2022年11月号|特集 アレンジャーの仕事

第1回 冨田恵一|曲を編み続ける~otonano注目5人の編曲家

コラム

2022.11.1


MISIA
「Everything」

2000年10月25日発売

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常にアップデートし続けるポップス界のマエストロ

 編曲家やプロデューサーとしての顔のほかに、冨田ラボとして現在までに6枚のアルバムをリリースしている冨田恵一。独協大学在学中からギタリストとして活動しており、1988年にはKEDGEで、’96年にはMOVESでアルバムをリリース。そのMOVESと同じ事務所に所属していたキリンジ(現:KIRINJI)のプロデュースを、彼らがメジャー・デビュー前の’97年から手掛けた。複雑なコード進行を持ったオリジナルに、ジャズやAORのエッセンスを散りばめてポップスに具現化。スティーリー・ダンの影響を感じさせる洗練されたセンスで、「エイリアンズ」(’00年)や「グッデイ・グッバイ」(’00年)など名曲を生み出した。
 同年の’00年に手がけたMISIA「Everything」では、ブラック・ミュージックのタイトなリズムとスケール感の大きいストリングスを融合。オーケストラとリズム・セクションが共存する美しさは、クラウス・オガーマンを敬愛する冨田恵一ならではのサウンドだ。結果、オリコン・シングル・チャート第1位獲得の大ヒットを記録して、その後のJ-POPにおけるバラードのアレンジの指標のひとつとなった。
 その後も、中島美嘉、松任谷由実、平井堅、椎名林檎、ももいろクローバーZなど、数々のアーティストのプロデュースやアレンジを担当。生演奏のグルーヴに重きを置いたサウンドが多かったが、近年では打ち込みやラップも使用。kiki vivi lilyやNazのプロデュース、ぷにぷに電機や磯野くん(YONA YONA WEEKENDERS)とのコラボレーションなど、サウンドは常にアップデートされており、マニアをもうならすポップス界のマエストロと称されている。

文/ガモウユウイチ