2023年1月号|特集 Japanese R&B
①小坂忠『HORO』|Roots of Japanese R&B名作レビュー '70s-'80s
レビュー
2023.1.5
小坂忠
『HORO』
1975年1月25日発売
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1. ほうろう
2. 機関車
3. ボン・ボヤージ波止場
4. 氷雨月のスケッチ
5. ゆうがたラブ
6. しらけちまうぜ
7. 流星都市
8. つるべ糸
9. ふうらい坊
シティポップの時代の露払いとなった都会的洗練ソウル
小坂忠がそれまでのフォーキー路線からR&B路線への本格的転換を図った歴史的名盤。エイプリル・フール時代からの盟友・細野晴臣にサウンド・プロデュースを依頼し(一部矢野誠が共同プロデューサーとして参加)、バッキングも、細野、鈴木茂、松任谷正隆、林立夫からなる当代一のセッション・チーム、ティン・パン・アレーが担った(加えて、吉田美奈子、山下達郎、大貫妙子がコーラス参加)。旧来の日本のR&Bシーンは、どちらかといえばショー・ビジネス界的あるいは芸能界的な色彩の濃いもので、洗練された都市生活者の機微を反映したポップス色の強いものは稀だった。このアルバムは、まさにその“都会的洗練”を、同時代のソウル・ミュージックを十二分に吸収消化して実現した、まことにエポック・メイキングな作品だ。
オークランド・ファンクの香りが匂い立つオープナーの「ほうろう」は、その歌詞からして新時代の和製R&Bを打ち立てるマニフェスト的な内容。サザン・バラード風に改変された旧レパートリーの「機関車」や、はっぴいえんどのカヴァー「氷雨月のスケッチ」の重厚さは、今の感覚からすると“洗練”とはやや距離があるように感じられるかもしれないが、その語法の確かさと苦み走ったヴォーカルが醸す没入感こそ、本作が時の経過に耐えて名盤と評され続ける理由の一端を担っているはず。片や、フィリー・ソウル・タッチの「しらけちまうぜ」、ニュー・ソウル調の「流星都市」は、そのポップさも含めて、その後の“シティポップの時代”の露払いになっている。隅の隅まで完璧。
文/柴崎祐二