日...」で優しく終わっていくという構成は当初からの案ですか。

佐野 アルバムの構成は後で考えました。聴いてくれる人がストーリーを感じてくれて、でもあまり説明的になりすぎないようにするには工夫が必要だ。ただひとつだけ初めから決めていたことがある。冒頭の雷の音は、ひとつ前のアルバム『TIME OUT!』に収録した最後の曲「空よりも高く」から続いている。あの曲の主人公は雷が轟く嵐の中、ひたすら「家」に向かって車を走らせた。家で休息を取ってエナジー・フルで復活したのがミスターアウトサイドだよ。『TIME OUT!』の最後と『SWEET16』の始まりはそうやって繋がっているんだ。

―― 「佐野元春」はご自身でどんなソングライターだと思っていますか。

佐野 私小説的な叙情や自己憐憫が嫌いなソングライター。ロマンティックなセンスに敏感で、人を傷つけないユーモアが好き。そんな曲を描きたい。同類のソングライターはあまり多くない。

【Part2】[後編]へ続く)



佐野元春
『SWEET16 30th Anniversary Edition』

2023年3月29日発売
MHCL-2984/¥22,000(税込)
●完全生産限定盤 ●CD6枚 ●Blu-ray1枚
●SWEET16 Booklet(140頁)●SWEET16大型ポスター