2022年11月号|特集 アレンジャーの仕事

【Part1】クニモンド瀧口(流線形/CMT Production)|私が好きな名アレンジの名曲

コラム

2022.11.1


郷愁漂うオーケストレーションで魅了する、宮川泰の世界


 僕が幼少の頃、家賃3万円の借家に住みながら、なぜか車やオーディオにはお金をかけていた父親。車はフェアレディZ432とベレット1600GTRの2台を所有、オーディオは木製の重厚な4chステレオや、オープンリール、8トラックなどなど、ひと通り揃えていた。レコードはイージーリスニング、ムード歌謡、映画音楽、流行歌といった昭和40年代ならではのセレクト。小学生になる頃には、勝手にステレオ(ターンテーブル、アンプ、チューナーなどをまとめた当時の総称)を触っても怒られなかったので、家にあるレコードは全部聴きまくった。

 その中に、昭和48年12月に発売された、小坂明子の「あなた」の7inchシングルがあった。ハリのある透き通る歌声や、高揚するメロディーライン、歌詞の世界観、ドラマチックに展開されるアレンジに、子供ながらに鳥肌が立ち、何度も聴いた覚えがある。

 また、当時、テレビっ子だった僕は、アニメやドラマ、映画(TVロードショー)をよく観ていた。幼稚園に通っている頃、好きだったアニメは『ワンサくん』。お母さんを探して旅をする犬のワンサくんと仲間の野良犬たちの話で、なんとミュージカル仕立てになっていて、デキシージャズや、哀愁感たっぷりなボッサ歌謡などもあり、ストーリーと音楽が記憶に残っている。

 そしてもう一つ、『宇宙戦艦ヤマト』にもどっぷりハマっていた。僕がいまだにSFや宇宙に興味があるのは、間違いなくヤマトの影響だと思う。小学生になり、劇場版の『宇宙戦艦ヤマト』を観に行って、記憶にとどめておきたい想いで買ったレコードが『交響組曲 宇宙戦艦ヤマト』のサウンドトラックだった。おそらく、自分のお小遣いで買ったのはこれが最初だったと思う。実はOP主題歌はそんなに好きではなく、どちらかと言うとボッサや、郷愁感のあるストリングスアレンジが好みだった。

 いま思い出すと、無意識のうちに自分の好きなアレンジが形成されはじめていたのだと思う。この頃からライナーノーツを読むことを覚え、クレジットをチェックするようになった。タイトルバックでなんとなく見ていた「音楽 宮川泰」の文字をしっかりと認識することになり、作詞・作曲・編曲の意味を理解して、レコードを聴く時は確認するようになった。ほどなくして、「あなた」や「ワンサくん」の編曲が宮川泰だったことを知り、自分の好きな編曲をする人だと、なんとなく認識していたのだが、同時に、FMで放送していた「コーセー化粧品 歌謡ベスト10」のパーソナリティが宮川さんだったこともあり、しっかりと名前を覚えてしまったのだ。

 ホーン・ユキや堀江美都子が歌う「ワンサくんのママ」や、川島和子がスキャットする「明日への希望」のアレンジは、いま聴いても胸が締め付けられる。自分が作るアレンジの中で、少しだけ「せつなさ」のエッセンスを入れてしまうのは、間違いなく宮川さんの影響だと思う。



クニモンド瀧口(くにもんど・たきぐち)

●2003年に流線形として音楽活動をスタート。’03年『シティミュージック』、’06年『Tokyo Sniper』、’09年『ナチュラル・ウーマン(w/比屋定篤子)』、’20年『Talio(w/一十三十一)』、’22年8月、堀込泰行(exキリンジ)をフューチャーした『インコンプリート』をリリース。
プロデュース、楽曲提供、アレンジの代表作として、一十三十一『City Dive』、ナツ・サマー『Hayama Nights』、古内東子「Enough is Enough」などがある。’20年から、シティミュージックを選曲・監修したコンピレーションアルバム『City Music Tokyo』シリーズをスタート。同年、NHKドラマ「タリオ -復讐代行の2人-」の劇伴を担当。
シティポップ再発見の源流を2000年代前半から築き上げ、以降 20 年に渡りオリジナルのシティポップ脈をぶれることなく累々とクリエイトし続けている。
また、CMT Productionとして、音楽制作を中心に、グラフィックデザイン、企業PRなど、多岐に渡り活動している。


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