2022年12月号|特集 平成J-POP
【Part1】CDバブル|Hello,Again~平成カルチャー再検証~
コラム
2022.12.1
文/安川達也(otonano編集部)
平成元年、本格的なCD時代到来!
昭和60年代半ばから右肩あがりだった好況バブル経済は平成になると破綻した。株価は下落の一途を辿り、土地神話はあっと言う間に崩れ去った。いわゆる“バブルがはじける”音を聞いた人は誰もいないと思うが、不景気は徐々に生活に浸透していった。景気が悪化すると世の中が安価な趣味やレジャーに傾向するのは時代の常だが、じつはエンタメの世界、とりわけ音楽パッケージ販売はこの時代に恩恵を預かったと言える。
昭和57年に登場したCDは、約10年でアナログレコードから再生メディアとしての主役の座を奪った。シングル盤に関しては様変わりが顕著だった。45回転ドーナツ盤はあっという間に遺物となり、8cmCDシングルがお店にズラリと並んだ。便利なCD再生機の普及率向上と相まって、手頃なソフトとして受け入れられた。縦長のパッケージは“短冊CD”とも呼ばれ、線の通り折り込むと約8cm四方の正方形になり、初期には“胸ポケットにも入る”というコピーも踊った。名刺でもないのに胸ポケに入れる意味がないことは、ほとんどの音楽ユーザーが気付いてはいたが……。
プリプリ「Diamonds」を初めて聴いた夜
昭和後半はバンドブーム。女の子も楽器を手にした。お手本としたのはプリプリだ。ギターの中山加奈子が筆者の隣高校出身(当時の横浜臨海学区)ということもあってか、高3の文化祭(’88年/昭和63年)では「19 GROWING UP」が3日連続大合唱となるアンセムになっていた。高校卒業後の春休み。親友HがTVK『ライヴTOMATO』のプリプリ公開収録に当選し僕を誘ってくれた。横浜そごうにある新都市ホールに行くと客席隣には、2学期終業日クリスマスイヴに本気で告白して、ねるとん紅鯨団ばりに「ごめんなさい!」されたE子ちゃんが友人と座っているではないか。4名招待だったのか……Hめ、ハメたな。再チャンスをくれたの?
女性だけのバンドとして初の日本武道館公演を成功させた直後のプリプリは勢いに乗っていた。ヴォーカルの奥居香のMCも弾む。「今日、初めて、この曲をみんなの前で歌います! 聞いてください!!」。飛び切りポップな曲だ。♪ダイアモンドだね Ah Ah いくつかの場面~。その場にいたファンの誰もがプリプリが本格的にトップを狙いにきたことを確信したはずだ。初披露から1か月後の4月21日、シングル「Diamonds」が発売され、夏には国内CDシングル史上初のミリオンセラーとなり、平成元年の年間チャートを制した。
プリンセス プリンセス
「Diamonds」 c/w「M」
1989年(平成元年)4月21日発売
バブル崩壊がミリオンヒットを生んだ!?
名曲「M」をカップリングに擁したプリプリ「Diamonds」がCDシングル初の100万枚セールスを突破したのを機に、平成の幕開けと同時に本格的なCD時代に突入。とりわけ平成前半はドラマ主題歌を中心にミリオンヒット続出、ダブルミリオンも珍しくない“ドラマ主題歌バブル”期に突入した。しかし、ドラマのタイアップはべつに平成から始まったわけではない。昭和50~60年代ドラマの主題歌もヒットチャートのフロントを飾っていた。『男女7人夏物語』の主題歌「CHA-CHA-CHA」(石井明美)は昭和61年の年間No.1シングルだが、それでもセールスは約60万枚だった。
昭和後期に、ヒットチャートに貢献した10代のヘヴィユーザーは700円を払ってアナログドーナツ盤を買っていた。この層が平成になり自由にお金を使える社会人になった時、目の前には便利なCDシングルがあった。こんなにコンパクトなのに、もう針を落とす必要がないのに800~1000円……たいしてあの頃と値段が変わらないじゃないか。バブル崩壊後の新サラリーマン・OLにとって会社の帰り道にプリプリ、ドリカム、米米を買うことはささやかな贅沢だったのだ。新旧のヘヴィユーザー層がこぞってCDショップに行けば必然的にミリオン必至。さらに音楽ファンではなくドラマ主題歌として消費する浮遊層が加わればダブルミリオンは生まれる。そして、表題曲カップリングはほぼインストゥルメンタルだった。カラオケ・ヴァージョンだ。
平成に入り人気が爆発したカラオケボックスもまた一大ムーブメントだった。4人で行けばひとり1000円ぐらいで楽しめるカラオケは、バブル崩壊後、やはり安価に手頃に娯楽提供してくれる異空間だった。「CMで流れていたあの曲を歌いたい!」「昨夜観たドラマの主題歌をみんなで歌いたい!!」。だからCDシングルを買う。CM、ドラマ主題歌、カラオケの蜜月はしばらく続くことになる……。とりわけドラマ主題歌は“トレンディドラマ”という必殺ワードとともにこの時代を席捲していくことになるが、その話はまたの機会に。
「世界でいちばん熱い夏」を過ごす?
さて、「Diamonds」を初めて聞いた夜。友人Hが良い雰囲気を作ってくれて、カラオケも誘ってくれたけど、僕は乗り気ではなく、背中を押されても再告白はしなかった。本気(マジ)だっただけに2回目の情熱はもうない。プライドはある。本当はなりたかったけれど、E子ちゃんの「M」にはなれなかった。「世界でいちばん熱い夏」が連続大ヒットしている頃には僕は彼女が出来て、西武スタジアムも一緒に行ったけれど、どこかで高校時代の♪いくつかの場面 を想い出す。手にできなかった想い出はダイアモンドのように今も輝く。解けない魔法。男はダメだね。
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【Part2】トレンディドラマ|平成カルチャー再検証!Hello,Again~ヘイセイからある場所~
コラム
2022.12.7