2023年2月号|特集 佐野元春 SWEET16

「ミスター・アウトサイド」|CD❶❷全曲解説|全曲解説|『SWEET16 30th Anniversary Edition』徹底検証

レビュー

2023.2.1

文/小川真一


「ミスター・アウトサイド」





それはまるで長い旅を共にしているような充実した時間

 雷の音のSEに続いて、華やかなパーカッションが登場してくる。この瞬間の開放感がたまらない。まるでもぎたての果実を手渡されたような、心が踊りだす瞬間だ。ライヴでも、このシーンが大好きな方が多いだろう。このアルバム『SWEET16』は当時1年半という長い時間をかけて制作された。そんなスタジオでの密閉感をまるで感じさせない快活なオープニング・ナンバーだ。

 まるで野生の楽園に踏み込んでいくようなサウンドのイントロで、さまざまな音が複雑に交錯していく。今回CD1 Remastered Album『SWEET16』を聞き直して、こんなにも音が入っていたのかと驚いてしまった。これもリ・マスタリングの効用なのだ。音のクリアさ、その迫力にびっくりしてしまうことだろう。

 歌詞は色々なものからの解放と自由を歌っている。ミスター・アウトサイドに連れられ、外の世界へと羽ばたいていこう。そこはヒナギクが揺れ、コマドリが歌っている。がしかし、佐野元春の言葉はすべてを楽天的に肯定しているわけではない。「償いの季節さ」というビターなフレーズで、ぼくらに疑問符を投げかけてくる。この螺旋構造そのものが、佐野の世界観であるのだ。

 今回のボックス・セットのCD2 Bonus Audio:Outtakes&Alternatesには、未発表テイクの「ミスター・アウトサイド」が収められている。アコースティック・ギターのストロークで始まり、その背後には獣の鳴き声を思われる音が挿入されている。これだけで曲の印象が大きく変わっていく。微かな不安と混濁、その長いトンネルのようなイントロダクションの後に、解き放されたように歌が始まる。8分弱の長尺ヴァージョンで、それはまるで長い旅を共にしているような充実した時間だ。



佐野元春
『SWEET16 30th Anniversary Edition』

2023年3月29日発売
MHCL-2984/¥22,000(税込)
●完全生産限定盤 ●CD6枚 ●Blu-ray1枚
●SWEET16 Booklet(140頁)●SWEET16大型ポスター