2023年2月号|特集 佐野元春 SWEET16

【Part3】|佐野元春ドキュメンタリー 2022-2023

会員限定

解説

2023.2.16

文/大谷隆之


『今、何処(Where Are You Now)』への期待が高まるリアルなコミュニケーション


「この閉じた空気感を解きはなつようにロックしたい」

 2022年4月9日。アルバム『ENTERTAINMENT!』がリリースされた次の日。埼玉・三郷市文化会館を皮切りに、佐野元春 & THE COYOTE BANDによる待望の全国ホールツアー「WHERE ARE YOU NOW」がスタートした。直近の2年間はコロナ禍の影響もあり、ライヴは関東・東海・関西エリアに限られていたが、今回の公演先は北海道・東北・中国・九州エリアも含む12都市。地方在住のオーディエンスにとっては’19年秋の「禅ビート2018」ツアー以来、実に3年半ぶりの再会となる。

 冒頭で紹介したのは、最終リハーサルを終えた佐野本人のコメントだ。シンプルな言葉から、日本中のファンの前で演奏できる喜びとパッションが伝わってくるだろう。パンデミックをかいくぐるように新作レコーディングを重ねてきて、メンバー同士のコンディションも申し分ない。文字通り「解きはなたれた」バンドの自在なパフォーマンスと待ちわびたファンの熱気が交差し、どの会場でも圧巻のステージが繰り広げられた。

 アルバム『ENTERTAINMENT!』配信翌日からスタートし、終了直後に連続リリース第2弾『今、何処(Where Are You Now)』の発表が決まっていた今回のツアーだが、新曲をお披露目したい気持ちを抑えて、まずは目の前にいる「君」とのリアルなコミュニケーションを祝福したい。そんな気持ちがライヴ構成にも顕れていたと思う。

 振り返ってみて改めて感じるのは、佐野がこのツアーに込めた重層性だ。久しぶりのパーティーを盛り上げるプレゼント。これ以上なく高まったバンドのポテンシャルを伝える近況報告。未曾有の時代に対する佐野なりの現状認識。そして、これからも力強くロックを鳴らし続ける意思表示。さまざまな要素が折り重なり、いわばセットリスト自体が1つのメッセージになっている。試みに、ツアー最終日のTOKYO DOME CITY HALL公演の曲目を挙げてみよう(会場によって若干の変更あり)。