2022年11月号|特集 アレンジャーの仕事

第1回 萩田光雄|代表作で辿る日本の編曲家名鑑

レビュー

2022.11.1


山口百恵
『メビウス・ゲーム』

1980年5月21日発売

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引退を表明した山口百恵の多彩なカラーを反映した編曲アプローチ

 萩田光雄編曲による山口百恵通算20枚目のオリジナル・アルバム。’80年3月の引退宣言から間もない時期にリリースされた作品ながら、攻めの姿勢は変わらないどころか、それまででも特に多彩なカラーを反映した名盤。
 まず耳を惹くのはアルバム・オープナーの「ロックンロール・ウィドウ」(作曲:宇崎竜童、作詞:阿木燿子)。シングル・ヴァージョンよりもさらにアグレッシヴさを増したアレンジが、百恵の不敵さ/クールさとベスト・マッチ。初期ドゥービー・ブラザーズ調から同時期のパブ・ロックやニュー・ウェイヴすら射程に捉えたようなソリッドぶり。大滝詠一作曲のオールディーズ歌謡「哀愁のコニー・アイランド」は、MORの更なるド真ん中を行くような堂々たる編曲技。ムード音楽の伝統を引き継ぐような奥ゆかしくも壮麗なストリングスが眩しい。萩田自身が作曲も務めたソウル・バラード「ペーパー・ドール」は、1970年代半ばの黄金期フィラデルフィア・ソウル・サウンドをAOR風にアップデートしたような、切なくもゴージャスな世界。準備して臨んだ編曲がボツになり、急遽ヘッド・アレンジをしたという逸話が残る「アポカリプス・ラブ」は、ちょっとトーキング・ヘッズ風でもあり、萩田のアンテナの鋭敏さを感じさせる。その名の通りYMO風の「テクノ・パラダイス」も、「流行のテクノをやってみました」ってな様子を越えてかなりマジ。シティ・ポップ的に美味しいのが、トミー・スナイダー作曲の「ワン・ステップ・ビヨンド」。スローから急激にサンバ・ホッキ風へと移行するダイナミズムよ!

文/柴崎祐二